記事

国内の物流施設投資市場の状況

コロナ禍による社会環境の変化に適応した物流施設に投資マネーが集中している。なお低下し続ける利回りが示唆するものを探るとともに、国内デベロッパーが海外リートを組成するなどの、物流施設投資市場における新たな動きを紹介する。

2021年 12月 22日
さらに勢いの増す物流施設投資

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、アセットタイプとしての魅力を最も増したのが「物流施設」であることは疑いないであろう。背景については、様々なところで指摘されるように、リモートワークや外出控えによるeコマースの伸長から需要増大が期待できる投資先(積極的選択)である点や、ホテルや都心型商業施設などのインバウンドの影響を大きく受けるアセットタイプの代替投資(消極的選択)として認識されている点が挙げられる。その潮流をリードしているのがグローバル投資家であり、世界的な金融緩和環境において積み上がるドライパウダー(未投資状態の待機資金)を振り向けられる先である、という認識が広がっているといえる。

物流施設の投資市場に関するレポートはこちら

賃料上昇を見込んだ投資へ

この「物流施設」への一極集中ともいえる投資の状況により、取引利回りの低下も著しい。下図は、プライムの物流施設(赤線)とAグレードオフィス(黒線)における、直近10年間の取引事例のうち、各年で最も低いNOI利回りの事例の推移を示している。オフィスは2014年以降利回りの下げ止まり傾向が見えるのに対して、物流施設は一貫して利回りが低下している。

出所:JLL日本

購読

さらにインサイトをお探しですか?アップデートを見逃さない

グローバルな事業用不動産市場から最新のニュース、インサイト、投資機会を受け取る。

これらの利回りの推移からは、2014年以降、物流施設とオフィスとのギャップが縮小していることが読み取れる。

不動産の利回りの構成要素は様々な理論的、実務的な指摘がなされているが、ここでは「不動産の利回り=リスクフリーレート+不動産のリスクプレミアム-収益の成長率」という構成要素に分解して導出する方法に着目したい。ここでのリスクフリーレートは共通であり、「収益の成長率」は概ね賃料の成長率と置き換えることが可能であることから、この2つの利回りのギャップからは、「物流施設に対するリスクプレミアムの低下」と「物流施設に対する継続的な賃料上昇期待」の2点を指摘できる。

1点目の「物流施設に対するリスクプレミアムの低下」は、冒頭に述べたコロナ禍でのアセットタイプの選択や、Jリート・私募リート・私募ファンドといった投資ビークルの広がり及び投資家のグローバリゼーションによる流動性の増大などが要因として挙げられる。ただし、これは最近始まったことではなく、この10年ほどで継続的に観測されている事象である。

特徴的なのは2点目の「物流施設に対する継続的な賃料上昇期待」である。今までの物流施設投資においても、何らかの理由でテナントとの契約賃料と市場賃料との間に乖離がある場合において契約賃料が市場賃料へ収斂していくことは、一般的に想定されていた。だが、市場賃料そのものの継続的な上昇を想定する投資家はほとんどなく、限定的な上昇を想定するにとどまっていた。ところが、ここ数年、物流施設の賃料上昇傾向が一定期間継続することで、この上昇が将来中長期にわたって継続する期待を投資家に持たせていると考えられることは、特筆すべき点である。

新たな売却先の確保の動き

上記で述べた投資利回りの低下は、投資家の属性を大きく変えたといってもよい。数年前まではJリートが最終的な買手として非常に大きな存在感を示していた。実際に、デベロッパーが物流施設を開発して系列のJリート等に売却するというキャピタルサイクルが至極一般的であった。ところが、第三者間の取引における利回りがJリートの取得目線を大きく下回る状況となり、デベロッパーが系列Jリートへの売却を再考しかねない局面となっている。Jリートはポートフォリオ利回りや既存投資家における配当利回りの低下を引き起こすような利回りでの取得は基本的に難しい。したがって、デベロッパーは系列のJリート以外への売却も検討する状況を引き起こしている。

かくしてデベロッパーは、Jリート以外に私募リートや私募ファンドを組成することで、より低い利回りでも取得できるビークルに売却する動きが続いている。最近の特徴的な事例として、海外にリートを立ち上げる、というものが挙げられる。2021年11月26日に、大和ハウス工業は、シンガポールにリートを上場させると発表したが、取得資産はすべて日本国内に存する物流施設である。大和ハウス工業には、系列内に大和ハウスリートを有しているが、安定的、継続的な売却先の一つとして海外でのリートを立ち上げた、と言える。

今後も、利回りが低下する環境の中でも投資を継続する新たな動きが出てくると思われることから、引き続き注目されるアセットタイプである。

日本の物流不動産投資市場の最新動向はこちら

連絡先 佐久間 譲治

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 シニアディレクター

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。

あなたの投資の目標は何ですか?

世界中にある投資機会と資本源をご覧下さい。そして、JLLがどのようにお客様の投資目標の達成を支援できるかお尋ねください。