ワークエンゲージメントとは?基本概念と測定方法、高めるポイントを徹底解説
近年、企業価値向上を目的とした人事施策の一環として、ワークエンゲージメントが注目されている。従業員が仕事に対して積極的で情熱的な心理状態を保つことは、職場全体の生産性や創造性を高めるだけでなく、離職率の低下やブランド価値の向上といった多くのメリットをもたらす。
1. ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントは、従業員が仕事に対して抱く積極的で情熱的な心理状態を指す。特に、仕事に対する「活力」、「熱意」、「没頭」の3つの要素で構成され、従業員の働きがいや意欲を反映する指標として注目されている。
1-1. ワークエンゲージメントの定義
ワークエンゲージメントは、従業員が単に満足感を持つだけでなく、自発的に業務に取り組む心理状態を測定する指標である。特に、企業競争力や職場環境の質を向上させるための要素として経営戦略に取り入れられることが増えている。
この概念は、オランダのユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって提唱された。
企業にとっても重要な指標であり、高いエンゲージメントを持つ従業員は生産性が向上し、離職率が低下する傾向がある。これにより、企業の持続可能な成長が期待される。
最近の研究では、ワークエンゲージメントが従業員のメンタルヘルスや組織文化にも密接に関連していることが示されている。特に、エンゲージメントが高い従業員は仕事に対する満足度が高く、日常的にネガティブな感情が少ないことが報告されている。
1-2. 従業員満足度(ES)との違い
ワークエンゲージメントと従業員満足度(ES)は、企業や組織における従業員の心理的状態や行動に関する重要な指標であり、それぞれ異なる側面を持っている。ワークエンゲージメントは、従業員が仕事に対してどれだけ熱意や貢献意欲を持ち、積極的に取り組んでいるかに焦点を当てている。一方、従業員満足度は、労働条件や環境に対する満足度に焦点を当て、従業員がどれだけ快適に働けているかを評価する。
また、両者の関係性にも違いがある。ワークエンゲージメントは、組織の目標や価値観への共感と信頼関係を重視し、双方向的な関係性を示す。これに対し、従業員満足度は、一方的な評価であり、従業員が会社をどう評価しているかという視点から成り立っている。
従業員満足度が高い場合、従業員は組織のビジョンや目標にも共感しやすく、その結果、ワークエンゲージメントも高まることが考えられる。逆に、満足度が低い場合には、エンゲージメントも低下する可能性がある。
高いワークエンゲージメントは、生産性の向上や離職率の低下につながる。また、顧客体験の向上にも寄与する。従業員満足度が高まることにより、モチベーションの向上や主体的な行動が促進され、結果的に生産性も向上する。このように、ワークエンゲージメントと従業員満足度は異なる概念ではあるが、お互いに影響し合っている。
2. ワークエンゲージメントが注目される背景
ワークエンゲージメントが注目される背景には、少子高齢化にともなう人手不足や「静かな退職」への対処など下記のような課題がある。
2-1.少子高齢化にともなう人手不足
周知の通り、日本では少子高齢化が進行しており、生産年齢人口の減少が深刻な問題となっている。構造的な労働供給制約が企業の事業運営に支障をきたし始めており、各企業において効率的な人材活用の工夫が求められている。
ワークエンゲージメント向上による従業員の充実感や意欲の向上によって、人材の定着が期待されている。
2-2.「静かな退職」への対処
ワークエンゲージメントの向上は、近年話題となっている「静かな退職」への対処としても注目される。
静かな退職(Quiet Quitting)とは、従業員が仕事に対するやりがいや熱意を失い、必要最低限の業務だけをこなしているような状態を指す。2022年にアメリカのキャリアコーチがSNSで発信し、特にZ世代を中心に広まった概念だ。
実際に退職するわけではなく、仕事とプライベートの境界をしっかり分け、ワークライフバランスを重視する働き方なのだが、企業という組織の中においては生産性の低下や職場環境の悪化、人材流出のリスクを高めてしまう。
対策として、自分の仕事に対する目標や価値観を見直し、自己肯定感の向上が求められるため、ワークエンゲージメントが重視されるようになっている。
3. ワークエンゲージメントの測定方法と主な尺度
ワークエンゲージメントの測定は、定量的かつ継続的に行うことで、改善の指針となるデータを得られる。これにより、企業は従業員のモチベーションや生産性を向上させる具体的な対策を講じることができる。
3-1.ユトレヒトワークエンゲージメント尺度(UWES)
