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ウイルス感染対策としてのオフィス分散、大阪へ

2011年3月、東日本大震災発生時にリスク対策の一環として大阪にオフィスを開設する機運が高まったのは記憶に新しい。今般、コロナ禍において首都圏の事業活動が停滞する中、再び大阪へのオフィス需要は喚起されるのだろうか。図らずもコロナによって「東京でなくても働ける」ことが証明され、むしろ「東京に集中することの弊害」が浮き彫りになったのではないか。東京に比べてオフィス・生活コストの負担が圧倒的に軽く、ワークライフバランスを実現しやすい大阪、地方都市の魅力に多くの企業が注目しつつあることは自然な流れといえよう。

2020年 08月 11日
コロナ禍がワークプレイス戦略再考のきっかけに

新型コロナウイルスに対する感染防止策として多くの企業が実施したリモートワーク。半ば強制的な措置であったにも関わらず、業務への支障が限定的でワークプレイス戦略の再考を促すきっかけとなった。

リモートワークは、①在宅勤務②モバイルワーク③サテライトオフィス勤務の3つの形態からなる。在宅勤務だけでは従業員同士の直接的なコミュニケーションが阻害される。そこで、本社オフィスを残しつつ必要に応じて働く場を選択できる「オフィスの分散化」がこれまで以上に進展することが予想される。

モバイルワークは営業職などオフィス外勤務の多い従業員のためにターミナル駅周辺の共用オフィスやカフェなどで使用される。これまでは従業員の活動を効率的に生産性を高める目的で使用されるケースが多かった。しかし、今後は本社オフィスの分散や縮小という目的も加わって、さらに促進する企業が増えることが予想される。サテライトオフィスは、従業員の生活圏に近い場所に設置し、在宅勤務と本社オフィスの中継、中間的な機能として、今後、存在感が高まることが予想される。

こうした従業員の多様な働き方を実現するリモートワークを組み合わせた柔軟性のあるワークプレイス戦略がwithコロナ/afterコロナ時代での主流になっていくだろう。

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真の「オフィスの分散化」は東京(首都圏)以外の都市へ

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、オフィス不要論を耳にする機会が増えてきた。しかし、その多くは在宅勤務を恒久的・長期的な制度とし、本社オフィスの役割や機能を再検討するものとなっている。

オフィス不要論の是非については、足もとで各企業の業績が悪化しコストダウンのために縮小しようとする議論と混在していることが否めない。ここではBCP(事業継続計画)の観点として、1つの事業所に従業員が集中していることへのリスクに着眼する。

このリスク回避のキーワードは分散である。真の意味で「オフィスの分散化」を実現するために必要なことは、東京(首都圏)以外にオフィスを開設することではないだろうか。2020年8月に入って、再び新型コロナウイルスの感染が拡大し、日本政府においても、東京一極集中を是正し、地方分散を促進すべきという声が上がってきている。

JLL日本 関西支社 リサーチディレクター 山口 武は「事業運営上のリスク分散という観点から、本社オフィスに全ての機能を集約することを見直すべきではないか。都内もしくは首都圏だけでオフィスを分散しても、新型コロナウイルスに代表される感染症や災害に対するリスクは回避できない」と警鐘を鳴らす。

コロナ禍における緊急事態宣言の対象期間は地域ごとに異なり、感染者数が相対的に多かった首都圏1都3県+北海道は宣言解除が他の府県に比べて遅れた。山口は「今回の新型コロナウイルスの感染拡大状況をみても、経済活動が止まる期間は地域によって異なった。そのロスを低減する意味でも、オフィスを分散するならば地方都市に注目すべき」と指摘する。

東日本大震災発生時における大阪、地方都市へのオフィス分散

非常事態において地方都市にオフィス分散する機運は東日本大震災発生当時を想起させる。当時、東京に日本本社を持つ外資系企業が震災の影響を回避するため「日本第2の都市」大阪へオフィスを開設する機運が高まった。しかし、実際にオフィスを開設した事例はわずかで、サービスオフィスやホテルをオフィスとして一時使用するにとどまった。

本格的にオフィスを開設しなかった理由は企業ごとに様々だが、東京における震災被害が短期間で収まったことが大きな理由として挙げられる。BCP(事業継続計画)の観点から、大阪へオフィスを開設するための情報収集を行うものの、検討している間に震災リスクが徐々に風化した。また、東京のオフィスビルは長時間の非常用発電、制振・免震を備える高機能なオフィスビルが多く、質の高い災害対策を講じているビルが多かったこともオフィスを新規開設するまでには至らなかった理由といえる。

