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直近の賃料動向と空室率の推移から見る東京Aグレードオフィスの現状

コロナ感染防止の観点から普及拡大したテレワークがオフィス需要にどのような影響を及ぼすのだろうか。空室率の上昇に伴う賃料収益の下落を危惧する向きはあるものの、東京Aグレードオフィス市場は依然として高稼働を維持している。

2021年 06月 01日
テレワーク導入によるオフィス市場への影響

新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化するなか、各業界に大きな影響が出ていることは周知であろう。不動産業界も各方面で影響がでているが、こと賃貸オフィス市場においては、政府や地方自治体からの要請でテレワークを導入する企業が増え、あるIT企業では出社が1割になったことで自社ビルから退去し、大幅に減床したうえで賃貸ビルに入居するといったケースや、複数フロアを賃借していた大型テナントが賃貸している床の一部を返却するなどといった事例がみられている。

当然、こうした状況は空室率を押し上げ、その結果需給バランスが崩れることで賃料の下げ圧力につながることは議論の余地もない。その一方でこうした動きは将来の供給はもとより、足下の需要の強弱によって変わってくるものであり、より長期的な視点で見る必要があると考える。

東京Aグレードオフィスは依然として低空室率

かかる状況下、東京のAグレードオフィス※はどのような状況になっているのかを主要エリアごとにみていきたい。下のグラフは2021年第1四半期における空室率と、前年同期比の成約可能賃料の変動率の相関をみたものである。なおこの空室率についてはいわゆる「現空」とよばれる、即入居可の空き床のことを指し、潜在空室は含まれていないことに留意されたい。

出所:JLL

こうしてみると、最も空室率が高い赤坂・六本木エリアでさえ現在は2%台半ばであり、Aグレードオフィスからテナントが相次いで退去しているという状況は少なくとも数字上では確認できない。また直近の賃料は下落気味になってはいるものの、この賃料はいわゆる「新規契約をする場合」に限られる。定期借家契約を結んでいるテナントにおいて賃料は下落前の水準を維持されており、全体の賃料収入といった目線でみると現在の賃料下落局面が、各物件の賃料収入に直接的なダメージを与えている状況にはないといえよう。

またこの低い空室率のなかではまとまった床を探すことが困難である。たとえ縮小移転を試みたとしても、それなりの床面積は必要となってこよう。ただし現時点ではそうした需要を取り込める床が各ビルともないため、移転が難しい状況には変わりないと考える。その場合、仮に既存テナントの定借が切れた場合でも現在の下落した賃料で再契約するとは考えにくく、結果として賃料収入総額では今後もある程度の水準を維持するものと考えられる。

一方で最も空室率が低い日本橋・京橋エリアから最も空室率が高い赤坂・六本木エリアにいたるまで、ほとんどのエリアで賃料の変動率は3%台半ば-6%台前半のレンジで収まっている。例外は渋谷エリアであり、空室率は赤坂・六本木エリアより低いにも関わらず賃料の下落率は10%を超えている。渋谷だけなぜこのような状況になっているのかについてはここ数年の急激な賃料の上昇が主な要因のひとつと考えられよう。

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急激な賃料上昇の反動が表れた渋谷

渋谷においてはAグレードオフィスの供給がここ数年で一気に増加しているのは周知であろう。JLLの調べでは2018年以降に供給されたビルが渋谷のAグレードオフィスの総ストックに占める割合は4割を超えている。丸の内・大手町は15%前後、日本橋・京橋エリアでも19%前後であることから、いかに渋谷の賃料上昇が新規供給をもとにしたものかがお分かりいただけるだろう。

このような新規供給ビルは一概に賃料は高く設定され、そうした賃料を負担できるテナントが入居する。よって渋谷の新規供給は市場賃料より極めて高い水準で一気に空室消化がなされたといえる。このことは直近5年間の賃料成長率でも確認できる。2016年-2019年までの年平均成長率(CAGR)は似通った空室率である赤坂・六本木エリアが2.3%なのに対し、渋谷はその倍の4.6%である。つまり急激に上昇した分、下落率も高いというボラティリティの大きい構造になっているといえ、大幅な賃料下落率は「調整が入った」という言い方でまとめられると考える。

長期的な視野に立った分析が必要

仮に、テレワークが一層普及すれば、今後Aグレードオフィスにもじわじわと影響を与えてくることは避けられず、先が見通せないという状況はこの1年で変化はない。一方でコロナ拡大局面から1年が経過しても東京Aグレードオフィスのほとんどは高い稼働率で推移しているという事実を見逃してはいけない。賃料の下落などはどうしても目につきやすいが、少なくとも現時点では大幅な需給バランスの変化はみられていない。目先の数字に引っ張られることなく、より長期的な視野に立った分析が必要とされよう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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