ユトレヒトワークエンゲージメント尺度(UWES)は、従業員のワークエンゲージメントを測定するために広く使用されている心理測定ツールだ。この尺度は、オランダのユトレヒト大学で開発され、主に以下の3つの要素で構成されている。
3-1-1.活力(Vigor)
活力(Vigor)は、仕事に対する高いエネルギーと心理的な回復力を示す。活力がある従業員は、困難な課題にも積極的に取り組む姿勢を持ち、ストレスを感じにくい状態にある。具体的には、仕事をしているときに「活力がみなぎるように感じる」といった感覚が該当する。
3-1-2.熱意(Dedication)
熱意(Dedication)は、仕事に対する誇りややりがいを感じることを指す。熱意のある従業員は、自分の仕事に強い関心を持ち、新しい挑戦にも前向きに取り組むことができる。例えば、「自分の仕事に誇りを感じる」といった感情がこの要素に含まれる。
3-1-3.没頭(Absorption)
没頭(Absorption)は、業務に深く集中し、時間を忘れるほどの状態を意味する。この状態では、従業員は仕事に完全に没入し、高いパフォーマンスを発揮することができる。「仕事をしていると、つい夢中になってしまう」と感じることがこの要素の特徴だ。
3-2.厚生労働省の評価
厚生労働省は、ワークエンゲージメントを重要な指標として位置づけており、その向上が企業や従業員にとって多くの利点をもたらすと評価している。エンゲージメントを推進するための評価基準やツールを提供しており、企業での活用を提言している。
3-3.測定ツールの導入
ユトレヒトワークエンゲージメント尺度以外にも、MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)やOLBI(Oldenburg Burnout Inventory)などのツールがある。これらは主にバーンアウト(燃え尽き症候群)の測定に使用される方法である。
測定ツールを導入する際には、なぜワークエンゲージメントを測定したいのか、その目的を明確にすることが重要だ。そして、目的に応じた適切な測定ツールを選び、従業員への説明や協力依頼を丁寧に行うことで、実施がスムーズになる。
測定後はデータを収集し、分析する。得られた結果は、従業員のエンゲージメント状況を把握するために活用される。データに基づいて、具体的な改善策や研修プログラムを実施することで、従業員のエンゲージメントをさらに高めることが可能となる。
ワークエンゲージメントの測定は一度きりではなく、定期的に行うことが大切である。定期的な評価を通じて、エンゲージメントの変化や改善の効果を確認し、必要に応じて対策を見直すことで、持続的な改善が可能となる。定期的なフィードバックや従業員とのコミュニケーションを通じて、エンゲージメント向上の取り組みが継続されるようにすることが重要である。
以上のように、ワークエンゲージメントの測定は企業のパフォーマンス向上に欠かせないプロセスだ。適切な測定ツールを活用し、継続的に評価と改善を行うことで、従業員のモチベーションや生産性を高めることが期待される。
4.ワークエンゲージメントを高めるメリット
ワークエンゲージメントを高めることには、企業や従業員にとって多くのメリットがある。従業員が仕事に対して積極的な姿勢を持ち、企業文化に共感して働くことで、さまざまな側面で良い影響を与える。以下にその具体的なメリットを解説する。
4-1. バーンアウト(燃え尽き症候群)の防止
近年、長時間労働や過剰な業務負荷によるバーンアウトの増加が社会問題化している。一方、ワークエンゲージメントとバーンアウトは負の関係にあり、高いエンゲージメントを持つ従業員はバーンアウトのリスクが低くなることが示されている。
ワークエンゲージメントを高めることで、バーンアウトを防ぐ効果がある。例えば、適切なサポートやフィードバックを行うことで、従業員のエンゲージメントを向上させ、その結果としてストレスや疲労感を軽減することができる。
企業は、従業員のワークエンゲージメントを向上させる施策を講じることによって、健康的な職場環境を作り出し、生産性向上や離職率低下につなげることが期待される。
4-2.生産性とパフォーマンスの向上
ワークエンゲージメントが高い従業員は、仕事に積極的に取り組むため、生産性が向上する。エンゲージメントが高い従業員は、業務に対するモチベーションが高く、目標達成に向けて自発的に行動し、作業効率が向上する。エンゲージメントが高い環境では、従業員一人ひとりが自らの役割を理解し、それに対する責任感を持って仕事に取り組むため、作業のスピードや質が自然と向上する。
また、集中力やクリエイティビティも高まる。エンゲージメントが高い従業員は、仕事に没頭しやすく、新しいアイデアや解決策を生み出す能力が向上する。この結果、業務の質が向上し、企業全体のパフォーマンスも向上することが期待できる。従業員が仕事を自ら進んで行う姿勢は、個人の成果だけでなく、組織全体の業績にも良い影響を与えるため、持続的な成長に繋がる。
