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コロナ対策で需要高まる清掃ロボット:ファシリティマネジメントの専門家が運用効果を最大化する

新型コロナウイルス感染拡大を機に、人と人の接触を極力避けるようになり、清掃作業に対する需要も大きく変化している。自動走行で清掃を行う清掃ロボットに注目が集まっているのだ。

2020年 08月 07日

オフィス専有部で高い運用効果を実証した「Whiz」

清掃ロボットの運用効果を実証したJLL

「オフィス専有部にWhizを導入してこれだけの運用効果を実証した事例は記憶にない」。こう話すのは、業務用AI清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」を開発したソフトバンクロボティクス株式会社のプロジェクト推進本部 営業推進統括部 パートナー推進部 部長 小暮 武男氏だ。

小暮氏が指摘する「事例」とは、企業の総務業務を外部受託するJLL日本 コーポレートソリューションズ法人事業部が立案した「Whizを活用した清掃スキーム」のことだ。詳細は別記事「日本イーライリリー‐清掃ロボット導入事例」に譲るが、オフィス内における新型コロナ感染防止策としてWhizを導入し、清掃コストそのままで、清掃品質の向上を高いレベルで実現したのである。

2019年頃から業務用清掃ロボットが普及拡大

従来型の清掃ロボットは「障害物を検知・回避する」ことを重視して機体に多数のセンサーを搭載しているが、カーペットなどの床面バキューム清掃に特化したWhizは事前に清掃ルートを設定(ティーチング)することで、当該ルート上をほぼ誤差なく自立走行で清掃する。機体に搭載された2つのセンサーでルート上にある障害物を検知し、回避。すぐにルートに戻り、停止することなく清掃を再開できる。高価格のセンサー数を必要最小限に絞ったことで開発費を抑えられ、値ごろな初期導入コストが魅力となっている。

清掃ロボットといえば家庭用でおなじみだが、オフィスやホテルなどの不特定多数が利用する施設を対象にする業務用清掃ロボットは高性能がゆえにコストがかかり、これまで広く普及するには至らなかった。

しかし、近年は省コストでありながら高性能化を実現した機体が登場しており、大手デベロッパーを中心にWhizをはじめとする業務用清掃ロボットの導入が進み始めている

デベロッパー国内大手が2019年1月にWhizを100台導入すると発表した事例をはじめ、東京を代表するAグレードオフィスや空港などの大規模施設への導入も進められている。そして、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに清掃ロボットへの注目度は飛躍的に高まることに。業務用清掃ロボットが登場し始めた2000年初頭から約20年の時を経て、ついに本格導入の機運が高まってきているのだ。

清掃ルートを事前設定するため緊急停止するケースが少ない

障害物(什器)の近くまで清掃することが可能

清掃ロボットに懐疑的な視線

とはいえ、清掃ロボットを懐疑的に見る声は一部で根強い。清掃ロボットの導入メリットとして「清掃作業員の人手不足解消」と「単純な清掃作業はロボットが対応し、清掃作業員はより丁寧な清掃作業に注力できる」ことが広く喧伝されているが、果たしてその費用対効果がどの程度あるのか定量的に調査された事例が聞こえてこないことが、その一因でもある。中には「テクノロジーを活用する先進的な企業」としてPRするために清掃ロボットを導入する企業も存在するようで、実用性については十分な検証がなされているとは言い難かった。

これまでテクノロジーに縁遠かった業界ほど、テクノロジーの万能性を盲目的に信じている「クセ」のようなものがある。AIで自動走行する清掃ロボットを導入すれば、清掃作業を完全自動化できると勘違いしがちだが、その性能を最大限引き出し、最も効果的な清掃スキームを立案・実行するのは、あくまでも人が担うものだ。

JLLが行ったWhiz試験運転

話を冒頭に戻すが、JLL日本が立案した清掃スキームは単純作業の床面バキューム清掃はWhizが担い、ロボットでは清掃することが難しい部分(例えば会議室や机の下など)を清掃作業員が担当する。作業員と清掃ロボットの協働は広く知られる導入メリットで、文章にすると単純なスキームだが、これを実現する最大の課題は人とロボットの作業負担を最適化できるかどうかにかかっている。

例えば、JLLが行ったWhizの試験運転では、Whizが障害物として認識しにくい什器があることが判明した。障害物として認識できなければ衝突、緊急停止してしまい、規定時間内でのバキューム清掃を完了することができない。そのため、障害物として認識しにくい什器をあらかじめWhizの清掃エリア外に移動させるなど、オフィス内のレイアウトを微調整しなければ、Whizを最大限有効活用することができないのだ。

また、Whiz導入により、清掃作業員の労力を別の清掃作業に振り替えることが可能だが、果たしてどの部分の清掃に注力すれば、総体的な清掃品質の向上に繋がるのかわからない。目に見えない汚れ(ウイルスが大量に付着するなど)も当然ありえる。目視で汚れが確認できなければ、清掃工数の削減(=清掃コスト削減)に走りがちだが、それでは清掃品質は下がる一方だ。

これに対して、JLLではソフトバンクロボティクスの「清潔度診断」サービスで採用されているパーティカルカウンター検査やATP拭き取り検査を実施し、より丁寧な清掃が必要な部分を割り出した。そして清掃作業を見直し、新たな清掃スキームを構築していったのだ。結果として、従前比で2割ほどの人件費削減効果が得られ、このコスト削減分を他の清掃作業に振り替えて、なおかつ除菌を目的とした拭き上げ清掃のやり方などを清掃作業員に指導したことで、清掃品質の向上を実現することができたのだ。

Whizの試験運転を担当したJLL日本 コーポレートソリューションズ法人事業部 大西 保弘は「清掃ロボットの性能を最大限引き出し、クライアントにとって最適な清掃スキームを立案するためには、ファシリティマネジメントに精通した専門家の知見を活かし、清掃会社にも協力してもらうことが必要不可欠」との認識を示す。事実、JLLが実証したWhiz導入時の運用効果を引き出したのは、ファシリティマネージャーと清掃会社が協働して、科学的データに基づいたハイブリッドな清掃スキームを実行できたからに他ならない。

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