記事

アジア太平洋地域のホテル投資が本格的な回復へ

2023年上半期には停滞感があったアジア太平洋地域のホテル市場だが、同年7月になると一変。大型取引が頻発するなど、回復が鮮明になっている。旅行者の回復とマクロ経済に対する信頼感の回復が背景にあり、なかでも日本とオーストラリアの好調さが際立っている。

2023年 08月 03日
ホテル大型取引が頻発

シンガポール史上最大となる単一ホテルの取引案件を含め、ホテル関連の大型取引が頻発

アジア太平洋地域で大型ホテルの売却が相次いでいることから、ホテルに対する投資意欲の本格的な回復が顕在化してきた。

2023年上半期を振り返るとマクロ経済の不透明さと利上げの影響により投資活動が停滞した。しかし同年7月に入ると様相は一変。例えば、シンガポール史上最大となる単一ホテルの取引案件を含め、ホテル関連の大型取引が頻発するようになった。

例えば、シンガポールの不動産開発会社であるUOLグループは、542室を有するパークロイヤル・キッチナー・ロード・ホテルをワールドワイド・ホテルズ・グループの一部門であるミッドタウン・プロパティーズに5億2,500万シンガポールドル(3億8,800万米ドル)で売却した。

そして1週間後には、モルディブで2023年初となるホテル取引が行われた。クリスタル・プラザ・リゾーツがリゾートホテル「アマリ・ハヴォダ・モルディブ」をタイのホスピタリティ企業であるマイナー・インターナショナルとアブダビ開発基金への売却案件である。

JLLが発表したレポート「グローバル不動産マーケットの展望」によると、2023年上半期世界各地でホテル運営実績が堅調に推移しており、2023年上半期の取引件数が増加しているという。背景にあるのはコロナ禍を脱却した国内外旅行の増加と、より安定した金利環境への期待の表れだという。

JLL ホテルズ&ホスピタリティグループ トランザクションアドバイザリーの責任者であるカルビン・リーは「多くの投資家は、ホテル取引の拡大を支える滞在型の旅行需要が長期的に維持されることに確信を深めている。そして、金利サイクルが安定に近づき、先進国市場の大半でインフレが沈静化しつつあり、様子見していた投資家が投資活動を再開しようとしている」と説明する。

活況を呈す日本とオーストラリアのホテル市場
購読

さらにインサイトをお探しですか?アップデートを見逃さない

グローバルな事業用不動産市場から最新のニュース、インサイト、投資機会を受け取る。

2023年上半期には日豪への投資額がアジア太平洋地域の他市場への投資額を上回った

2023年のおけるホテル市場として最も活発なのは日本とオーストラリアだ。理由は異なるものの、コロナ以前に最も活発だった両市場による「王座奪還」が実現することになると、リーは指摘する。

日本における不動産投資は引き続き有利な金利と充実した資本市場に支えられており、ホテル市場も同様の追い風が吹いている。一方で、高金利が続くオーストラリアでは、レバレッジを下げるために資産を売却するようオーナーに圧力がかかる可能性がある」(リー)

JLLの調査によると、2023年上半期には日豪へのホテル投資額がアジア太平洋地域の他市場へのホテル投資額を上回った。日本とオーストラリア(ニュージーランド含む)はそれぞれ15億4,000万米ドルと8億2,000万米ドルの取引額を記録している。

JLL日本が発表した「ジャパン プロパティ ダイジェスト2023年第1四半期」によると、2023年第2四半期以降も日本のホテル投資マーケットは活発に動くと予想。世界的な金利上昇を背景に、日本のデットファイナンス環境は投資家にとって魅力的であり、さらに昨今の円安傾向が継続すれば、日本国内のホテル投資活動はこれまで以上に活発化する可能性が高い。

JLL ホテルズ&ホスピタリティグループ アジア太平洋地域CEOを務めるニハット・エルカンは「観光客数の増加や客室稼働率の向上といったファンダメンタルズは、現在の投資環境がホテル業界特有のものではなく外部要因に支えられているという事実が投資家に安心感を与えている」と力を込める。

また、投資意欲を駆り立てる主な要因について、リーは「アジア太平洋地域におけるレジャー旅行の旺盛な需要とビジネス旅行の劇的な回復にある」と付け加えている。

注目される中国人観光客の動向

ホテル投資家にとって今後注目するのは、2023年初頭に国境再開に舵を切った中国からの観光客の動向だ。英国のコンサルタント会社であるオックスフォード・エコノミクスの予測によると、2023年の中国人観光客による海外旅行はコロナ前(2019年)と比較して最大48%まで回復する可能性について言及している。

国境再開の影響は2023年1-5月におけるアジア太平洋地域全体のRevPAR(1日当り販売可能客室数当り宿泊売上)の回復を見れば明らかであり、現在は2019年同期をわずか6.8%下回っているに過ぎない。一方、他地域のRevPARは中東を筆頭にパンデミック前の水準にまで回復している。

ホテル投資の本格的な回復は目前

アジア太平洋地域の一部のホテル市場では、取引目線が下がり、市場関係者が投資を再検討できるようになった。これまで以上に具体的な投資機会が生まれるだろう

ホテルセクター全体の取引実績をさらに押し上げる可能性がある。リーは「ラグジュアリー、リゾート、コリビングといった特定のホテル資産がセクター全体の取引実績をさらに押し上げる可能性がある。これらはすべてコロナ禍からの回復力があることも証明されている」と指摘する。

「例えば、リゾートホテルはホテル市場において伝統的にニッチな存在だったが、現在の高利回りと成長実績が多くの投資家にとって特に魅力的に映っている」(リー)

象徴的な事象はプーケットでみられる。JLLの調査によると2023年1月の平均宿泊料金は2019年比で50%上昇し、9,000バーツ(264ドル)に達したという。

エルカンは「アジア太平洋地域の一部のホテル市場では、取引目線が下がり、市場関係者が投資を再検討できるようになった。これまで以上に具体的な投資機会が生まれるだろう」と予測している。アジア太平洋地域のホテル市場は引き続き投資家を魅了し、これまで以上に存在感を高めていきそうだ。

ホテル投資に関するJLLのサービス

JLLでは市場調査、戦略的な投資アドバイス、運営管理のサポート、売却支援までホテル投資に関する多種多様なサービスを一気通貫で提供しています。詳細は下記をご確認ください。

ホテル投資に関するJLLのサービスはこちら

連絡先 ニハット・エルカン

JLL ホテルズ&ホスピタリティグループ アジア太平洋地域CEO

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。

あなたの投資の目標は何ですか?

世界中にある投資機会と資本源をご覧下さい。そして、JLLがどのようにお客様の投資目標の達成を支援できるかお尋ねください。