ワークエンゲージメントスコアが高い企業は、生産性が向上する傾向がある。厚生労働省の調査によっても、エンゲージメントスコアが上昇するごとに営業利益率の上昇が確認されている(※)。
※出典:厚生労働省 ワーク・エンゲイジメントと企業の労働生産性について
4-3.チームワークの改善
ワークエンゲージメントが高い職場では、従業員同士のコミュニケーションが円滑になり、協力的なチームワークが生まれる。エンゲージメントが高い従業員は、自分の役割を理解し、チームの目標に向けて積極的に貢献するため、チーム内での協力がスムーズになる。共通の目的意識を持つことで、チーム全体のパフォーマンスが向上する。
エンゲージメントの高いメンバーが増えることで、相互信頼が生まれ、問題解決やアイデアの共有が促進される。このような職場では、従業員が互いにサポートし合い、より強固なチームワークを築くことができる。チーム内の信頼感が高まることで、プロジェクトの進行や成果物の質が向上し、顧客満足度の向上にも寄与する。
4-4.離職率の低下
エンゲージメントが高い従業員は、仕事に満足し、長期間にわたって働き続ける傾向がある。従業員が自身の仕事に誇りを持ち、職場環境や仕事の内容に対して満足していると、転職や退職を考える可能性は低くなる。エンゲージメントが高い従業員は、企業に対する忠誠心が強く、企業の成長に貢献する意欲を持ち続けることができる。
企業は人材の流動性を減らし、優秀な従業員を維持することができる。離職率の低下は、採用や育成にかかるコストの削減にもつながり、企業にとって大きなメリットとなる。また、長期的に同じ職場で働くことで従業員のスキルやノウハウが蓄積され、組織の知的資産として活用されることで、競争力が向上する。
エンゲージメントの高い環境を築くことで、従業員の満足度と企業のパフォーマンスが共に向上することが期待できる。このような職場環境を整えることが、持続可能な成長と成功の鍵となる。
5. ワークエンゲージメントを高める方法
ワークエンゲージメントを高めるには、組織全体で戦略的な取り組みを行う必要がある。従業員の心理的な状態を向上させるためには、明確な方針と実効性のある施策を組み合わせ、日々の業務や職場環境に反映させていかなければならない。以下に、ワークエンゲージメントを高めるための具体的な方法をいくつか紹介する。
5-1. 目標の明確化とフィードバック
従業員が目指すべき目標が曖昧であったり、達成に向けた進捗が十分に評価されなかったりすると、モチベーションが低下する可能性がある。目標が明確であれば、従業員は自分の役割や期待される成果を理解しやすくなる。そのため、目標を具体的に設定することは、エンゲージメントを高めるための第一歩である。
さらに、定期的なフィードバックを行うことで、従業員は自分の進捗を把握し、改善点を認識することができる。これにより、自己成長を感じることができ、モチベーションが維持される。
目標設定の際にはSMART原則(Specific、Measurable、Achievable、Relevant、Time-bound)を活用することが有効である。具体的で測定可能な目標を設定し、その達成度を評価することで、従業員は自らの進捗を把握しやすくなる。フィードバックも、具体的かつ建設的であることが重要であり、肯定的な側面と改善点の両方をバランスよく伝えることで、従業員の成長を促進することができる。
5-2. リーダーシップの向上
従業員がリーダーシップを信頼し、指導を受けることで安心感を持てる職場環境を作ることが重要だ。リーダーは、指示や目標設定だけでなく、部下の意見を積極的に聴き入れ、フィードバックを通じてコミュニケーションを深めることが求められる。上司が率先して模範を示すことで、従業員はその姿勢に共感し、仕事に対して前向きな態度を取るようになる。また、リーダーが個々の従業員の強みや成長を認め、支援することがエンゲージメントを高める要因となる。
効果的なリーダーシップのためには、以下の要素が重要である。
- 透明性と一貫性:リーダーが一貫したメッセージを伝え、透明性を持って意思決定を行うことで、従業員の信頼を得ることができる。
- 共感力:従業員の立場や感情を理解し、共感することがリーダーには求められる。これにより、従業員はリーダーの指導を受け入れやすくなる。
- 継続的な学習と成長:リーダー自身が継続的に学び、成長する姿勢を見せ、従業員にも同様の姿勢を促すことができる。
5-3. ワークプレイス環境の改善
職場の物理的・心理的環境の整備も、ワークエンゲージメント向上には欠かせない要素である。快適で安全な環境は、従業員が仕事に集中しやすくするだけでなく、ストレスの軽減にも寄与する。例えば、リモートワークの導入は、柔軟な働き方を可能にし、従業員のワークライフバランスを改善する。これにより、ストレスを減らし、エンゲージメントを向上させることができる。オフィス内では騒音対策や快適なデスク配置、リフレッシュスペースの提供など、職場内での居心地の良さを高める取り組みも有効である。
