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長期金利が日本の不動産市場にどのような影響を与えるか?

長期金利の変動幅の上限が引き上げられ、今後さらなる金利引き上げが予想される日本。金利の急上昇によって景気の冷え込みが一足早く顕在化してきた欧米の二の舞を危惧する声も聞こえ始めたが、日本は相対的に魅力的な不動産投資市場であり続けるだろう。

2023年 04月 11日

2022年12月19-20日の金融政策決定会合で、日銀は長期金利の変動幅の上限を0.25%から0.5%へと引き上げ、今後さらなる引き上げが予想されている。しかし、金利が急上昇した欧米に比べると、日本の長期金利は依然として低水準にある。長期金利が日本の不動産市場にどのような影響を与えるのだろうか?
 

長期金利の期待値は1%

日本では10年物国債の利回りが長期金利の指標となる。日銀が国債を購入することで利回りの上昇を抑制しているため、適切な利回り水準を導き出すことは困難だが、イールドカーブの歪みが大きい8年物国債と15年物国債に単純平均値を引くと10年国債の利回りは約1%を示す(図1)。

図1:国債の利回り曲線 出所:財務省のデータをもとにJLL作成

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金融政策決定会合が開催される直前の2023年1月17日時点の OIS金利の期待値が1%前後であったことから、長期金利に対する市場の期待値が1%程度であると「仮定」できる

さらに、金融機関等が活用するその他の指標としてOIS(Overnight Index Swap:翌日物金利スワップ)に着目できる。OISは日銀の金融政策に対する市場の見方を観察するための指標として注目されており、金融政策決定会合が開催される直前の2023年1月17日時点の OIS金利の期待値が1%前後であったことから、長期金利に対する市場の期待値が1%程度であると「仮定」できる。

マイナス金利でキャップレートが縮小

次に、10年物国債の利回りと東京Aグレードオフィスの利回りの推移(図2)をみていきたい。長期金利は、2016 年にマイナス金利が導入されてからほぼ0%で推移してきており、資金調達がしやすい環境が継続した。不動産投資家はこれまで以上にリスクを取ることで、その結果、リスクプレミアムが低下し、キャップレートも縮小した。

図2:東京Aグレードオフィスと10年物国債の利回り推移 出所:JLLリサーチ、オックスフォード・エコノミクス
 

日本市場は引き続き魅力的な不動産投資市場であり続ける

日本の長期金利が市場の期待値である1%まで緩やかに上昇したとしても、不動産のリスクプレミアムや利回り各差は十分に担保される。現時点では不動産市場に大きな影響を与えるとは考えにくい

日銀が発表した先行きの見通しは、現在の物価上昇を一時的とみており、海外の景気減速が顕在化するにつれて物価上昇は落ち着いてくると予想している。そのため、長期金利の調整は進むものの、今後も金融緩和の継続が予想される。

仮に、日本の長期金利が市場の期待値である1%まで緩やかに上昇したとしても、不動産のリスクプレミアムや利回り各差は十分に担保される。そのため、現時点では不動産市場に大きな影響を与えるとは考えにくい。急速な利上げが進む海外の市場ではこれらの利回りが逆転したり、金利上昇に伴って不動産リスクプレミアムも上昇しているため、海外との比較においても日本は魅力的な不動産投資市場を維持できるだろう。

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連絡先 大東 雄人

JLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター

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