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【座談会】オフィス戦略のプロが「オフィスコストの最適化」を議論

アフターコロナを迎え、オフィス回帰が本格化。事業拡大や人材採用に対応した拡張移転も少なくありません。一方、内装工事費の高騰など、オフィスコストの負担が重くなっています。そこで、オフィスコストの最適化の可能性について、JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部のメンバーで座談会を行いました。

2023年 05月 29日
座談会参加者
  • 喜沢 健志:JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 シニアディレクター

  • 松本 大毅:JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 シニアディレクター

  • 山田 祐輔:JLL日本 関西支社 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 ディレクター

  • 沖田 滋夫:JLL日本 関西支社 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 シニアマネージャー

  • 瀧尾 智之:JLL日本 福岡支社 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 シニアマネージャー

  • 中村 麻子:JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 営業推進チーム マネージャー

オフィスのあり方が変化

中村:アフターコロナを迎え、オフィス戦略を再構築したいとの相談が急増してきました。企業はオフィスへの投資をどのように捉えていますか?

喜沢:コロナ禍によってリモートワークが浸透し、オフィスに求められる役割や機能が大きく変わってきています。よくあるのが現状1,000坪のオフィスをリモートワークやサテライトオフィスを活用することで800坪に縮小。減床した200坪分のコストをIT機器に投資する他、従業員が来たくなるオフィスを構築するために内装デザインや設備を強化する、あるいは立地を改善するために移転するなどの動きが目立ちます。

山田:本社オフィスの場合は、関西でも喜沢さんがおっしゃるように前向きな移転が多いように見受けられます。

沖田:本社オフィスに関しては大きな投資をする一方で、支店や営業所では最低限のオフィス機能しか設けていないという企業が多い印象でしたが、コロナ禍を契機として働き方やオフィスの在り方を再構築した際に、支店や営業所にも本社と同等の“働く環境”を整備しようと、内装やオフィススペースなどに投資する機運が高まっていると感じます。

瀧尾:再開発が進む福岡では募集賃料が坪3万円に達する新築Aグレードオフィスが登場し、入居を検討する企業が増えています。とはいえ、賃料負担が大幅に増すので、フリーアドレスやABW型オフィスを採用し、床面積を効率化する動きが顕著に表れています。
 

賃料よりも工事費用が高騰

コロナ禍を受けて働き方やオフィスの在り方を再考し、オフィスコストを見直す好機と捉える企業も

中村:コロナ禍となった当初「オフィス不要論」が注目されましたが、事業拡大や人材採用を目的にした拡張移転など、前向きなオフィス移転が増えているみたいですね。最近の企業の動きはどうでしょうか。

喜沢:東京オフィスマーケットは2019年をピークに直近3年間で賃料水準の下落が続いているため、実はオフィス移転の絶好のタイミングともいえます。実際に賃料が値ごろになってきているので拡張移転する企業も少なくありません。一方、移転しないまでも普通建物賃貸借契約の更新や定期建物賃貸借契約の再締結のタイミングなどで賃料減額交渉を希望される企業が増えているようにも見受けられます。ただ、2012年頃からコロナ直前までじりじりと賃料水準が上昇しており、賃料減額交渉を経験された担当者がいない企業も少なくありません。そのため、JLLでは従前から外資系企業を中心に賃料交渉などを支援するテナントコンサルティングサービスを提供してきましたが、最近になって日系大手企業に活用いただく機会も増えています。

松本:オフィスコストを見直すにあたって、移転するか、留まるかを検討する中、現在は新規募集賃料がかなり値ごろなので、最初から「移転ありき」の考え方をされる企業も少なくありません。しかし、移転検討と同時並行で現入居ビルのオーナーとも賃貸条件について協議することで、現在のマーケットに合わせた賃借条件を提示いただけることも増えています。

中村:リモートワークを積極的に活用し、オフィス床を縮小することで賃料負担を軽減。賃料削減分を従業員のベースアップやITインフラに投資するといった“コスト再配分”を行う企業も出てくるなど、コロナ禍を受けて働き方やオフィスの在り方を再考する企業にとってはオフィスコストを見直す絶好の機会ともいえそうですね。

松本:移転の時には特約条項や賃貸条件含め条件交渉を積極的に行うことが多いのですが更新・再契約の時には条件交渉を行っていないケースも見受けられます。JLLとしては企業ごとの中長期的な不動産戦略に合致した形で、フレキシブルに条件交渉の支援をさせていただくことも多いです。

オフィス賃借時の特約条項とは?

中村:地方のオフィスマーケットでもコストセービングのニーズが高まっていますか?

