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ジェンダーバランス改善に繋がる女性中心の共有オフィスが増加

コワーキングの人気が世界で高まり続けている。しかし、利用者の性別という観点から見ると、コワーキングスペースは必ずしもバランスが良いとはいえない。こうした状況を受けて、欧米の主要都市で台頭しつつあるのが、女性やノンバイナリー(男性、女性に限定しない「第三の性」)の人々のみを対象としたコワーキングスペースだ。

2019年 05月 27日

女性にとって働きやすい環境と魅力的なコミュニティーを提供

ニューヨーク市で創業し、その後、米西部エリアに進出したコワーキングスペース「The Wing」をはじめ、ロンドンには「Blooms Business Club」、ロサンゼルス、シアトル、テキサスには「The Riveter」が存在する。「女性やノンバイナリーの人々が理想とするオフィス環境は、大手の事業者が提供している一般的なコワーキングスペースとは異なるものだ。これまでに出現したコンセプトは、ニッチなコミュニティーを創出することに重点を置いている」と語るのは、JLLで米国南西部に関するリサーチを担当しているアンバー・スキアダだ。

2016年、ニューヨークで創業した「The Wing」は、既に5施設(2019年3月11日現在)を開設しており、今後更に6施設の開設を予定している。2019年1月には7,500万米ドルの資金調達に成功し、現時点における同社の資金総額は1億1,750万米ドルとなった。広々とした授乳室、化粧室の美容製品、女性やノンバイナリーの著名人を招いて実施するコミュニティープログラムなど「The Wing」は標準的なコワーキングスペースとは一線を画した仕掛けづくりに注力している。さらにニューヨークのソーホー施設では試験的にデイケアプログラムを実施している。

「Blooms Business Club」は、スタートアップ企業に人気のスポット、ロンドンのショーディッチにほど近い町にある、女性を中心としたコワーキングスペースだ。同施設は2017年、女性起業家のソーシャルネットワーク「Blooming Founders」の一環として開設された。

一方、全米で女性重視型のコワーキング事業を展開している「The Riveter」は、男性を含むすべてのジェンダーに門戸を開いているが、同社の信条は女性メンバーに対し一般的なオフィスよりも快適な職場環境を提供することだ。

女性のためのアメニティー(快適環境)

「未来志向の企業は、これまで女性の嗜好やニーズに応える職場創りを目指してきた。しかし、その多くが不十分であると言わざるを得ない」と、スキアダは指摘する。

小型冷蔵庫や座り心地の良い椅子のある女性専用ルーム程度であれば、比較的容易に提供することができる。しかし、授乳期の母親が不自由を感じることなく、仕事中に搾乳ができる環境が整うまでにはほど遠い。

JLLでニューイングランド地方に関するリサーチを担当するジュリア・ゲオーギュールは「大企業に勤める私の友人は、会社で搾乳する場合、文書保管室に行くしかなかった」と振り返る。不衛生かつ不快な環境では仕事に対する気持ちが萎える。これではいくら大きな会社に勤めていても、有利な立場にあるとはいえないだろう。

女性に焦点を当てたトレンドに商機を見出そうとする新規のコワーキング事業者の多くは、インスタ映えする壁紙やピンク色のクッションを重視しがちである。しかし、ゲオーギュールが言う通り、より実質的なアメニティーの充実、例えば施設内保育所や広々とした搾乳室の設置などに力を入れる方が賢い選択であるといえよう。

日本でも働く女性(主婦)に対応したコワーキングスペースが注目されている。執務スペースと託児スペースが合体したコワーキングスペース「ママスクエア」が代表例だ。キッズスペースで遊んでいる子供を執務スペースからガラス窓から常時確認できる。常に子供のそばで安心して働ける環境づくりを推進。主婦の雇用に期待する法人の利用が多く、主に郊外の住宅地に近いショッピングセンター内の空きスペースに開設するので、主婦にとって通勤しやすい「職場」といえるだろう。

アメニティーよりコミュニティー

しかしアメニティーは、それを利用するコミュニティーがあって初めて意味を成す。スキアダー が言う通り、1つのグループに属すメンバーが、1つの共通するニッチな要素に親近感を持てば、そこには本物の忠誠心が生まれ最強のブランドロイヤルティとなる。「広く、無機質なオフィス環境においては、物理的なスペース以外に、人と人を繋ぐものが、ほとんど何もない」とスキアダは断言する。

しかし、こうした状況は、裏を返せば、コワーキング事業者がアメニティーやコミュニティー活動、そして室内装飾に至るまで、コミュニティーのニーズに応じれば、メンバーがそこに定着する可能性が高くなることを意味している。スキアダは「すでに稼働している女性中心のコワーキングスペースはかなり成功しており、女性をターゲットとしたコワーキングスペース事業は今後も拡大すると思われる。コミュニティーづくりを重視する限り、この業界は将来にわたって繁栄するだろう」と展望している。

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