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大型物件の取引が増加する東京オフィス市場

ここ最近、いわゆる「三桁億円」のオフィスビルの取引が増加している。コロナによる影響が長期化し、オフィス需要への見方がマーケットでいまひとつ固まらない中、大型のオフィスビルが続々と取引されている。現在の状況について考察してみたい。

2021年 09月 14日
2021年上半期のセクター別投資額割合でオフィス45%

まずは2021年上半期の取引高から見ていきたい。国内の不動産投資額は1兆8,427億円となり、前年の2兆6,171億円と比較しておよそ29%の減少となっている。減少した主な理由としては、①取引熱は依然として高いものの、事業会社などによる売却を除けば私募ファンドを中心に売却案件が減少している、②大型のポートフォリオ案件などが特に第2四半期にはほとんど見られず、そうした大型のディールで存在感を出す海外投資家の動きが鈍いこと、などが挙げられよう。

その一方で投資セクターとマーケット別に分析してみると興味深い点がいくつかある。まずセクター別の投資金額別割合をみると、オフィスの割合が前年の37%から2021年上半期は45%へと増加し、昨年来から人気セクターとなっている物流賃貸住宅などは現状維持、あるいは大きくそのシェアを減らしている。ほぼ2件のディールに1件はオフィスが取引されている状況である。またマーケット別にみると東京都心5区の割合がおよそ4割に伸びてきており、オフィスビルの取引が増加したことを裏付けているといえよう。

三桁億円の大型ビル取引が増加する理由

こうして徐々にオフィスの取引が増加しつつある中、いわゆる「三桁億円」の大型オフィスビルの取引が第3四半期に入って増加する傾向にある。第2四半期までに徐々にシェアを回復しつつあるオフィス投資が、こうした大型案件を通じて再び「最も投資されるセクター」に返り咲きつつあるといえるが、コロナ以降の働き方が多様化した結果、オフィスを必ずしも必要としない、あるいはオフィスを構えてもコロナ前の床面積から減少させるという動きがあるなど、オフィス需要への見方がいまだ固まっていない状況であるといえる。そんな中でなぜ大型案件が動くのか、それは最近の取引を見てみるとおぼろげながらに見えてくる。

2021年8月半ばに日本ビルファンド投資法人(NBF)が1物件の取得と4物件の売却を行うと発表した。親会社である三井不動産から飯田橋グランブルームの持分を取得し、御茶ノ水、中野坂上と大阪、福島の4物件を、ヒューリックをはじめとする外部の買い手に売却するというものである。都内の2物件についてはそれぞれ御茶ノ水が161億円、中野坂上が400億円と「三桁億円」の物件であり、大型案件とカテゴライズされよう。ここで注目したいのが中野坂上サンブライトツインの売却である。NBFは本物件の売却について「今後の収益性の向上が見込めないこと」を理由に挙げているが、まさにここがポイントであるといえる。

中野坂上という立地は隣接しているにせよ、都心5区に立地しているわけではない。こうしたいわゆる「都心の外周」に立地する物件群は需給バランスの影響をより受けやすく、基準階面積の規模が大きければ大きいほど、需給バランスが緩くなった場合の大規模な空室を抱えるリスクが高いといえる。安定的に稼働している物件への投資を通じて投資家に還元しているREITの特性上、空室が増えることを許容するのは難しい。今後の需給の状況がいまひとつ見通せない中、潜在的なリスクが顕在化する前に売却することはREITとして当然の動きであるといえよう。

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バリューアッド投資家が着目する都心外周部の大型オフィス

一方で買い手側としては一気にエクイティを消化できる絶好の機会である。また空室を抱える大型ビルを取得したとしてそれは織り込み済みであることが多い。つまりは取得後から空室を埋めていき、再び満室稼働のビルとして売却するプレーヤーが取得できる千載一遇のチャンスでもある。こうした「バリューアッド」投資家が抱えるエクイティは「コア」の数倍にもふくれあがっているとされることから、今後空室を許容しないREITをはじめとしたコア系投資家による都心外周の大型案件をバリューアッド系投資家が取得していくというケースが増加する可能性があるといえる。

コロナを経過しても不動産投資に向かう資金は増える一方であり、そこに良好な資金調達環境を追い風に投資熱はますます高まるばかりである。そうした投資の向かう先にオフィスが再び脚光を浴びつつある。今も昔も不動産投資の「花形」はやはりオフィスビルであることから、オフィスビルの復権が不動産投資市場を一段と活性化させることは疑いのないところであろう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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