瀧尾:福岡オフィスマーケットは多少軟化しているといわれながらも継続賃料より新規募集賃料のほうが高い。賃料減額交渉できるような状況ではないのです。

中村:都市によって背景や状況が違うため、頼れるオフィス戦略のプロに相談することも解決手段の一つですね。その他に気をつけるべきポイントは何でしょうか?

山田:拡張移転は床面積を拡張するので賃料負担が重くなることが多いのですが、企業にとっては内装工事費の高騰も大きな負担になっています。私が担当した案件では、館内増床しようにもB工事の費用が高騰していたため、当初計画した予算では賄いきれなくなったので、オーナーとテナント双方がメリットを享受できるよう内装工事費用を軽減しながら館内増床を支援したことがあります。

喜沢:確かに内装工事や原状回復工事のコスト高が移転のネックになっています。実際に移転プロジェクトが進んでいく中で、はじめて「こんなにコストがかかるの?」と驚かれ、あえなく移転やリニューアル工事をあきらめる企業も少なくありません。また、工事費が高騰しているため、入居契約する前に工事区分の変更協議をするということの重要性が高まっていますね。一般的な工事区分協議とは、いわゆるB工事をC工事に変更することを指します。C工事になると発注先のコンペができるので、コストを下げることができます。わかりやすいところでは間仕切り工事が該当しますね。

松本:工事区分協議には、当該ビルの過去の施工事例など、比較可能なデータを根拠としてオーナー側に提示し、理解してもらう必要があります。JLLでは国内外で数多くのオフィス移転に関する工事を手掛けてきた実績があり、各種データも豊富に有しています。様々な形でご支援できます。

沖田:賃料ばかりに目が行きがちですが、水光熱費や清掃費用の高騰も看過できない状況になってきています。また契約更新の際に敷金の一部を返還請求し、返還された敷金を別の設備投資や事業活動に転嫁したいという声も増えていると感じます。

中村:賃料以外の費用見直しも見過ごせないポイントですね。JLLでも人材不足による清掃コスト増加の課題に応えるべくAI掃除ロボットを活用した新しい清掃スキーム等を提供していますが、今後ますます有用なサービスになりそうです。
 

オフィス移転におけるコスト最適化のポイント

オフィスにどのような機能が必要か、非常に細かい点まで精査し、まずは必要な機能をしっかり積み上げて適正な面積をしっかりと洗い出す作業がコスト適正化には必要不可欠

中村:オフィス移転でコストを最適化する方法はありますか?

喜沢:従前、従業員に100%出社を求める働き方に慣れていたため、画一的に「●名採用したら●坪増やす」といった“一次方程式”が成立していたのでしょう。しかし、コロナ禍で働き方が多様化し、一次方程式ではなく、複合的な視点からオフィス環境の最適化を図るための二次方程式、三次方程式が求められるようになってきました。オフィス移転前の検証作業の必要性はこれまで以上に高まっていくと思われます。

沖田:日系企業がオフィス移転を検討する際、面積ありきで移転先を選定するケースが多くみられます。一方で、外資系企業は「なぜその面積が必要なのか?」をオフィスの在り方と併せて先に検証を行った上で、移転先を選定するケースが多いと感じます。面積を適正化することによって、表面的な賃料コストを軽減するだけではなく、面積に準ずるファシリティコストなど、“表面化しにくい”コストも削減できる可能性があります。

喜沢:移転先を選定する前の事前準備も重要ですよね。例えば、大型会議室を設けているにもかかわらず1人だけでオンラインミーティングを行っているといった話を最近よく聞くようになりましたが、移転を検討する時には会議室の稼働状況などを事前に調査する他、オフィスにどのような機能が必要か、非常に細かい点まで精査し、まずは必要な機能をしっかり積み上げて適正な面積をしっかりと洗い出す作業がコスト最適化には必要不可欠です。感覚的に当初800坪必要だと考えていたものの、精査したことで床面積を大きく削減した移転事例もあります。浮いた賃料分を活用して、より利便性の高い立地へ移転したり、よりグレードの高いビルへ入居することができます。

中村:賃料の多寡が話題になりがちですが、付随コストも無視できませんね。

山田:あとは内装工事費用をいかに削減できるか。例えば工事区分をB工事からC工事に変更する他、B工事をA工事に変更するといった、オーナーに工事費用を負担してもらえるようにテナントの交渉を支援したことがあります。大阪でも空室を多く抱える物件などではフリーレント期間が長期化してきているので、長期のフリーレントを獲得して、賃料負担を軽減し、工事費用に転嫁するといった助言も行いました。

