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東京都心部の商業施設、回復の兆し

コロナ感染拡大に伴い一時的に大きな打撃を受けた都心部の商業施設が、ここにきて回復に向かっている。消費マインドや行動様式の変化などを経て、賃料増額や新規出店の事例も出てきている。

2022年 03月 31日

オミクロン株の流行とともに一旦落ち着いていた陽性者数が再び増加に転じ、メディアなどで「第6波」と称されるなど、新たな大きな感染の波となった新型コロナウイルス。2年前の「第1波」からホテルと並んで最も影響を受けたセクターといえば商業施設であろう。ただし街から人影が消えた2年前に比べて、東京都心部の商業施設は緩やかながら回復傾向にあるようだ。

コロナ支援策で店舗売上を支える商業REIT

商業施設を多くポートフォリオに抱える日本都市ファンド投資法人(JMF)が毎期ごとに発表している資料を紐解くと、2020年4月時点で賃料の一時的な減免措置の請求があったテナントの割合は実に70%に及んでいた。当時は多くの国民にとって初めてとなる「緊急事態宣言」が発出され、多くの商店が営業を中止していた時期である。ウイルスの正体がはっきりしないなか、何の準備もできていなかったテナント側は賃料の減免でなんとか事業の継続を図ろうとしていた。

オーナーであるJMFも共に苦しい時期を乗り切ろうという姿勢で賃料の減免に応じた他、行政からの補助金の申請サポートなど数多くの救済策を講じてテナント側の希望に応じていた。その結果としてその後の緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の期間にあっても各店舗の売上自体はコロナ前の2019年比で80-90%を維持してきている。

テナント誘致で賃料増額、新規出店も

画像提供:PIXTA

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都市型商業施設において空き区画に市場水準を上回る期間限定店舗や来店型テナントを誘致することで賃料の増額を実現

コロナ感染拡大初期には70%を超えた賃料減額要請も2021年2月には全テナントのわずか7%となり、テナント側の運営も落ち着きを見せ始めている。ここ最近では都市型商業施設において空き区画に市場水準を上回る期間限定店舗や来店型テナントを誘致することで賃料の増額を実現できるまでになってきている。これは変異を繰り返すたびに弱毒化しているとされる新型コロナウイルスそのものの変化が消費者のマインドを変えつつある点と無関係ではないだろう。

そうした消費者のマインドセットの変化は様々な統計データからも読み取ることができる。経済産業省が毎月発行している商業動態統計をみると、特に美術・宝飾・貴金属の売上がここにきて堅調さを増している。つまり「高いもの」が売れている状況であり、消費の拡大が実感できる指標といえよう。またこうした高価格帯の商品は銀座や青山・表参道などのいわゆる一等地との親和性が極めて高いことから、高級ブランドのなかにはそうした一等地において新規出店するなどの動きも見せ始めている。

百貨店における美術・宝飾・貴金属等の販売額推移 出所:経済産業省

また高価格帯ではないスポーツブランドなどにおいても拡張移転などを含めて都心部の商業施設において店舗展開を加速していく動きも出てきている。新型コロナウイルス感染拡大局面の初期、ちょうど2年前には多くのテナントが閉店し空き区画が多かった銀座や表参道などにおいても徐々に区画が埋まっており、通りを歩いても空き区画が目立つことはほとんどなくなってきているといえよう。

昨今、報道などで都市部からの人口流出が取りざたされているが、都心部に居を構える層はいわゆる「岩盤層」であるといえ、そうやすやすと利便性を手放してまで郊外へ移り住むことは考えにくい。むしろテレワークが一般的となってきているなか、今後は働く場所と消費する場所が一層近接していくと考えられる。利便性のよい立地においては高度に商業施設や居住施設が集中するようになり、さらなる利便性の向上が期待できる。銀座や表参道などにおいても商業施設が集中するエリアに寄り添うように住宅地がみられ、その住宅のほとんどは極めて高い稼働率を享受しているとされる。

「禍を転じて福と為す」とのことわざが示す通り、一時的に予期せぬ大きな打撃を受けた都心部商業だったが、人々のマインドセットや行動様式の変化などを経て、より一層存在価値を打ち出していける時期に差し掛かってきているといえよう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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