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東京のオフィス市場、波が引いた後には?

近年、東京のオフィス市場は新型コロナウイルスの影響により大きな変革期を迎えている。それは、誰もが予想していなかった状態であり、今も見通しが不透明な状況が続いている。今、東京のオフィス市場は新たな時代に向けてどのような対応が求められているのだろうか。

2021年 11月 16日
新型コロナウイルスが及ぼした東京オフィス市場への影響

投資家ウォーレン・バフェットはかつて「波が引いて初めて誰が裸で泳いでいたかわかる」と言ったが、今まさに東京オフィス市場は、大波が引いている真っ只中にある。2012年第2四半期から、2020年第1四半期に新型コロナウイルスの影響が市場に現れるまで、東京オフィス市場は、2019年のピークには空室率が最低水準の0.6%に達するなど空前の長期アップサイクルが続いていた。

そのような状況下では、とりたてて競争優位のないビルも容易にテナントを獲得できていた。ところが、その後、事態は急展開している。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大や、東京での4度目の緊急事態宣言を受け、2021年はほぼ全体を通して経済活動に大きくブレーキがかかっている。政府は産業界にテレワークを要請し、経済見通しも不透明な状態が長引いていることから、テナントは不要なオフィススペースを見直し始めている。

東京Aグレードオフィス空室率の現状と見通し

東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のAグレードオフィス空室率の上昇は、市場全体に及んでいるわけではない。JLLの調査によれば、2021年6月末時点で、Aグレードオフィスビル203件のうち、99件が空室率0%、つまり満室であることが判明した。一方、空室率の需給均衡点とされる4-5%を上回るビルは37件、そのうち空室率が20%以上を超えるビルが5件あり、空室の分布に偏りがあることがわかる。

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目下の需要低迷に加え、2023年から2025年にかけて、前例のない大規模供給を控えていることから、空室率が大幅に上昇し、特に2025年に顕著となる見通しだ。この空室率の上昇は、2008年の金融危機の際に見られたような需要低下が原因ではなく、供給過剰によるものである。オフィスビルを新築するだけでテナントが埋まると見込めたような市況とは異なるため、今後、デベロッパー各社は、これからの供給過剰を踏まえて、テナントリーシングに知恵を絞る必要がある。オフィスビルにテクノロジーやソフトウェアを導入するのも、そうした誘致策の1つである。

デベロッパー各社に求められるテナント誘致策とは

例えば、デベロッパーの間では、建物エントランスやエレベーターに、顔認識技術やセキュリティソフトウェアなどのテクノロジーを導入し、非接触・密回避というポストコロナ時代の理想像に対応する動きが見られる。しかし、長期的には、もっと大局的な見地からは、地球温暖化や気候変動にも着目しなければならない。そのため、オーナーもテナントも、オフィスビルで働く人々や訪問者のウェルネス(心身の健康)に配慮することが求められる。グローバルに目を転じると、一部のテナントはすでにCO2排出量削減の取り組みを求めており、そのような対応をしていない建物は、テナント側の入居先候補にも入っていない状況だ。

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ポストコロナ時代に向けた新たな関心の高まり

この傾向は、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、世界的な広がりを見せており、JLLの管理物件を見ても、建物の環境、衛生、ウェルネスへの関心の高まりがうかがえる。実際、空気質測定値の開示や改善を求める声がテナントから挙がっているのも、その一例と言える。将来的には、サステナビリティに取り組んでいると言うだけでは評価されず、取り組みを定量化し、テナントや投資家に認めてもらう必要がある。波が引いた東京のオフィス市場は競争が激化し、新たな時代への対応が万全のビルと、そうでないビルがはっきりと見えてくるはずだ。

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連絡先 大東 雄人

JLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター

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