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 賃料増額に動くオーナー、対応迫られるテナント    

空室が枯渇する東京Aグレードオフィスマーケット。ビルオーナーは賃料増額改定の動きを強めている。目の前に迫る賃料増額の打診…なんとしても避けたいところ。こうした中、オフィス戦略の再検討を余儀なくされるテナントは「賃料の見直し」を視野に入れる。

2018年 03月 22日


ビル市況回復しオーナー賃料増額改定に動く

JLL日本リサーチ事業部の調査によると、2018年1月末時点での東京Aグレードオフィスの空室率は2.5%。賃料増額の目安となる空室率5%を大きく下回る、完全な「貸主優位」の状況が続いている。これまでは小幅な賃料改定に留まっていたものの、ここ最近、契約更新のタイミングを迎え、大幅な賃料増額改定を打診されるテナントが増加しており、オフィス戦略の再検討を迫られているというのだ。

オフィス賃料の増額幅はビルの入居時期によって異なるが、月額坪当たり1,000円増額した場合、広い床面積を賃借する大口テナントにとって賃料負担は軽くはない。仮に5000坪賃借しているとすると年間賃料は6000万円増えることになる(坪当たり1,000円×床面積5000坪×12カ月)。こうした改定賃料を素直に受け入れられないというのが多くのテナントの本音ではないだろうか。

テナントレップで10億円以上のコスト削減も

JLL日本マーケッツ事業部でテナントのオフィス戦略をサポートする「テナントレップ部門」に所属する牛島洋によると「賃料増額改定を打診されたテナントから賃料相場や競合ビルの空室状況といったオフィスマーケット動向の調査依頼が増えている。目的は賃料増額分が妥当かどうかの確認で、オフィス移転も踏まえて相談される」と指摘する。JLLの調査をもとにテナントがオーナーと賃料交渉を行い、オーナーからの初回提示額から10億円以上のコスト削減に繋がった事例もあるという。とはいえ、牛島は「オーナー側の譲歩が引き出せるのは、短期間での埋め戻しが困難な大口テナントならでは。例えば1万坪を賃借するテナントが退去した場合、いくら市況が良いとはいえ埋め戻しには時間がかかる」とその背景を説明する。

また、2018年~2020年にかけて3年連続で過去平均以上のAグレードオフィスが新規大量供給され、空室が増えると危惧されている。空室率悪化の予兆が現れ始めた2016年後半当時、直近で竣工予定のAグレードオフィスの募集賃料が高騰し、テナントがついていくことができず、思いのほか成約が進まなかった。しかし、その後オーナーの姿勢は軟化。2017年竣工物件のみならず、2018年竣工予定のAグレードオフィスも堅調に内定が進んでいるが、移転元の既存オフィスの埋め戻し動向が不透明なことからオーナーとテナントによる賃料交渉はますます増加していくと推測される。

増額改定はオフィス戦略再構築の好機

牛島は賃料増額改定のタイミングを「オフィス戦略を見直す良い機会にすべき」と指摘する。現在入居しているオフィスで賃料増額を受け入れた場合と、他のビルへ移転した場合の事業へ与える影響を加味した上で、一時的に高額な費用を負担しても場合によっては移転したほうが良い場合もある。もしくは現在賃借している床の一部を解約し、外部のフレキシブルオフィスで不足分を賄うという方法も考えられる。こうしたオフィス戦略を検討する中でオーナーサイドと賃料増額分について交渉するという選択肢も視野に入れておくべきではないだろうか。賃料減額とはいかないが、フリーレント期間を勝ち取るケースもある。願わくば、オーナーとテナント双方がWIN-WINの関係であり続け、お互いに成長していければよいのだが…。

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