資生堂「Shiseido Future University」 - 人財育成施設 開発事例
日本を代表する化粧品会社の資生堂は、世界中のグループ会社から次世代を担う経営リーダーを育成することを目的に、従来型の研修施設とは一線を画す人財育成施設を整備。ステークホルダーの多様な意向を反映すべく、実現難度の高い設計デザインに挑戦。JLLはプロジェクトマネジメントとLEED認証取得を支援した。
場所
東京都中央区銀座
スポットライト
プロジェクトマネジメント、「LEED GOLD®認証」取得支援
規模
基準階面積130坪(6-10階)
不動産タイプ
人財育成施設
日本を代表する化粧品会社である資生堂が開発を進めていた「Shiseido Future University(以下、SFU)」が2023年11月30日に開業した。SFUは創業150周年記念事業プロジェクトとして進められ、「MIRAI KARAKUSA(未来唐草)」と名付けられた独創的な外観で知られる同社創業の地である銀座の「資生堂銀座ビル」の6-10階に整備された「人財育成施設」である。
「国内外のグループ会社から選抜された次世代の経営リーダーとなりうる“人財”を育成するにふさわしい」施設と位置付けられ、資生堂にとって新たな挑戦となる。
単なる汎用研修施設とは一線を画す、資生堂の歴史や文化といった“DNA”をも体感できる施設づくりを目指した。人財育成を担う人財本部、資生堂の歴史・文化の管理発信を行っているアート&ヘリテージマネジメント部、同社のブランディングコミュニケーションを担う資生堂クリエイティブ株式会社など、様々なステークホルダーが参画し、CRE戦略を担うファシリティマネジメント部が彼らの意向を取りまとめ、施設に必要な要求条件整理(プログラミング)を行うなど、全社一丸でプロジェクトが進められた。
そうした中、JLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部はリニューアル工事を推進するプロジェクトマネジメント業務を、JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部は国際的なグリーンビルディング認証である「LEED GOLD®認証」取得を支援した。
課題
創業以来、価値創造の源泉を“人”と位置づけ、経営戦略の1つに人財への投資・育成の重要性を説いた「PEOPLE FIRST」を掲げる資生堂。最大限のパフォーマンスを発揮できる執務環境を社員に提供するべく2016年から全社的なワークプレイス改革を推進してきた。
こうした拠点整備を進める過程において、既存拠点の1つ「資生堂銀座ビル」に居を構えていた各事業部がグローバル本社オフィスへ移転したことで、当該ビルの有効活用策について様々な観点から議論が重ねられることになる。その結果「PEOPLE FIRST」を体現する人財育成に特化した施設を開発することが決定された。
一方、本プロジェクトはオフィスとして使用された既存ビルの一部区画(6-10階)を大幅改修するリニューアルプロジェクトであり、資生堂の“創業の地”という特別な場所に設置する人財育成施設にふさわしい空間づくりも目指した。それゆえ、下記のように様々な課題が浮上した。
- 特殊仕様となっていた既存設備において研修導線に配慮したゾーニングと機能配置などの面で難易度の高いリニューアル工事をいかに効率的に進めるか
- ワンフロア130坪程度と決して十分とはいえない床面積において、様々な研修プログラムに対応できる機能面における要求条件整理(プログラミング)の難しさと、設計デザイン会社との意見調整
- プログラミングで導き出された各種機能において、クライアントが希望する実現難易度が高いデザインに伴う施工会社との技術的調整
- 多くのステークホルダーが参画することで意見調整にも時間を要し工期の時間的制約や費用面でのVE作業
アプローチ
上記のように様々な課題がある中、資生堂 ファシリティマネジメント部長 下野 勝之氏は「本プロジェクトは多くのステークホルダーが携わり、これまで経験したことがない施設をつくることになる。ファシリティマネジメント部としては限られた工期・予算内で、ステークホルダーが満足する施設を作り上げる挑戦であり、新たな知見を学ぶ必要があった」と振り返る。
JLLはホテルや教育施設など、多種多様な施設を見学できるよう調整し、資生堂ファシリティマネジメント部が空間づくりを進める上での知見獲得に貢献した他、難易度の高い内装デザインの実現にむけて設計会社や施工会社との調整など、当該施設で目指した資生堂ならではの「美意識の具現化」とLEED認証も視野においた建築法規を遵守しながら目指す施設の実現に貢献した。
