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新リース会計基準の実務上の課題と解決策

2023年5月に草案が公開された新しいリースに関する会計基準。リースに関する資産/負債の認識が変更され、多くの企業にとって計上額が大きくなる賃借不動産については注意が必要だ。直観では見えてこない課題が多くある新リース会計基準適用に向けて、実務の裏側にある課題を詳説し、その解決策のヒントを示す。

2023年 07月 06日
リース会計基準草案公開、賃借不動産には注意が必要

企業会計基準委員会は2023年5月、リースに関する会計基準の草案を公開した。いわゆる「新リース会計基準」と呼ばれる本基準では、リースに関する考え方が大きく変更されることになる。

現在の日本会計基準においてリースは「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に区分される。「中途解約不可」、「フルペイアウト」の両方に当てはまる場合はファイナンスリースとされ、借手はリース資産・リース債務を貸借対照表に計上する。一方、上記2つの条件を満たさない場合はオペレーティングリースとされ、支払いリース料を費用計上することになる。

多くの企業にとって機械設備、賃借不動産などが現行基準で「オペレーティングリース」の主な対象となっている。一方、新リース会計基準では借手の「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の区分を廃止し、大まかに言うと、リース料総額の現在価値を資産・負債に計上する他、各年度の償却費と金利を費用計上することになる。

グローバル化が進む中、自社及び連結対象会社が世界各地に不動産を賃借している企業は数多く存在し、これらの企業にとっては決算への影響は極めて大きい

借手の決算実務における具体的な3つの問題点

では、新リース会計基準適用に際し、借手に実務面でどのような影響が考えられるのか。以下の3点が決算実務における課題になると想定される。

1. データ取得とその正確性

上記のように、リース料総額の現在価値をベースとして「使用権資産残高」や「リース負債残高」を求める必要があるが、そのためには全賃借契約につき、契約日や賃借開始日、賃借(リース)の期間、フリーレント等インセンティブ、その他オプションなどをデータ化しておかなくてはならない。

リース料総額の根拠となる「リース期間」については、「解約不能期間に、行使することが合理的に確実な延長オプション期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプション期間を加えて決定する」とされている。この中で「合理的に確実」に関しては解釈が難しいため、草案では、いくつかの「設例」を付して考え方の整理がされている。

新リース会計基準では、国内外問わず全連結対象会社の決算日における不動産賃借契約データを収集しておかなければならない。1つの不動産に対して複数の賃借契約が結ばれているケース、変更覚書があるケースなど、最新のデータを正しく読み取るのは非常に困難であり、また、現地から提供されるデータの正確性が担保されているわけではない。海外における不動産賃借契約は英語や現地言語で記されているため、正確な読み込みにも苦労する。また、四半期決算短信に対応するためには、3カ月ごとにその内容に変更がないか確認・更新する必要があり、こうしたデータベースの更新作業の負担も大きい。

2. 計算ロジックとその正確性

現基準では全連結会社の「支払いリース料」を集計すればリース関連の決算業務は概ね完了しているが、新基準では、各期の決算の際に使用権資産は減価償却するのに対し、リース負債は残りの期間を通じて利回りが一定になるような利率を乗じて利息費用を計算し、リース料と利息費用の差額をリース負債の返済とすることとなる。

つまり、損益計算書では原則「支払いリース料」科目がなくなり、「減価償却費」および「金利」科目で処理することとなる

決算に必要な数値を導き出すために想定される計算手法は、①簡易表計算ソフトによる計算、②パッケージソフト会社から提供される計算ソフト、③新リース会計基準に適応した会計ソフトの導入、④社内で計算システムを自前で構築といった4つのパターンが考えられる。実は、これらの対応は日本会計基準に先駆けて国際財務報告基準(IFRS)で新リース会計基準が適用された際に、IFRS採用企業が実践した主な計算手法である。

しかし、JLL日本がヒアリングしたIFRS対象企業では様々な課題に直面したことが分かった。例えば、簡易表計算ソフトで対応したところ、実行段階でフリーズしてしまい、ほぼ手計算による算出を余儀なくされた事例や、社内に専任チームを組成して独自の会計ソフトを構築したが、2年以上の期間と数千万円のコストがかかった事例、さらに、外部の会計ソフトを購入したが、海外の不動産賃借契約データがうまく読み込めなかった事例などが挙げられた。

件数が少なければ簡易計算ソフトで対応することもできるかもしれないが、件数が多い場合や複雑な契約を含む場合は別途計算ロジックが必要となる。

3. 会計監査人がチェックできる証憑

決算の際には会計監査人による監査が必要であるが、データが正しく入力されているか、計算ロジックが正しいか、そして最終的に計上された各数値が正しいかどうかを確認することが求められる。

国内の賃借契約であれば比較的容易であるが、会計監査人にとって、海外の現地語で作成された賃借契約を読み解き、データの正しさをチェックすることは非常な困難を伴う。また、計算ロジックが正しいか、計算結果の数値が正しいかというチェックのために、会計監査人に対する証憑の準備も大きな課題となる。

新リース会計基準に従った実務を円滑に進めるための解決策

新リース会計基準へ迅速に対応するためには事前の準備が重要(画像はイメージ)

「正確なデータ収集」と「正しい計算ロジックの構築」が実現できれば新リース会計基準に適応した決算業務を遂行することが十分に可能

JLL日本が提供する「新リース会計決算補助ソフト:JLAS(JLL Lease Accounting Support)」

このように新リース会計基準が適用されることで、対象企業は様々な困難に直面することが予想される。強制適用開始が2026年4月1日以降開始する事業年度とすると残された時間は決して長いとは言えず、しかも4,000社に及ぶJGAAP(日本会計基準)を採用している株式公開企業と会社法の大会社が一斉に準備を開始するため、混乱が心配される。

一方、新リース会計基準は経営戦略にかかわる業種、企業もあると考えられるが、会計基準と計算・表示方法が変更されるにとどまるという考え方もできる。つまり「正確なデータ収集」と「正しい計算ロジックの構築」が実現できれば新リース会計基準に適応した決算業務を遂行することが十分に可能である。

そうした中、JLL日本では、IFRS16号の適用に合わせて、正確な決算数値を算出できる「新リース会計決算補助システム:JLAS」を作成した。不動産以外のリース契約にも対応でき、日本の新リース会計基準にも適応する段取りも整っている。これはソフトウェアを販売するものではなく、準委任契約に基づき計算結果を提供するものである。

正確なデータ収集を実現するJLLの「リースデータ管理サービス」

一方、JLASを利用する場合においても、必要なデータ収集を行わなければならず、前述したデータ収集における問題点を解決しなくてはならない。このデータ収集に関する課題解決策として、JLLでは国内外全ての賃借契約から必要となるデータを読み込み、データ管理を行う「リースデータ管理サービス」も提供している。同サービスは顧客企業から提供される世界各国・各地の多言語にわたる不動産賃借契約を読み込み・データベース化のみならず、その後のデータ更新までの一連の業務をJLLが受託するものだ。

株式公開企業と会社法の大会社の約4,000社が対象となり、また時間的猶予があまりない中、多額のコストを投じて自前で決算システムを構築する等の対応は費用対効果の高い対応策ではないかもしれない。監査に耐えうる計算結果が得らえる汎用的なシステムを利用すべきであろう。JLLが提供する決算補助ソフト、リースデータ管理サービスを活用することで、新リース会計基準対応に関する課題も解消されるものと考える。

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