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都心5区のフレキシブル・オフィス市場が新たなステージへ

東京都心5区におけるフレキシブル・オフィス市場は特にコワーキング・オフィスの新規供給増にけん引され、2019年から引き続き市場規模が拡大している。2020年末まで同市場は39万㎡超まで増加するとみられ、2019年末の約2倍の供給量となりそうだ。2019年4月から施行開始となった働き方改革関連法が需要を後押しし、同市場は黎明期から成長期へと新たなステージへし突入した。

2020年 03月 17日

さらなる拡大が続くフレキシブル・オフィス市場

フレキシブル・オフィスで本格的に活用する大手企業が増加

現在、東京都心5区におけるフレキシブル・オフィス市場のコワーキング・オフィスの総貸床面積は約146,100㎡まで拡大しており、サービス・オフィスの総貸床面積約96,700㎡を大幅に上回っている(2019年末時点)。2019年における新規拠点の半分以上が施設利用者のコミュニティ構築を重視した共有オフィスであり、フリーアドレス席や共有ラウンジを設けている拠点が多い。

東京都心5区におけるサービス・オフィス対コワーキング・オフィス

 

サービス・オフィス

コワーキング・オフィス
(コミュニティ型)

市場参入

2000年以前

2007年

貸床面積(㎡)

96,700

146,100

拠点数

92

72

定義

コンシェルジュ、通訳等のサービスを提供しているオフィス。他の利用者と共有して利用するものの、完全個室のものが大半を占める。

他企業とのコミュニケーションを促進する「フリーアドレス」(席を自由に選択できる)制オフィス。米国、欧州をはじめ、アジア太平洋の不動産市場で普及。

トレンド

堅調な需要のため、

安定的に拡大している

大手企業からの需要が高まる

主な

オペレーター

(都心5区における面積ベースの市場割合)

リージャス(57%)

サーブコープ (15%)

クロス・オフィス(11%)

WeWork (60%)

ワークスタイリング(三井不動産)(17%)

ビジネス・エアポート(東急不動産)(9%)

出典:JLL日本 リサーチ事業部

同市場の拡大をけん引している成長ドライバーは2つ存在する。1つは大手企業だ。大手企業の大規模入居事例が増加しており、1フロアまたは1棟全体を利用するケースや、本社の事業部単位ないし子会社の本社機能をフレキシブル・オフィスに展開する企業も見られる。企業は不動産関連ポートフォリオの最適化に注力しているように見受けられる。

これに対して、国内デベロッパー・不動産会社の三菱地所、三井不動産、東急不動産、日本土地建物、ザイマックスなどもコワーキング・オフィス、またはサービス・オフィスの展開を開始しており、同市場の拡大傾向は勢いを増している。

市場拡大をさらに牽引するドライバー

2つ目の成長ドライバーは、サテライト・オフィスやテレワーク(本社から離れて作業する働き方)制度の普及である。働き方改革関連法案の施行により、企業は社員の生産性向上等を視野に、在宅勤務やサテライト・オフィスの活用を促している。その結果、ターミナル等の駅近くにもコワーキング・オフィスが多数展開されるようになっている。更に、子育て中の従業員のワーク・ライフ・バランスの実現のために、週2-3回等のペースで自宅近くのサテライト・オフィスを利用するように推奨するようになっている。

東京フレキシブル・オフィス市場は黎明期から成長期へ

一方、従来型のフレキシブル・オフィスであるサービス・オフィスの世界最大手リージャスも既存の事業の拡大を進めている。同社は2019年4月に貸会議室の国内最大手事業者であるTKPの傘下に入って以降、フレキシブル・オフィスと貸会議室による複合型新規拠点や既存施設の増床、1棟展開などに力を入れている。また他のオペレーターもサービス・オフィス市場に注目し、市場に新規参入している。例えば、野村不動産は「Human First Time」、三菱地所は「Circles」といった新規シリーズを展開し始めており、今後5年間で都内に合計10-15拠点を開業すると発表しており、市場の動きが活発化している。

しかし、フレキシブル・オフィス市場の拡大が先行するニューヨーク(全オフィス・ストックに対して4%)、ロンドン(全オフィス・ストックに対して3%)と比較すると東京のフレキシブル・オフィス市場は発展途上(2019年第3四半期時点ではAグレード・オフィスのストックに対してわずか0.9%)であり、東京市場の直近の拡大傾向を鑑みると黎明期から成長期にシフトしたといえるだろう。

2019年9月にIPOの撤回を余儀なくされたWeWorkの動向にもかかわらず、柔軟な働き方への大手企業の注目度は引き続き高く、同市場は今後も拡大を続けるとみている。

(執筆:JLL日本 リサーチ事業部 アナリスト 中丸 友世)

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