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物価上昇が日本の賃貸住宅投資の原動力に

コロナ禍でも堅調さを維持していた不動産投資セクターである賃貸住宅(マルチファミリー)への注目度がこれまで以上に高まっている。背景にあるのは物価上昇に伴う急激な賃上げだ。今後予測される金利上昇によって利回り低下が一服する可能性があるが、これまで停滞していた賃料の上昇が投資意欲を喚起するだろう。

2024年 04月 30日
日本のデフレ終焉で賃貸住宅の存在感がさらに高まる

日本は長年続いたデフレが終焉を迎え、物価上昇が始まっている。消費者物価指数は2年連続で2%を超える上昇率となり、2023年の上昇率は1991年以来、32年ぶりに3%を超えた。また、株式市場でも日経平均株価指数が1989年の高値を35年ぶりに高値を更新し、2024年3月には40,000円台に到達した。

日本の物価上昇はコロナ禍におけるサプライチェーンの混乱や円安に伴う輸入品価格上昇によるコスト増など、主に供給側の要因で始まった。

しかし、好調な海外経済やポストコロナに向けた行動制限解除による消費拡大が重なり、多くの企業が好業績を記録。好循環の物価上昇へと移行し始めている。物価上昇は労働市場の人手不足と相まって、労働者の賃金も押し上げている。

そのような中で不動産投資市場では物価上昇、賃金上昇の追い風を受けている賃貸住宅セクターへの注目度が高まっている

コロナ禍でも高稼働、安定収益を維持

労働者の賃金上昇によって、横ばいが続いた賃貸住宅の賃料水準も上昇トレンドに変わろうとしている

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賃貸住宅セクターは景気変動の影響を受けにくく、高い稼働と安定した賃料が続く不動産投資市場として、日本ではオフィスと同じく歴史ある投資対象であった。コロナ禍においては人々が質の高い居住環境を求めたこともあり、投資対象となるようなハイグレード物件は高稼働で推移し、安定した賃料収入が得られた。

関連記事:コロナ禍で海外投資家が日本の賃貸集合住宅市場に注目した理由

ただ、高稼働を維持できても、賃料は入居者の負担可能な水準に抑えなくてはならず、上振れが見込みにくい。賃金の影響も大きく受ける。そのため、長期のデフレ経済によって賃金が上がらない中、賃料も概ね横ばいで推移してきた。

しかし、労働者の賃金上昇によって、横ばいが続いた賃貸住宅の賃料水準も上昇トレンドに変わろうとしている

物価上昇で賃貸住宅の賃料が上昇トレンドに

賃金の上昇が入居者の支払い可能賃料を押し上げ、賃貸住宅の賃料上昇につながっている

コロナが拡大する以前より、低い失業率が続き労働力確保が困難な状況は続いていたが、デフレ経済下ではほとんど賃上げは見られなかった。しかし、物価上昇の影響を受けて、多くの企業が賃金を引き上げ始めた。

厚生労働省が実施した「賃金引上げ等の実態に関する調査」によると2023年の賃金改定率は平均3.2%となり、1994年以来の3%台の上昇が見られた。

この賃金上昇の傾向は加速しており、労働組合の中央組織である「連合」は2024年の方針として5%以上の賃上げを要求する方針を正式決定し、実際に2024年4月2日までの賃上げ率において1991年以来33年ぶりとなる5%超の水準を維持されている。

このような賃金の上昇が入居者の支払い可能賃料を押し上げ、賃貸住宅の賃料上昇につながっている

「賃金引上げ等の実態に関する調査」では、大企業の賃金上昇率は平均を大きく上回っていることがわかった。そのため、大企業の本社が集積する東京や大阪といった都心エリアの物件のほうが賃金上昇の恩恵が大きくなると考えられる。

図:日本の賃貸住宅賃料指数と賃金指数の推移(2010年を100とする) 賃金指数:厚生労働省「毎月勤労統計調査」、住宅賃料指数:ARESの各データをもとにJLL作成

マイナス金利解除後の利回り予測

不動産投資市場では2010年以降、世界的な潮流を背景とした海外投資家による賃貸住宅への本格的な投資開始による投資家の増加、物件獲得競争の激化によって賃貸住宅の投資利回りは大きく低下し、物件価格の上昇が続いてきた。しかし、日銀がマイナス金利政策を解除したことで、今後は金利上昇の懸念もあり、これまでのような利回り低下は一服しそうだ。

賃金上昇が賃貸住宅セクターへの投資を促す追い風になるだろう。

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【執筆者:JLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 谷口 学】

連絡先 谷口 学

JLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター

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