記事

東京でコワーキングスペース急増

東京市場でフレキシブル・スペースが急成長を遂げている。フレキシブル・スペースとはサービス・オフィスやコワーキング・スペース、サテライトオフィス等の外部貸しの共有オフィスを指す。「フレキシブル(柔軟)に利用できる」ことが由来だが、中でも東京ではコワーキング・スペースが急速に増加している。

2018年 08月 28日

「働き方改革」がきっかけ

JLL日本が2018年7月に発表した調査レポート「フレキシブル・スペース:アジア太平洋地域における事業展望」(翻訳版)によると、アジア太平洋地域の主要12都市においてフレキシブル・スペースのストックは2014年-2017年で年平均成長率35.7%を記録し、米国(25.7%)や欧州(21.6%)を大きく上回る結果となった。アジア太平洋地域の成長力は群を抜くが、欧米においても20%超の成長を遂げており、そのニーズは世界的に拡大していることが窺える。

先のレポートにおいて調査対象の1つとなった東京も同様だ。JLL日本の調査レポート「東京オフィス市場で拡大するコワーキング・スペース」を見れば、東京都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)でフレキシブル・スペースの床面積が急拡大していることがわかる。2013年以降面積ベースで拡大を続けてきたが、2017年からそのペースは加速。2017年は16,902㎡、2018年には32,624㎡へとほぼ倍増し、この2年間で62,608㎡になると見込まれている。この規模は2018年に東京・日本橋に竣工したAグレードビル「太陽生命日本橋ビル」の延床面積(60,100㎡)を上回る供給量だ。

東京でフレキシブル・スペースが急拡大している理由について、JLL日本 リサーチ事業部 大東雄人は「少子高齢化による『働き方改革』への対応」と分析する。人口減少社会にあって労働生産性の改善は企業にとって喫緊の課題だ。大東は「通勤時間を削減して労働効率を高めるという考え方が大手企業に広がる中、場所的・時間的に柔軟に使えるフレキシブル・スペースが求められている」と指摘。特に床面積を柔軟に変更できる点が魅力だ。例えば、外資系企業はプロジェクトごとに柔軟に人材を調整する傾向にあり、プロジェクトの拡大・縮小に合わせてオフィス床を柔軟に調整したい。しかし、一般的な賃貸借契約では内装造作工事の投資負担や保証金の負担を踏まえても床面積が固定されてしまう。ところがフレキシブル・スペースなら利用期間は1カ月単位のため、仮にプロジェクトが頓挫しても早期撤退が可能となる。これが賃貸借契約になると解約まで6カ月程度を要することになる。

WeWork上陸で拠点当たり平均面積が倍以上に- 東京でコワーキング急増

これまで中小ビルの空室をコワーキングやシェアオフィスとして外部貸しする「空室の有効活用」と認識されていたが、現在は利便性の高い都心部のAグレードビル内にラウンジ等の共用スペースを充実させた大箱タイプのコワーキングが次々と開設されている。今やAグレードオフィスに欠かせないインフラ設備といえるだろう。

振り返るとフレキシブル・スペースのトレンドも時々で変化している。2000年-2012年頃にかけて供給されたのはサービス・オフィスが大半を占める。2017年になると三井不動産や東急電鉄が運営する法人会員向けのシェアオフィスやサテライトオフィスが台頭。そして2018年は日本上陸を果たした米国発のコワーキング「WeWork」が存在感を急速に高めている。WeWorkは「アークヒルズサウスタワー」や「GINZA SIX」に大型施設を次々と開設しており、今年9月に大阪・難波で竣工予定の「なんばスカイオ」の大口テナントとなる。この出店攻勢によって東京のフレキシブル・スペースの拠点あたり平均面積も1000㎡前後から2258㎡へ拡大(2018年6月末時点)している。

国内大手デベも参戦- 東京でコワーキング急増

日本のデベロッパーもコワーキング運営事業に積極的だ。三井不動産は2017年4月に法人会員向け多拠点型シェアオフィス「WORKSTYLING」を開始し、2017年12月には東京・八重洲に床面積2000㎡に及ぶ旗艦店を開業した。また2018年3月に開業した「東京ミッドタウン日比谷」内にビジネス支援拠点「BASE Q」を開設。森ビルは2017年12月に六本木ヒルズ森タワー内に「公園」をコンセプトとしたコワーキング・スペース「Park6」を開設。NTT都市開発は2018年4月に保有ビル内でコワーキング事業「LIFORK(リフォーク)」を開始した。その他、東急不動産の「ビジネスエアポート」、東京建物のシェアオフィス「+OURS(プラスアワーズ)」や日本土地建物の「SENQ(センク)」等、その顔ぶれは実に多彩だ。大東によると「インキュベーションやベンチャー支援を行う施設が多く、デベロッパー自らベンチャー企業の成長を支援し、将来的にAグレードオフィスのテナント候補を『青田買い』する側面も見られる。また、鉄道会社が事業展開するサテライトオフィスは自社沿線に出店することで電車内の混雑緩和も目的にしている。デベロッパーは施設ごとにコンセプトを細分化している」とし、一括りに「コワーキング」といえども、その特長は大きく異なることが窺える。

コワーキングの供給は今後も拡大していきそうだが、一方で既存の賃貸需要を低下させるとの懸念もある。これに対して大東は「短期的には賃貸需要に何らかの影響が出るかもしれない。海外では2030年までにフレキシブル・スペースが賃貸市場の30%まで拡大すると予測されているが、フレキシブル・スペース本社機能がすべてコワーキングに変わるとは考えにくい」との見解を示している。

柔軟に働く場所や働く環境を選択できるフレキシブル・スペースは一般事業会社の「働き方改革」に寄与する一方、デベロッパーにとってはベンチャー支援やテナント企業の突発的な床需要の手当てにもなる。WeWorkのように施設利用者同士を繋げるコミュニティネットワークへのアクセス権を売りにするケースもある。フレキシブル・スペースに対する利用ニーズは多岐にわたり、それゆえ東京のみならず、世界的に拡大していくのではないだろうか。

人手不足で求められる労働生産性の向上と従業員を確保する方法とは?