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新型コロナウイルス感染拡大によるレジデンシャルセクターへの影響

JLL日本の調査では、東京が2020年(1-9月)の世界の都市別不動産投資額のトップであることが示された。景況感の変化に対して賃料が安定的でディフェンシブなセクターと捉えられている物流とレジデンシャルセクターが牽引する。本稿ではレジデンシャルセクターが今後も有望なセクターであり続けるのかどうか、考察したい。

2020年 12月 16日
在宅勤務を通じてワーカーが実感したこと

新型コロナウイルス感染拡大によって、多くの企業がリモートワークを導入し、多くのワーカーが在宅勤務を経験した。ワーカーの視点で在宅勤務を通じて大きく実感したことは、第一に自宅で集中できるスペースが必要になったこと、第二に通勤による労力が軽減したことではないだろうか。この2点は、多くの人々に“暮らし方改革”をもたらす可能性があり、今後のレジデンシャルセクターに少なからず影響を与える可能性がある。

収益物件としてのレジデンシャル市場を取り巻く変化

多くの人々にとって住宅を賃貸か購入かのどちらを選択するかについていえば、収益物件としてのレジデンシャルセクターにとっては、賃貸志向が高い方が需要面でポジティブな材料となろう。この点については、コロナ禍を通じて“暮らし方改革”の意識が注目されてきており、暮らし方が固定化されやすい購入よりもライフスタイルの変化に適応しやすい賃貸が追い風となろう。

一方で、2020年12月7日、政府・与党は2021年度税制改正大綱の中で、住宅ローン減税の特定の対象を緩和し、住居面積を50㎡以上から40㎡以上に広げた。これはコロナ禍で住宅市場が悪化することを下支えすることに加えて、単身や2人世帯の増加がしていることに配慮されたものである。この点については、賃貸から分譲(購入)に需要が流出する逆風となるかもしれない。

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レジデンシャルの商品企画が変化する可能性

収益物件としてのレジデンシャル市場において、投資対象を大別すると①富裕層向け、②単身者・DINKS向け、③ファミリー向けとなる。多くの投資家は②と③、中でも②が多くの投資対象となっている。②は1LDKを軸に1Rから2LDKで商品企画がなされているケースが大半である。

1Rや1LDKの間取りはコロナ禍で多くの人々が実感した「自宅で集中できるスペースが必要になった」ことに対して充足し続けるのだろうか。新型コロナウイルスが収束しても、雇用(企業)側が働き方を変革し一定割合の在宅勤務を推奨していくことが予想され、ワーカー側も自宅がオフィスの一部という思考が広がることも予想される。

今後、これまで使いやすいとされていた間取りが使いにくい、逆に使いにくいとされていた間取りが使いやすいということが徐々に起きていくだろう。これまでレジデンシャル市場において、投資家の投資対象に対する選別が比較的画一的であったが、今後は多様化し、投資対象が拡大していくのではないだろうか。

立地の多様化と拡大

収益物件としてのレジデンシャル市場において、多くの投資家の関心は立地である。投資判断において、立地に関して①地域的な立地(都心部志向)、②交通利便性(最寄り駅へのアクセス)を重視している。

こうした投資対象基準がコロナ禍で多くの人々が実感した「通勤による労力が軽減」によって徐々に変化するのではないだろうか。多くの人々は、家を選定するにあたって、間取り(広さ)と立地(住環境、交通利便性)を限られた予算の中で決定する。

各世帯の事情で重視するポイントが異なることは言うまでもないが、通勤による交通利便性は、コロナ禍を通じて、やや薄まってくることが予想される。こうした変化は、これまでの都心部志向の投資スタンスから間取りが使いやすく、住環境の整った郊外に広がり、立地の多様化も進み、投資対象が拡大していく可能性が考えられる。

首都圏、関西圏の郊外と地方都市への投資に注目

現下、レジデンシャル市場に注目が集まり、多くの投資家が関心を示し、優良な物件を中心に取得競争が熾烈となっている。その結果、利回りの低下が著しく、東京や大阪の都心部の物件ではオフィスを下回るケースも見受けられる。もはや多くの投資家の利回り目線では取得することができないといっても過言ではない。

一方で、首都圏や関西圏の郊外や地方都市のレジデンシャル市場は、都心部に比べて50bps程度高い利回りが見込める。

こうした背景に加えて、今後、多くの人々に“暮らし方改革”が浸透し、首都圏や関西圏の郊外や地方都市のレジデンシャル需要の拡大が期待できることを鑑みると、同エリアへの投資が有効な手段として注目を集める可能性が近づいているのではないか。

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連絡先 山口 武

JLL日本 関西支社 リサーチディレクター

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