コロナ禍と震災は同じ非常事態でも状況が異なる

しかし、今回のコロナ禍は震災時と状況が大きく異なる。震災が東日本に限定され、時間的にも短期的に収束したのに対して、コロナ禍は依然として感染拡大が収束する気配がなく、収束への道筋も見えない状況が続いている。そのため、ワークプレイス戦略は、より長期的視点に立って対策を施していく必要がある。特に、働き方が大きく変わっていく中、国民全体がウイルス感染リスクを経験したことは、震災時以上のオフィス戦略再考を促す強烈な衝撃といえよう。

山口は「近年、多くの企業が働き方改革の促進を実現するために、劇的に進化したテクノロジーの恩恵を受けて、業務を変革させていた。新型コロナは働き方改革やオフィス戦略の優先順位を変化させ、ワークプレイスを構造変化させるきっかけとなるだろう」との見解を示す。今までの既成概念であった「ビジネス=東京」という価値観を覆し、「東京でなくても良いのでは」という価値観が企業側に広がる可能性があると指摘する。

オフィス・生活コストの負担が軽い、ワークライフバランスを実現しやすい大阪の魅力

東京から大阪、地方都市へオフィス分散を検討したり、東京の本社オフィスを閉鎖して全面リモートワークに切り替える企業も出始めているが、現時点では経営判断が早く、フットワークが軽いベンチャー企業が中心である。

一方、大手企業が本社オフィスを東京以外に移転させるのは容易ではない。まして、地方都市ならどこでもいいというわけではなく、とりわけ、近年、多くの企業は働き方改革の促進や労働需給の逼迫など人材に関わる課題を抱えている。

こうした背景を鑑みると、大都市圏が現実的な選択肢となろう。この点、大阪は東京に次ぐ国内第2の大都市で、あらゆる都市機能を備えている。にもかかわらず、東京に比べてオフォス・生活コストの負担が軽い。近年、働き方改革によって事業所のあり方が企業側の事情から従業員本位に変化してきている中、従業員のワークライフバランスを重視するのであれば、大阪は魅力のある都市といえよう。

東京と大阪のAグレードのオフィス賃料を比較すると、2020年第2四半期時点で東京は大阪の1.7倍ある。商業地の地価(最高地点)では3.5倍。ワーカーの通勤時間は1.2倍、1日あたり20分(往復)の差があり、年間240日出社で換算すると4,800分(80時間)もの差が生じる。さらに満員電車の混雑ぶりや乗車時間によるワーカーの疲労などを加味すれば途方もない差といえよう。

また、居住における家賃の差はもちろん、住宅取得価格も大阪のほうが圧倒的に値ごろである。山口によると「大阪の優位性は、東京に比べて快適でグレードの高いビルで勤務できること、通勤に割くエネルギーが少ないことにあるが、それ以上に余暇の過ごし方にも格段に優れている。東京で近場の行楽地(軽井沢、箱根、湘南海岸など)で過ごそうと思ったら、早朝に出発し深夜の帰宅が余儀なくされるだろうが、大阪であれば、半日の時間であっても行楽地(六甲、須磨海岸など)でゆっくりと過ごすことが十分可能だ」という。

街がコンパクトであることは、そのまま「職住近接」した利便性の高い街といえ、充実したワークライフバランスを過ごすには非常に適している。

大阪のオフィス新規供給増で選択肢が増える

ここ数年、大阪のオフィス需給は著しく逼迫し「移転どころか床を確保することすらできない」状態が続いていた。しかし、今般、コロナ禍の影響で一部の企業でオフィス床の解約や減床する動きが見られるようになったため、ようやく既存のオフィスビルから空室が出始めた。コロナ禍の影響が限定的で床需要が旺盛な企業は確保に動いている。

ただ、これらの動きの大半は長期的な展望によるワークプレイス戦略に基づくものではなく、これまで不足していた床を確保するに過ぎない。まだコロナ禍の最中であり、今後のワークプレイス戦略を描けていないのが背景であることと、新たなオフィス作りをする受け皿になるような魅力的なスペースでないことが実情だろう。

しかし、大阪は2020年代半ばに向けて、大規模な再開発によるオフィスの新規供給が相次いで行われる。オフィス以外にも住宅、商業、文化施設からなる複合開発が多く、インフラの整備も進み、職住環境はさらに向上する見込みである。

今後、コロナ禍の影響が長期化すると予想される中で、企業がこれまでのワークプレイス戦略を抜本的に見直した場合、大阪ではその受け皿として魅力あるオフィスビルが目白押しである。今後、事業上のリスク分散という観点で、東京に集中する機能の一部を大阪に分散させるには絶好の機会が到来しようとしている。1990年代前半のバブル経済崩壊期以後、東京への一極集中が加速したが、今回のコロナ禍を経て、ワークプレイスが構造的に変化し、西日本本社とまではいえなくとも、再び西日本拠点という概念が到来することが期待される。

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