記事

「体験を大切にする」オフィス作りが企業価値を高める

すべてのオフィスに共通して求められるには「人が働くことを中心に考える」ことだ。オフィスの効率性や設備も重要だが、いわゆる「Well-being(良好な状態)」を実現するオフィス環境こそ「オフィスで稼ぐ」ために必要不可欠との認識がグローバル企業を中心に広がっている。

2018年 03月 02日

失敗する「働き方改革」はワークプレイスに原因

少子高齢化による人手不足が顕著になり、人材獲得競争が過熱している。優秀な人材を確保するため、企業が力を入れているのが「働き方改革」だ。しかし、うまく機能していないケースも散見される。手始めに労働時間の削減に着手する企業は実に多いが、労働時間が短くなっているにもかかわらず、従前と同程度の業務量が課せられ、自宅で仕事をするという状況に陥ることも少なくないという。これでは社員のモチベーションはマイナスに傾くばかりだ。

「働き方改革」を効果的に進めるためには何が必要なのか。答えの1つは「ワークプレイス」にある。端的にいえば「働きやすい執務空間」を構築することが鍵になる。健康的で働きやすい環境を提供することで人材確保、既存社員の長期定着を促す。従業員1人あたりの生産性を高めることも可能になる。とはいえ「働きやすさ」は非常に感性的な指標であり、従業員1人1人の感覚はそれぞれ異なる。例えば、天井の配管をむき出しにしたオフィスはどうか。ベンチャー企業に人気の「今風」オフィスであり、天井が高くなることで開放的な雰囲気になる。これも「働きやすさ」を追求した一例といえるが、従業員すべてが「快適」だと感じるかは微妙だ。そして、果たして労働に対してモチベーションが高くなっているのか、定量的に判断するのは難しい。

JLL、グローバル調査を実施

JLLが2017年6月に発表したグローバル調査「ヒューマン・エクスペリエンス(体験)がもたらすワークプレイス」では、従業員のモチベーションを喚起するためには「エクスペリエンス(体験)」が最も重要との結論を導き出している。グローバル企業40社の人事担当者、不動産の専門家と9回に及ぶワークショップ、12か国7,346名へのアンケートをもとに作成した調査であり、「ヒューマン・エクスペリエンスとは人が中心となり、人の体験によってオフィス・企業の生産性が変わってくる」という結論を導き出すに至った。会社や仕事に対してコミットし、自分で働く場所や働き方を自らコントロールでき、それでいて居心地がいい。人がオフィスで主体的にその感覚を「体験」できるワークプレイスを構築することができれば、生産性が格段に伸び、人の働き方そのものを変革することができるという考え方だ。JLLコーポレート営業本部 部長 佐藤俊朗は「オフィスにおける働く人を中心とした考え方はグローバル企業において真剣に議論されている」と指摘する。コストの多寡でオフィスを判断してきた時代は過ぎ去り、ワークプレイスを「稼ぐ場所」と捉え、そこで働く従業員のパフォーマンスをいかに最大限発揮してもらうか、人の働き方で企業価値や企業利益が変化することを重視するようになっているというのだ。

ヒューマン・エクスペリエンスを重視する最大の目的は人材獲得で差別化できるためだ。優良な「体験」ができるワークスペースは優秀な人材を引き付ける。さらにクライアントをオフィスに招くことで、企業イメージを伝えやすくなる。社員がイキイキと働いていることをアピールすることが可能になる。

先の調査ではワークショップに参加したCRE担当者から「ヒューマン・エクスペリエンス」で得られる効果についての見解が広く集まった。クリエイティビティやコラボレーションを創発する「イノベーション」の効果、心身の健康を高める「ウェルビーイング」と「パフォーマンス」の向上、企業文化の注入、「アジリティ」を高める効果等が挙げられている。ワークプレイスに柔軟性と多様性を提供することで社員はデスクに座りっぱなしにならず、自ら動き始め、コラボレーションの機会を自ら増やしていくことで、働き方やビジネスのスピードを自発的に早めることに成功したという事例は興味深い。

しかし、こうした仕掛けを有するオフィスを構築するには当然一定程度のコストを要する。これに対して佐藤は「働き方の変革を真剣に進める企業の経営層は経営戦略の一環としてワークプレイスの見直しに投下するコストを惜しまなくなっている」との見解を示す。企業価値が上がり、生産性・利益も向上する。資産圧縮だけに頼らない生産性重視のROE(自己資本利益率)に着目する株主が増えたことも、これを後押ししている。この考え方はグローバルを主戦場とする世界的企業に広がり、すでに実行に移されているというのだ。

日本のオフィスは詰め込み型

とはいえ、日本企業の考え方はまだまだ保守的といわざるを得ない。先の調査では日本の回答者として社員数100名以上の会社に勤務する508名にアンケートを行っている。その結果、日本のワークプレイスで一般的なのは大部屋形式の「オープンプランオフィス」が主流であり、このオープンプランスペースに人を詰め込んでいることが判明した。世界のワークプレイス平均利用人数は45人。一方、日本の平均利用人数は68人と突出している。佐藤は「中国よりも日本は人の密度が高く、いかにワークプレイスが込み合っていることが分かる」と指摘する。その半面、日本のワーカーは自分の固定席で仕事の時間を過ごしている割合が75%に達し、管理職以外になると80%となる。日本のワーカーは選択肢が少ない状況で働かされていることを示唆している。また、イノベーションを創発するワークプレイスとして期待されるコミュニティスペースの導入割合は35%に留まり、世界の導入割合56%を大幅に下回っているのが現状だ。

しかし、こうした問題点は十分に認識されている。アンケートには「会社から提供されているワークプレイスで効果的に仕事ができますか?」との設問があるが、世界平均52%に対して日本は37%。ワークスペースに対して満足度が世界よりも低く、ある意味ワークプレイスを見直すことで「働き方改革」を加速させる余地はまだまだ多いことが確認できたともいえるだろう。

オフィスづくりに真剣に取り組まなければ「働き方改革」は「絵に描いた餅」に過ぎないのだ。

人手不足で求められる労働生産性の向上と従業員を確保する方法とは?