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全国の商業地の地価公示で最大の下落となった大阪“ミナミ”-実勢価格との乖離が目立つ

2021年3月に発表された公示地価において、大阪の主要商業地である“ミナミ”の地価が大幅下落したものの、土地取引の実勢価格は公示地価を上回っている。アフターコロナを見越して国内外の不動産投資家が投資機会を虎視眈々と狙っている。

2021年 04月 28日

大阪ミナミの地価下落が鮮明に

2021年3月23日、国土交通省は2021年の公示地価(1月1日時点)を発表した。大阪府の商業地は8年ぶりに下落し、全国で最大の下落幅で2%を超えた。市内中心部の“ミナミ”の下落率は14.4-28%と著しく、全国の商業地の下落率の上位10地点のうち8地点がミナミという結果となった。この大幅下落を投資家はどのように受け止め、今後のどのように市場と向き合うべきかどうかについて考察する。

全国商業地の下落率上位10地点

商       業       地

標 準 地 番 号

都道府県

標 準 地 の 所 在 地

令和2年公示価格

令和3年公示価格

変動率

 

 

 

 

円/㎡

円/㎡

大阪中央5-19

大阪府

大阪市中央区道頓堀1丁目37番外

8,050,000

5,800,000

△ 28.0

 

 

 

『道頓堀1-6-10』

 

 

 

 

 

 

 づぼらや 道頓堀店(2020年6月 閉店)

 

 

 

大阪中央5-2

大阪府

大阪市中央区宗右衛門町46番1外

28,700,000

21,100,000

△ 26.5

 

 

 

『宗右衛門町7-2』

 

 

 

 

 

 

クリサス心斎橋

 

 

 

大阪中央5-15

大阪府

大阪市中央区難波1丁目14番22外

10,300,000

7,650,000

△ 25.7

 

 

 

『難波1-8-2』

 

 

 

 

 

 

 戎橋筋商店街内

 

 

 

大阪中央5-24

大阪府

大阪市中央区日本橋1丁目16番4外

1,500,000

1,160,000

△ 22.7

 

 

 

『日本橋1-21-6』

 

 

 

 

 

 

 黒門市場内

 

 

 

大阪中央5-23

大阪府

大阪市中央区心斎橋筋2丁目39番1

18,700,000

14,900,000

△ 20.3

 

 

 

『心斎橋筋2-8-5』

 

 

 

 

 

 

 心斎橋筋商店街内

 

 

 

大阪中央5-35

大阪府

大阪市中央区千日前2丁目156番9

795,000

660,000

△ 17.0

 

 

 

『千日前2-4-13』

 

 

 

 

 

 

 千日前中央通り商店街沿い

 

 

 

名古屋中5-28

愛知県

名古屋市中区錦3丁目914番1外

1,840,000

1,560,000

△ 15.2

 

 

 

『錦3-9-14』

 

 

 

大阪中央5-20

大阪府

大阪市中央区西心斎橋2丁目10番6外

3,600,000

3,060,000

△ 15.0

 

 

 

『西心斎橋2-1-25』

 

 

 

 

 

 

 心斎橋W-Place

 

 

 

大阪中央5-25

大阪府

大阪市中央区心斎橋筋1丁目35番3外

2,630,000

2,250,000

△ 14.4

 

 

 

『心斎橋筋1-4-29』

 

 

 

 

 

 

 ザ・ダイソーフェリチタ心斎橋店

 

 

 

京都東山5-1

京都府

京都市東山区新橋通大和大路東入2丁目清本町357番

1,510,000

1,300,000

△ 13.9

地価下落の背景

地価下落の背景は、コロナ禍により国内外の観光客が激減し、物販及び飲食店舗、ホテルの収益性が悪化したことにある。近年のミナミの地価は、ドラッグストアの動向によって上昇・下落の要因がほぼ完結する。

インバウンド需要が本格化する2014年以前のミナミの店舗賃料の上限は概ね月額坪あたり200,000円であった。2015年、社会現象ともいうべく“爆買い”を追い風にドラッグストアの熾烈な新規出店競争がはじまり、賃料の上昇が加速し、コロナ禍以前の2019年にドラッグストアが新規出店をする際の賃料は月額坪あたり250,000円程度と20-30%上昇した。

そして、2020年、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、ドラッグストアはこれまでの新規出店から閉店が相次ぐ業態に一変。これによって、ドラッグストアによって押し上げられていたミナミの賃料上昇が剥落し、地価の下落に反映したといえる。

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実勢価格の動向

2020年12月、コロナ禍の最中、全国の商業地の地価公示において最大の下落率となった大阪中央5-19地点(大阪市中央区道頓堀道頓堀1-6-10、旧「づぼらや 道頓堀店」)の近接地で売買取引が成立した。売主はセガサミー株式会社。セガサミーHDによると、この土地取引で得た譲渡益は約152億円と発表している。

同取引を登記情報より推察すると、1㎡あたりの譲渡益は約950万円となる。セガサミー社の土地取得時に近い2012年1月1日時点での大阪中央5-19地点の公示地価は171万円。この水準に今回の取引の譲渡益を加えると1㎡あたり1,100万円を超えると推察される。この水準は前年比28.0%下落した大阪中央5-19地点の今回の公示地価580万円の2倍近くになる。実際の取引価格がこの水準を下回るとは考えにくく、ミナミの土地取引の実勢価格は公示地価を上回っていると推察される。

買主は投資家の模様である。地価公示は大きく下落したものの、実勢価格は高水準を維持している。確かに足もとではコロナ禍で、国内のどの街よりもミナミが大きなダメージを受けていることは間違いない。しかしながら、コロナは時間の経過とともにいつか収束する。今回の新型コロナウイルス感染拡大によって、ミナミの人を惹きつける力、魅力が低下したわけではなく、国内の観光客、次いでインバウンドとコロナ後には賑わいが戻る。こうした将来性を見越して、実際に投資家が物件を取得している事実があり、この他にも、同様の見方で投資機会をうかがう投資家が後を絶たない。

地価公示は大きく下落し、大阪に対するネガティブなアナウンスとなったが、大阪への投資を検討する投資家においては価格調整(下落)待ちをしていては、投資機会を逸する結果となろう。

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連絡先 山口 武

JLL日本 関西支社 リサーチディレクター

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