「人口動態」と「問合せ増加率ランキング」にみる首都圏賃貸住宅市場の将来
新型コロナ感染拡大を受けて「住まい」に関する意識が大きく変化している。郊外への居住を希望する声が増える中、首都圏郊外の賃貸住宅が魅力的な投資市場へと進化する可能性がある。
都心3区へ人口流入続くが賃貸住宅の供給は限定的
新型コロナウイルスの感染拡大によって一部でテレワーク導入が進む中、住まいについて再考する動きが増えてきている。都心部における賃貸住宅はコンパクトな間取りが売りで人気を集めてきたが、在宅勤務が常態化するなかで逆にその限られた空間が不利に作用しているといえる。ここ最近のトレンドを人口動態や賃貸住宅情報会社などがまとめたデータなどを用いて、首都圏の今後を占っていきたい。
テレワーク導入が本格的に始まって早くも1年。この1年間で東京都の人口はどのように変化したのか。都が毎月発行している人口推計を用いて検証していきたい。それによると昨年5月までは順調に人口増加がみられていたが、その後は増加のスピードはゆるやかなカーブを描いている。
とはいえ年初来、23区のほとんどの地域で人口は増加してきており、特に都心3区1での人口増加が顕著に表れている。報道等で首都圏への人口流入は減少してきているとされているが、確かにスピードはゆるやかになったものの、都心部への人口流入は続いているのである。
一方、去年1年間において都心3区で新たに供給された賃貸住宅は約2,300戸2にも満たず、23区全体に占める割合もわずか4%程度である。引き続き人口流入がみられる都心3区においてすべての新規需要を吸収できるだけの供給量ではない。つまりコロナ前にみられた「風景」とは、少なくとも去年1 年間においてはなんら変化がないことが統計上明らかになっている。
東京23区、市部における人口増加推移3(資料:東京都総務局統計部)
問合せ数増加率の上位15位は東京都以外
やはり人々は利便性の高い都心を重要視した住まいを今後も志向していくのかという問いについては、別のデータを見てみると興味深い事実とともにその回答を示唆してくれよう。
賃貸住宅情報サービス大手、ライフルホームズが昨年10月現在でまとめた「問合せ数増加率ランキング」を見てみると、上位15位までの駅はすべて東京都以外に所在し、なかでも茨城県内のつくばエクスプレスに所属する駅が4駅ランクインするなど、より郊外での居住を模索する人々が多くみられる。
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ランキング1位となったつくばエクスプレスのみらい平駅はつくば市の隣、つくばみらい市に所在する。同駅から徒歩15分以内で築年数に特段の制限も設けずに募集住戸を検索してみると、専有面積50㎡以上の住戸が全体のおよそ8割を占めるという結果となった。逆に問い合わせが最も減った秋葉原駅で全く同じ条件で検索すると、およそ9割は専有面積が30㎡以下の住戸で占められている。これはつまり人々が在宅勤務の今後の常態化を想定して、できるだけ広い間取りの住戸を探し始めていることが浮き彫りになっているといえよう。
広い間取りと都心部への利便性
一方でこの問合せ数増加率ランキングの上位に位置する駅は、都心部への利便性も高いことが同時に明らかになっている。各駅から東京駅までの旅行時間をみてみると、およそ7割以上が1時間20分以内で到達できる駅であることがわかる。またつくばエクスプレスであれば秋葉原まで、総武線快速であれば東京駅まで、それぞれ乗り換えなく都心部まで到達できる駅に人気が集中している。広い間取りは確保したいが、都心部への利便性も同時に確保したいという消費者心理が働いていると考えられる。
問合せ数増加率と旅行時間の相関関係(資料:ライフルホームズ、ナビタイムジャパン)
投資機会
郊外の賃貸住宅が巨大な投資市場へ変容する可能性
不動産投資の観点からみると、首都圏一都三県で昨年1年間に投資された賃貸住宅物件のおよそ9割は東京23区の物件であり、郊外エリアでの投資が本格的に進んでいるとはいえない状況である。一方でこうした住まいに対する考え方がコロナで変化してきているトレンドは今後も続く可能性があるといえる。現時点では流動性もあまりないが故、利回りが都心部に比べて50bpsほどプレミアムが加算されている郊外部の賃貸住宅が今後、大きな投資市場として変容する可能性は大いにあるといえよう。
- 千代田区、中央区、港区
- 国土交通省「住宅着工統計」による
- 城東地区=江東区、江戸川区、葛飾区、墨田区、台東区、足立区、荒川区 城北地区=豊島区、文京区、練馬区、板橋区、北区 城西地区=新宿区、中野区、杉並区 城南地区=渋谷区、目黒区、世田谷区、大田区、品川区
連絡先 内藤 康二
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