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賃料上昇が続く物流不動産マーケットとテナントが抱える課題

東京圏の物流不動産マーケットでは、空室率の低下が著しく、竣工前の早い段階で成約となる物件が急増。いわゆる「床不足」のマーケット環境となっている。需給がタイトな状況が続くことから東京圏の物流不動産の賃料水準は上昇傾向を維持している。このようなオーナー優位のマーケット環境下では、テナントにとって選択肢が限られることが大きな課題となっている。

2020年 02月 02日

空室不足の東京物流不動産マーケット

今後10年は需要が拡大

東京圏における先進大型物流施設に対する空室率は2%台まで低下し、湾岸エリアの物流施設では空室率0%と空室がまったくないという状況にある。新たに物件が供給されているが、多くは竣工時には100%契約済みとなり、空室の増加にはつながっていない。供給予定として発表される物件でも竣工前の早い段階で契約済みとなる物件が増加しており、竣工済みの物件に空室がなく、テナントが新規供給を待たざるを得ないような非常に需給がタイトな状況は、少なくとも2-3年は続くと考えられる。

長期的にみても、消費行動の変化や労働人口の減少といった社会全体の大きな変化を背景とした、先進大型物流施設に対するEコマース企業による需要拡大や、省人化設備や自動化設備導入のための需要拡大も今後10年は続くトレンドであり、需給がゆるむ時期は遠い将来のことになりそうだ。東京ロジスティクス マーケットサマリーを見る)

 

物流不動産の賃料は上昇続く

突然の賃料値上げに愕然としないように対応策を早期に検討すべき(写真はイメージ)

2017年に東京都心から40-60kmを環状に結ぶ圏央道(Ken-O Express way)の大部分が完成したことで、東京圏の物流不動産マーケットは高速道路網の整備によるエリアの拡大期から、成熟期に入ったと言える。成熟期にある物流不動産マーケットにおいて需給が非常にタイトな状況が続くことから東京圏の物流施設の賃料は引き続き上昇傾向にあるといえる。

以前の拡大期には、新規に物件が供給されることで地理的に広がった新たな物流エリアにおいては既存のエリアの相場賃料より賃料が安く設定された物流施設が供給され、賃料の安さで勝負するようなトレンドが見られた。そのため既存の各物流エリアにおいても、新たな物流エリアへの移転という選択肢をもつ既存テナントに対して、オーナーが賃料を上げるのは難しく、契約更新の場合においても賃料はほぼ横ばいで推移していた。

一方、現在のような物流不動産マーケットの成熟期では、既存の物流エリアに供給される新たな物流施設は通常既に形成された相場水準で賃料が設定されるところ、タイトな需給バランスを反映した相場水準より賃料の高い物流施設が供給されている。既存の物流施設においても、新規物件の高い賃料を参考に、代替選択肢のない既存テナントに対して、オーナーは強気の交渉で賃料増額につながっている。

エリアによっては再契約時に10-15%近い賃料増額がなされるケースもあり、利益の増加になるオーナーにとっては心地よい状況であるが、コスト増加になる既存テナントにとっては厳しい状況となっている。

自社開発も困難な状況

準備のないまま現行契約の終了を向かえた場合、既存テナントは事業を継続するためにはオーナーの賃料増額の要求を受け入れる以外の選択肢がない。可能性としては他の物流施設への移転や、自社で土地を購入し物流施設を建築するといった方法が考えられるが、需給がひっ迫した状況では移転先を見つけるのは難しく、土地に関しても、物流施設のデベロッパーが開発用地として高値で購入するケースが多くなっているため事業会社が購入できる候補を見つけるのは難しい。

現在の物流不動産マーケットはオーナー優位

東京圏: 大型物流施設 - 賃料&空室率

出所:JLL 2019.10

賃料値上げへの検討はできるだけ早期に

現在の市場環境下でそれらの選択肢を実行に移すのであれば、遅くとも契約終了の2-3年前から賃貸借契約の交渉準備や移転先の選定等の対応を検討し始める必要がある。空室率が歴史的に低い環境において、1年後に空室になる物件で、かつ面積や立地などの希望条件に合致するものを見つけるのは非常に困難だが、3年後の移転であれば、建築着工前の物流施設も候補となり選択肢は多くなる。ただし賃料だけでなく輸配送コストを含めた物流コスト全体や他の複数拠点との配置を含めて、現在の拠点維持と移転を比較するのは難しく、かけられる時間は多ければ多い方がよいだろう。

JLLでは東京圏の先進大型物流施設の賃料は2019年に2.0%の上昇、2020年と2021年にはそれぞれ2.3%の賃料上昇が続くと考えている。テナントにとって賃料上昇への対応を検討するのに早すぎることはないようだ。

(JLL日本 リサーチ事業部  チーフアナリスト 谷口 学)