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アジア太平洋地域のリテール市場に復活の兆し

香港や東京で賃料上昇が顕著になる等、コロナ禍を受けて長らく低迷を続けてきたアジア太平洋地域のリテール市場が復活の兆しを見せている。こうした中、小売事業者はリアル店舗へ買い物客を惹きつけるために新たな施策を打ち出している。

2023年 10月 18日
リテール市場の賃料水準が上昇

アフターコロナを迎え、アジア太平洋地域全体でリテール不動産の賃料水準が回復傾向にある。JLLの調査(英語版)によると2023年第2四半期の賃料水準は小幅ながらも上昇した。コロナ禍の賃料下降局面を経てリテール市場が安定領域に入ったことを示している。

JLL リテール部門 リージョナル ソリューション リード ベンジャミン・バイヨンは「消費と観光需要の双方が回復しているため、一部のリテール市場では小売客数が急増している。この前向きなトレンドは、より多くの小売業者に自信をもたらすきっかけとなった」と解説する。

リテール市場が回復に向かう主な要因となったのは、行動規制の緩和に伴う中国人観光客の動向にある。香港のリテールセクターの賃料水準は過去1年間で8.2%上昇したというJLLの調査(英語版)が象徴する。香港の小売売上高は2027年までに年平均6.1%増加すると予測しており、アジア太平洋地域内で最も高い成長率を記録しそうだ。

一方、日本は富裕層をターゲットとした高級品の売上が好調に推移しており、賃料水準の回復を牽引している。日本(東京・銀座)は賃料上昇率9.2%を記録し、アジア太平洋地域の他の主要市場を上回った

バイヨンによると「成熟した日本のリテール市場は減速すると予想されていたが、高級品、ファッション、化粧品の小売業者はパンデミックの影響を最小限に抑えただけでなく、成長へと転じることに成功したのは注目に値する」という。

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新たな施策を打ち出す小売事業者

顧客を店舗に呼び戻す戦略として注目されているのが「ユニークな店内体験」を提供すること

リテール市場の復活劇に伴い、明らかな変化が生じている。小売業者は消費者のさらなる期待に応えるために新たな施策を打ち出そうと動き始めている。

アジア太平洋地域内の主要リテール市場において顧客を店舗に呼び戻す戦略として注目されているのが「ユニークな店内体験」を提供することだという。

例えば、豪シドニーの人気ベーカリー「ブラック スター ペストリー」の上海旗艦店(地上2階建て)は1階が宇宙船をモチーフにデザインされたカフェ・小売スペースとし、2階を展示スタイルのギャラリーとしている。午後はティールーム、夜間はカクテルラウンジとしても機能する。

バイヨンは「飲食店もさることながら、“お堅い”イメージの金融機関でさえ来店客にエクスペリエンス(優良な体験)を提供するためにカジュアルな店舗デザインを採用したり、コワーキングスペースやカフェスペースを併設するなど、来店するための動機付けを重視するようになった」と指摘。JLL の調査(英語版)でも顧客の10 人中3人がカフェスタイルの銀行店舗に訪れる可能性が高いと回答している。

若者世代をターゲットにするショッピングモール

ショッピングモールはテナント構成に重点を置き、若い消費者を惹きつける施策に注力している

一方、ショッピングモールはテナント構成に重点を置き、若い消費者を惹きつける施策に注力している。

例えば、香港のショッピングモール「K11アートモール」は、Z 世代の買い物客をターゲットに大規模改装を実施、2021年末にリニューアルオープンを果たした。同施設ではアート展示会が開催され、地元の人気アパレルブランドの期間限定ポップアップストアが登場する等の取り組みが集客に奏功しているという。

バイヨンは「小売業者はポップアップストアでの出店に目を向けて始めている。内装費などの投資が抑えられ、賃料負担もごく短期間で済むためだ。このようなコンセプトは、ユニークな体験を積極的に求める消費者にとっても魅力的に映る」と力を込める。

消費者の期待に対応

若者世代を中心に環境保護へ高い意識を持つ消費者も増えており、小売業者や各ブランドはサステナビリティを踏まえた事業活動を求められる

小売業者のこうした方針転換は、現代の消費者…特に若者世代の消費習慣に合わせたためでもある。バイヨンは「コロナ禍によって消費活動が制限されたことで消費者の目が肥えた。特に若者世代は購入前に綿密な調査を行い、衝動買いの可能性が低くなっているためだ」と説く。

また、若者世代を中心に環境保護へ高い意識を持つ消費者も増えており、小売業者や各ブランドはサステナビリティを踏まえた事業活動を求められるようになってきた。例えば、米国の高機能スポーツ衣料大手は購入者が自社製品をストアクレジットと交換できるようにする買取・再販システムを開始したのは、その一例といえるだろう。

「ネットゼロカーボン目標を掲げている小売事業者は店舗等を改装する際にゼロエミッションを意識しており、サプライチェーンの『グリーン化』を目標設定している」(バイヨン)

新しいトレンドが生まれ続ける中、アジア太平洋地域のリテール市場は楽観的な見通しに後押しされ、正常な状態に戻りつつある。バイヨンは「賃料水準がコロナ以前に戻るまでにはまだ時間がかかるだろうが、今後5-7年以内に地域内の小売売上高は回復するだろう」との見立てだ。

リテール市場の完全復活は近そうだ。

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