松本:新築ビルへ移転する場合に限りますが、竣工前工事も内装工事に係るコストを大幅に削減できる可能性があります。竣工の2年ほど前に入居を決め、かつ、内装のデザインが決まっていれば、躯体工事と同時並行で内装工事や内階段設置工事を進められる可能性があり、工事費用を削減できる他、契約開始前に内装工事が完了していればフリーレントのメリットを最大限に教授することもできます。新築ビルへの入居は早く検討するほど大きなメリットが得られる可能性があります。

喜沢:A工事区分にしてもらうための交渉では、内階段はオーナーが承認することが多いです。

松本:将来の採用人数や賃料動向を予測するのは非常に難しいのですが、オフィスの規模が大きければ竣工前工事のメリットは非常に大きくなります。

中村:今後、各都市で新規供給が増えてくるので、自社の様々なリクエストを相談できる可能性もあり狙い目かもしれませんね。

松本:原状回復工事もコストを抑える余地が大きいと思います。JLLが提供している原状回復工事査定サービスのニーズが増えていることもその証拠ではないでしょうか。また、一定の面積を超える移転の場合には、コスト・工期・質を管理するうえでプロジェクトマネジメントサービスが重要となります。その他、居抜きオフィスに移転することで内装工事費用を削減できますし、居抜きで使ってくれる後継テナントを見つけてくれば原状回復工事費を抑えられる可能性があります。また、内装工事にコストをかけたくなければ一定程度の内装造作が施されているセットアップオフィスやサービスオフィスという選択肢もあります。2年に1度程度のペースで拡張移転が必要な成長企業にとっては良い選択肢といえるでしょう。

オフィス戦略を成功に導くためのポイント

東京Aグレードオフィス 賃料・空室率の将来予測(2022年第4四半期末時点)出所:JLL日本

賃料などのオフィスコスト削減分に相当する利益を本業で得るためには何%売り上げを伸ばさないといけないのかを考える企業も

中村:JLLでは、東京・大阪・福岡各都市において2025年頃までは賃料が緩やかに低下すると予測しています。賃料下落フェーズは賃料最適化の絶好の機会になりえますが、オフィス戦略を成功に導くためのポイントは何でしょうか?

松本:外資系企業と日系企業の双方を支援してきた経験からですが、外資系企業ではオフィスを賃借するのは事業活動の一環であり「現在のマーケットに対して妥当な賃料にしてください」と交渉するのはビジネス上、ごく当たり前の考えとして捉えている印象があります。そういった事例を日系企業の方々にお話すると「自社は賃料を最適化できるチャンスを逃しているのでは」というお答えがよく返ってきますが、ただ単に賃料最適化を図るだけでなく、これまでのオーナーとの関係性を大切にしながらもオーナー・企業の両者がビジネスを成長させるため、双方にとって喜ばしい条件を探るということが両者のビジネスにおける大きなメリットであり、重要なポイントの1つではないでしょうか。

喜沢:オフィスビルは金融商品化が進み、以前ほどオーナーの顔が見えなくなりました。オーナーに代わって物件管理を担当するプロパティマネジメント会社と協議する場合もありますし、短期間でオーナーが代わる物件も少なくありませんね。

松本:また、賃料などのオフィスコスト削減分に相当する利益を本業で得るためには何%売り上げを伸ばさないといけないのか、具体的に計算し、オフィスコストの見直しに取り組む企業は多いです。特に東京では2017-2020年頃の賃料上昇フェーズで新規契約もしくは再契約した場合、賃料減額の交渉をするかどうかの検討も今後のオフィス戦略における重要なポイントではないでしょうか。仮に99%再契約の場合であっても、移転が可能なタイムラインでオーナーと交渉することでテナントの交渉優位性が保たれますので、再契約・移転に拘わらず、最適な不動産戦略の策定・実行が重要だと考えます。

沖田:また拠点単体でオフィス適正化の検証を進めるよりも、よりマクロな視点に立ってオフィス戦略を検証することで、より戦略的にオフィスコストの削減を期待できると考えます。単に拠点単位でオフィスの在り方を検証するではなく、各企業の経営戦略に則って、包括的に不動産戦略を策定することが、オフィス戦略を策定するうえで成功の秘訣といえます。

中村:ここまでのお話をまとめると「オフィス市況が上昇傾向にあった2017-2020年頃に移転・再契約・更新をした企業は、賃料最適化を検討する絶好の機会」、「働き方の多様化に合わせてオフィス移転前に複合的な視点から検証作業を行い、オフィス面積の適正化を行うことが肝要」、「工事費などのコストが高騰しているので、移転の際は工事関連のコスト・工期を管理することが重要」といった点がオフィス戦略を再構築するための重要なポイントになりそうです。JLLでは企業のオフィス戦略を様々な角度から支援する多彩なサービスを提供していますので、ぜひご利用ください。本日の座談会に参加してくれた皆さん、ありがとうございました。

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