成果
SFUはコンセプトに「Inspired by Our Heritage & Building Our Future(~美の文化遺伝子を持ち合わせ、未来へのエネルギーとして転換できる経営リーダー~)」を掲げ、資生堂ならではの価値創造とイノベーションを創出するために、ビューティーカンパニーにふさわしい美の感性や心の豊かさ、最先端のグローバルレベルでのビジネス知見を合わせもった次世代リーダーを育成する場にふさわしい施設として2023年11月に開業した。
空間コンセプトは「美と知のResonator / 共振装置」。国内外から集う参加者がフラットに交流できるスペースをはじめ、資生堂の歴史や文化を体感できるヘリテージスペース、アートスペースを設けており、知性(左脳)と感性(右脳)、過去と未来、日本とグローバルといった「対比」関係にある様々な要素を散りばめており、それらが“共振”し新たな価値創造を促すと同時に、学びのための「余白」ある空間づくりを目指した。必要とする機能がすべて収まり、余剰スペースを生まないよう、機能面における「兼用度合い」を重視したレイアウトが特徴だ。
「ヘリテージでは先達がなしえてきた“歴史”を展示しているが、ただの展示物ではなく、学びと気づきが得られ、見る者に『問い』 を投げかけるような空間づくりを意識した。特に、銀座は当社の“創業の地”であり、SFUに訪れること自体に憧れを抱いたり、自身の成長を実感してもらうなど、来館者のプライドやオーナーシップを刺激する施設になったと自負している」と下野氏は語る。
各フロアにおける具体的な特長は次のようになる。
7階:「HERITAGE JOURNEY」など
資生堂が誇る歴代の製品・サービス、利用者向けの紹介素材、当時のトレンドや世相を反映した展示物などで構成される「HERITAGE JOURNEY」では資生堂の歴史・文化に触れられる。また、多目的に活用できる「COLLABORATION STUDIO」、活発に議論できる参加型のレクチャーなどに対応する対面型スペース「INSPIRATION HALL」を整備している。
8階:「GROUP ROOM」など
各部屋のカラーリングを、100年近く前のポスターに使われている色をオマージュした配色とした「GROUP ROOM」を整備。復刻されたポスターも掲出する。各部屋は「やまぶき」、「わかば」など、日本の伝統色から名付けられ、少人数で集中して議論ができるよう各室に可動式ホワイトボードも設置。ホワイトボードは着脱でき、各室から共用スペースに移動させ参加者全員で議論することも可能。また、資生堂の美意識やデザインに関する多様な蔵書を閲覧できる「HERITAGE LIBRARY」も整備。
9階:「CAMELLIA」など
資生堂を象徴する「花椿」をかたどったフォルムが印象的なプレゼンテーションルーム「CAMELLIA」は自分の志や思いを聴衆に問う場として活用したり、ジャーニー型の研修プログラムの終着点として経営陣へのプレゼンテーションなどでの使用を想定。また、肩書や役職から離れ、内省や仲間へのコミットメント表明など、ヒエラルキーを排した車座になって議論できる円形の空間「禅」、日本的所作でもある靴を脱いで過ごしてもらい、自身の身体感覚と向き合わせる板間の空間「舞」などで構成される。
10階:「MIRAI KARAKUSA」
SFUの象徴的空間である「MIRAI KARAKUSA(未来唐草)」を名称に持つこのスペースは、資生堂が長期にわたり活動を支援する現代アーティストの作品やグランドピアノを設置。芸術や音楽に触れ、美意識と知の共振を生むアートギャラリーであり、研修利用目的の他に次世代リーダーやVIPたちの交流の場としても設計された。
また、6階には商品展示ミュージアム、屋上にはリフレッシュ・交流の場として活用できる屋上庭園「資生の庭」を整備している。
クライアント&担当者の声
クライアント
SFUを活用するのは国内外のリーダー候補であり、海外のVIPが満足する高品質の空間づくりが必須です。グローバルスタンダードに精通しているJLLの知見に期待しました
資生堂 ファシリティマネジメント部 部長 下野 勝之氏は次のように述べています。
