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「古くて新しい」歴史的高層オフィス人気再燃

2018年から2020年にかけて都心部ではAグレードオフィスが約170万㎡の新規大量供給となる。新築ビルに比べてスペックが劣ると見なされている既存ビルは「二次空室」のあおりを受けて苦戦するかと思いきや…。

2018年 11月 14日

大量供給で既存オフィスに二次空室の危機?

竣工から時が経つたびに資産価値が低下していくのが日本の建築物の悲しい定め。新築がもてはやされるのはオフィスビルも同様だ。東京オフィスマーケットでは新築物件の募集賃料は既存物件よりも2割以上高いが、直近で竣工した新築Aグレードオフィスはいずれも満室稼働ないし高稼働で開業を迎えている。

そんな「新築至上主義」の東京オフィスマーケットでは2018年から2020年にかけて約170万㎡のオフィス床が供給される。大量供給によって需給が緩み、空室率の悪化を危惧する声を頻繁に耳にするようになってきた。苦戦が予想されるのは新築ビルに比べて、スペックで劣る(と見なされている)既存ビルだ。オフィスの集約・統合ニーズを受けて、まとまった床を確保できる新築ビルの需要は堅調だが、移転元となる既存ビルは埋め戻しに時間が苦労すると見られていたが、状況は大きく異なる。JLL日本 マーケッツ事業部 横山貴明は「築年が経過した高層ビルでは大規模なリニューアル工事を継続的に実施しており、新築オフィスと遜色のないスペックまで高めつつ、テナントサービスを充実させることでリーシングにおいて人気が再燃している」と指摘する。

リニューアルで新築ビルと遜色のないスペックに

「日本初の高層ビル」として1968年に竣工した「霞が関ビルディング」が大規模リニューアル工事の好例だ。竣工20周年を迎えた1988年から2009年まで3回に及ぶ大規模リニューアル工事を継続的に実施してきた。設備更新、外壁改修、基準階改装はもとより、外構広場・飲食施設の整備等により、最新設備へのアップグレードを行っている。そして2015年-2016年に実施したリニューアルでは、防災センターや車寄せの改修により、単純なスペック向上にとどまらず、テナントワーカーや来館者に対する安全・安心へのサービス提供にも注力している。竣工から50年を迎える今も絶えずその価値を高め続けている。

築年の経過とともに、設備等のハード面はどうしても時代にそぐわなくなくなるが、リニューアル工事によって新築ビル並みのスペックまで引き上げることは可能だ。例えば、1981年に竣工した大規模オフィス「日比谷国際ビルディング)は共用部、専有部双方をリニューアルで一新している。共用部のリニューアル工事では、約150坪に及ぶテナント専用のビジネスサポートラウンジを設置する他、エレベーターホール、廊下、扉、ダイレクトサインを格調の高いデザインに一新。加えて、専有部へ35時間電源供給(15VA/㎡ ※供給面積に制限有)が可能な非常用発電機を追設している。一方、専有部は空調を一新。これまでのゾーニングはフロア4分割が限界だったが、18分割に対応。そして既存ビルの最大の弱点でもある天井高は2450mmから2630mmに変更した。いまや専有部のLED化はなかば常識、横山は「内覧してみると70年代、80年代とはとても思えない。築年とのギャップでより魅力的に見える」と内覧者受けを実感する。

テナントサービスに注力

また、昨今のリニューアル工事の特徴としてソフトサービスを念頭に置いた取り組みが目立つ。商業施設やホテル等を併設する「サンシャイン60」では「入居テナントの従業員は施設内の水族館をはじめ、飲食店、アパレルショップ、ホテルの割引サービスが受けられる他、テナント専用のラウンジスペースや食堂も利用可能」(横山)だという。また、他のビルではテナント専用の仮眠室を用意しており、一定時間は無料で利用できる。アロマの香りが漂い、マッサージチェアまで完備している。横山によると「新築のAグレードオフィスではテナント専用のラウンジを設けるケースが増えているが、ソフトサービスまで踏み込んでいる例は少ない。テナントとしては『社員の福利厚生』としてのインセンティブとなり、経営者にとっても無視できない」と指摘する。

リニューアル工事を行い、ソフトサービスを拡充することによって成約までのスピードは明らかに早くなるという。賃料についても「募集賃料を少し高めに設定しても順調に空室を消化している」(横山)というのだから、その効果のほどが窺える。これにより築年の新旧によるリーシングにおける人気差は大きく縮まっているのが現状だ。

横山によると「そもそも新築Aグレードオフィスへの入居を希望するテナントは、まとまった床を確保する必要があるため。すでに稼働中の既存オフィスでは対応できない。ある意味『必要に迫られた』一部のテナントが新築ビルを嗜好する一方、それ以外のテナントは新築・既存へのこだわりはそこまで強くない。立地や賃料、サービス面で総合的に入居物件を選定することになり、リニューアルを重ねた既存ビルを選択するテナントは少なくない」と強調する。

歴史を感じさせる外観とは裏腹に、中身はピカピカの最新鋭。「古くて新しい」歴史的高層ビルの人気を支えるのはテナントサービスを踏まえた計画的なリニューアル工事に他ならない。

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