職場環境の改善には、以下の要素が考慮される。
- 物理的環境の整備:快適な椅子や机の配置、適切な照明、空調設備の整備などが含まれる。従業員が長時間快適に働ける環境を整える。
- 心理的環境の整備:従業員の精神的な健康をサポートするためのカウンセリングサービスや、ストレス管理のためのトレーニングプログラムの提供が有効である。
- リフレッシュスペースの提供:休憩時間にリラックスできるスペースを設けることで、従業員のリフレッシュを促進し、業務への集中力を高めることができる。
これらの取り組みを通じて、ワークエンゲージメントを高め、従業員のモチベーションと生産性を向上させることが可能になる。企業は、継続的な改善と評価を行いながら、従業員が働きやすい環境を整備し、持続可能な成長を目指す。
5-4.自己成長の機会提供
従業員が自らのキャリアを発展させるための支援を行うことも、エンゲージメントを高める重要な方法だ。仕事に対する意欲や満足感は、自分の成長を実感できるかどうかに大きく影響される。
研修やスキルアップセミナーを提供し、キャリアパスを明確にすることで、従業員は自己成長の道筋を見出し、目標に向かって努力する意欲を持つことができる。成長を実感できる環境が整っていると、従業員は仕事に対して積極的に取り組み、エンゲージメントが高まる。
5-5.ストレス管理とサポート
職場でのストレスがエンゲージメントの低下を招くことは明らかであるため、ストレス管理に関するサポート体制を整備することが重要である。従業員が心理的な負担を抱え込まず、安心して働ける環境を提供することがエンゲージメントを支える。例えば、定期的にストレスチェックを実施し、従業員のメンタル状態を把握することで、問題が早期に発見され、必要な支援を行うことができる。
相談窓口やカウンセリングサービスを提供することで、従業員が気軽に相談できる環境を作り、精神的な負担を軽減することができる。こうした取り組みは、従業員の心身の健康を守り、結果的にエンゲージメント向上につながる。
5-6.フィードバックの充実
ワークエンゲージメントを高めるためには、上司・同僚からの丁寧なフィードバックが欠かせない。従業員が自分の業務についてどのように評価され、どの部分を改善すべきかを理解することは、モチベーションを維持するための重要な要素である。フィードバックは単に結果を伝えたり、欠点を指摘するだけでなく、従業員の成長を促進するための手段として活用すべきである。
フィードバックは具体的かつタイムリーであるべきだ。定期的に進捗状況を確認し、課題が発生した時点で迅速に対応することで、従業員は自分の仕事が組織にとってどのような影響を与えているのかを実感することができる。遅れたフィードバックは、従業員が改善点を意識しづらくなるため、タイムリーさが重要である。
フィードバックは単に批判的なものではなく、建設的でポジティブな内容も含めるべきである。良い成果についてはしっかりと評価し、次回に向けての意欲を高めるポジティブなフィードバックを行うことで、従業員は自信を持ち、さらに努力しようという気持ちが芽生える。このようなフィードバックの循環は、従業員が仕事に対してより高いエンゲージメントを感じるための一因となる。
さらに、フィードバックは双方向であることが望ましい。上司から部下へ一方的にフィードバックするだけでなく、部下の意見や提案を受け入れる上司の姿勢も大切である。これにより、従業員は自分の意見が尊重されていると感じ、より積極的に仕事に取り組むようになる。組織全体でオープンなコミュニケーションを促進し、双方向のフィードバック文化を築くことが、エンゲージメント向上の鍵となる。
フィードバックは従業員個々のキャリア成長にも直結するものであるべきだ。長期的な成長を見越して、スキル向上やキャリアパスについても具体的なアドバイスを提供することが求められる。これにより、従業員は自身の成長に対して意欲的になり、さらに業務に対するエンゲージメントを高めることができる。
6. ワークエンゲージメントを高めて企業価値向上を
ワークエンゲージメントを高めることは、従業員の働きがいを向上させ、企業の生産性や競争力を強化する最善の方法である。
エンゲージメントの高い職場環境を実現するには、快適な物理的環境を提供するだけでなく、心理的安全性を確保することで、従業員が安心して意欲的に働ける土台を築くことが重要である。
すぐれたワークプレイス改革は業務の効率化とともに、社内コミュニケーションの活性化や従業員のウェルネス向上をもたらし、結果としてワークエンゲージメントを高める効果をもたらす。
ワークエンゲージメントを高めて企業価値向上を実現させるためにも、ワークプレイス改革から始めてみよう。