「一般的な研修施設ではビジネススキルの向上が目的になりがちですが、SFUは当社ならではの価値観やDNAを伝承し、次世代のリーダーを育成するための人財教育プログラムを提供したいと考え、当社の創業の地・銀座にふさわしい施設を開発しました。ビジネススキルや知識を啓蒙するだけでなく、感性と人間力を兼ね備えた、新たな視点を持つ経営者・リーダーを育成することを施設コンセプトに掲げ、決して十分とはいえないスペースに様々な機能を効率的に収めたことがファシリティとしての特徴になります。
今回、プロジェクトマネジメント業務をJLLへ依頼した主な理由は2つあり、1つは当社が進めてきたワークプレイス改革を指導的立場として支援いただいた実績です。そして2つ目の理由はJLLがグローバルカンパニーである点です。SFUを活用するのは国内外のハイレベルなリーダー候補であり、海外のVIPクラスも満足させる高品質の空間づくりが必須です。グローバルスタンダードに精通しているJLLの知見に期待しました。
また、SFUは当社から多くの事業部が参画し、様々な知見を取りまとめ、最適解を導き出すためにプログラミングの内製化にこだわりました。そのため、建築の専門家ではない我々が平面図なども作成しましたが、その実現には非常に難しい課題を伴うアイデアもありました。そうした中、JLLはプロジェクトマネージャーとして粘り強く施工会社などと調整し、我々が理想とする空間づくりを実現できるよう支援していただき、大変感謝しております。
人財育成に特化した施設を整備する動きは日本において少しずつ顕在化しつつあり、今後SFUのような本格的な人財開発・育成施設を整備する機運が高まっていくのではないでしょうか。当社の美意識やDNAを体感でき、来館者のエンゲージメント向上にも寄与する施設になったと自負しています」
JLL担当者
資生堂様が理想とする高品質な空間づくりを実現しながら限られた予算・工期内に収めるかを、いかに両立させるかが命題となりました
JLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部 部長 石田 哲朗は次のように述べています。
「資生堂様が目指した人財育成施設の開発プロジェクトにおいてプロジェクトマネジメント業務を担当しました。本プロジェクトは資生堂様の創業150周年記念事業であり、多くのステークホルダーの意見調整が必要となり、資生堂様が理想とする空間構成において難易度の高い工事が求められました。デザインの実現可能性など、様々な観点から検討事項が多く、資生堂様が理想とする高品質な空間づくりを実現しながらいかに限られた予算・工期内に収めるか、両立させるかが命題となりましたが、最終的に資生堂様の創業の地にふさわしい人財育成施設を整備することができました。
JLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部は、グローバルで事業展開してきた知見・実績を活かして、今後もクライアントの様々なニーズを満たす理想的な空間づくりを支援していきたいと思います」
JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部 サステナビリティマネージャー 山本 武史、サステナビリティコンサルタント 李 惠蘭(リ・ヘラン)は次のように述べています。
「資生堂様が注力されるサステナビリティ戦略の一環で、SFUは基本構想時から『地球環境負荷軽減』にフォーカスし、自然環境や人々の健康に配慮した内装設計・施工に取り組んできました。その結果、本プロジェクトは世界的なグリーンビルディング認証であり、インテリア設計・建設分野である『LEED v4 Interior Design and Construction』において『LEED GOLD®』認証を取得することができました。JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部は建設廃棄物の高リサイクル率の達成をはじめ、空気質管理や効果的な節水・省エネ対策などの具体的な施策を提案・実行し、LEED認証取得を支援しました。
近年、不動産においてもサステナビリティは世界的な課題となっており、ビルオーナー、テナント企業、投資家などの多様なクライアントから環境及び社会的対策に関するご相談、お問合せが急増しています。JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部では、自社オフィスでLEED認証及びWELL認証の最高ランクであるプラチナ認証を取得した知見などを活かし、クライアントが直面する不動産サステナビリティの課題解決をご支援してまいります」