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「証券化」系ビルオーナーもソフトサービスの重要性に気づき始めた 

投資家にリターンの最大化を約束する私募ファンド等の「証券化」系ビルオーナーが自らコストを負担して、テナントサービスに注力するようになってきた。オフィスビル業界全体にテナントサービスの重要性が浸透してきた証拠ともいえるだろう。

2018年 10月 10日

競合ビルとの差別化はハードでは難しい

JLL日本 不動産運用サービス事業部は2018年7月、マスターリースしているAグレードオフィス「コンカード横浜」にてテナント参加型イベント「ウィスキーセミナー」を初めて実施した。定員80名のところ、申し込みが殺到。募集開始からわずか3週間で定員に達し、当日参加者も多数訪れるほどの盛況ぶりだ。

JLL日本 不動産運用サービス事業部 オフィスチームの大橋正典、泉沢千秋、雁林孝介がイベントの企画・運営を担当。実施した背景について大橋は次のように説明する。

「当ビルの至近のみなとみらいに開発が進み、加えて電車で30分ほどの東京都心部では2020年にかけてAグレードオフィスが大量供給され、テナント誘致が一段と激しさを増すと予測している。また、IoTが普及し、いまや都心のオフィスでなくても仕事ができる時代が到来した。オフィス選びで立地のプライオリティが今後低下することが予想される。この2つの理由から、独自のソフトサービスを提供することでテナントの満足度を高めようと考えた。最終的に入居期間の長期化に繋げることが狙いだ」

国内デベロッパーが先行して実践

実はこうしたイベントやセミナー等をテナント向けに提供するAグレードビルが増えている。設備やスペックのハードと対比し「ソフトサービス」と呼ばれる、これらの取り組みを実践するのは国内大手デベロッパーだ。設備やスペックといったハード面のクオリティは建築技術の進化によって差別化が難しくなっている。しかし、ソフトサービスはアイディア次第で競合物件との差別化が可能。「ここでしか体験できない何か」を提供し、ビルの付加価値に転嫁することが可能になる。よく知られているのが、三井不動産が日本橋で始めた「ビルコン」なるイベントだ。自社保有・管理オフィスで働くワーカーを対象に、災害時に同一ビル内にいるテナント同士が共助できるように懇親会を実施するもの。また森ビルは「六本木ヒルズ」等の保有・管理ビルのワーカーが参加するフットサル大会やゴルフコンペ等を実施している。三菱地所、NTT都市開発、森トラストなどもソフトサービスに注力している。

ただし、これらのデベロッパーがテナントサービスに注力しているのは自社グループで保有・管理している旗艦ビルばかりだ。所有と管理を一体で行うからこそ予算が組める。一方、オーナーが別会社の場合、実際に施設管理を担うPMがテナントサービスに注力しようとしても、ビルオーナーが費用負担を渋るためだ。

ところが、最近は投資家に対してリターンの最大化をコミットするファンド系オーナーから、JLLに対してソフトサービス強化について相談を持ち掛けられること増え、その重要性に気付き始めたといえる。オフィス業界全体にソフトサービスが普及拡大しているのだ。

参加者から高評価

さて、イベント参加者の反応はどうだったか。泉沢によると「セミナーに協力してくれた飲料メーカーによるとウィスキーセミナーで80名が参加したのは過去最高とのこと。参加者へのアンケートも好意的な意見が多く、次回のイベントに対するリクエストも多数寄せられた」と上々の反応だったようだ。ちなみに、イベントの協力者である飲料メーカーは同ビルに自動販売機を設置しているベンダーであり、会場はビル内の貸会議室を利用した。また1階の飲食テナントからウィスキーに合う「つまみ」を購入。泉沢は「飲料メーカーは販促活動になり、ビルのテナントにもメリットがあるように配慮した」という。

一方、横浜ビジネスエリアの競合ビルもソフトサービスに力を入れている中、外資系不動産サービス会社であるJLLならではの独自性を打ち出しながら、費用対効果の高い企画を継続的に実施していくのが当面の課題となる。そのため、雁林のように今年新卒でJLLに入社した若手世代の豊かな発想力にも大いに期待がかかる。雁林は入社早々にイベントを担当することになったが「ソフトサービスでビルの魅力を向上させるのはPMマネージャーとしての腕の見せ所であり非常にやりがいを感じる」と前向きだ。JLLでは今後、これらの経験・ノウハウを蓄積し、オーナーに対して付加価値の高い管理サービスを提供していく予定だ。

オフィスビルもオペレーショナル・アセットとして管理・運営の質でその収益性が決まるようになるのではないか。米国では共益費にテナントサービスの費用が含まれ、テナントがその価値を評価し費用負担しているのが現状だ。日本のPMにも「企画力」が求められる時代が遅まきながらやってきた。

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