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withコロナのキャンパス再開計画

コロナ禍によって閉鎖された大学キャンパスを再稼働させる動きが世界的に見られるようになっている。eラーニング、オフキャンパスの住宅等を駆使し、学生の安全を確保しながら快適な環境を提供しようと世界の大学は様々な取り組みを行っている。

2020年 10月 14日

キャンパス再開に挑む大学

新型コロナウイルスの世界的流行は、世界中で大学生活を混乱に陥れた。高等教育指導者に次学期をいつ、どのように再開するのか、意思決定を求める圧力が高まっている。

米国を拠点に高等教育を専門とするJLL エグゼクティブ・マネージング・ディレクター デービッド・ハウックは「キャンパスを再開する大学は、ソーシャルディスタンスに基づき修正されたキャンパス内の使用ルール、eラーニング、および教室、学生寮、食堂へのその他の安全措置導入を組み合わせたハイブリッドモデルを検討している場合が多い」と指摘する。

例えば、スペインのカタルーニャ化学研究所では、学生や研究者はシフト制で研究所に復帰する。

ハウックによると「大学はモジュールごとの学生のキャンパス入出ローテーション、オンラインクラス限定、キャンパス利用を実験作業に限る等、あらゆる方法を検討している」という。

一方、カリフォルニア州立大学の23キャンパスでは、秋学期の講義はほぼ全面的にオンラインで実施される。他校は様子見姿勢だ。

ハウックは「キャンパス再開を計画している大学でも詳細を検討している段階だ。これは全員にとって未開の地なのだから」と説明する。

ソーシャルディスタンスを重視

ハウックによれば、大学は教室の安全を確保するべく様々な対策を講じており、シナリオの展開に合わせて対応する柔軟性を重視している。

「これにはスタッフ配置も含まれる。多くの大学はキャンパス内の収容人数を抑制するため、スタッフのスケジュール調整を工夫している。これはコスト節減にも貢献し、現在経営が厳しい大学にとって非常に重要な点だ」(ハウック)

在籍学生数1,300人のロサンゼルス郡の私立文系大学であるクレアモント・マッケナ・カレッジは、大規模な州立大学のような施設を持たないため、複数のセクションを用いたより少人数のクラス編成とし、講義時間を夜間まで延長することを検討している。同校はまた、ウイルス感染を抑制する野外クラスも検討中だ。

オーストリアの大学は年末まで学内での講義を実施しないが、夏の間に研究所や一部の機能を徐々に再開することが期待されている。

インディアナ州のパーデュー大学は秋に予定通りの再開を計画しており、大人数の講義はオンライン、学生が指導講師との交流から最も大きな利益を得る少人数のグループ講義などをキャンパス内で実施しようと検討している。

座席が固定された建物では、学生間の空列や空席をテープで封鎖することも考えられる。その他の施設では、座席密度を下げるため家具を取り除いて倉庫に保管することもできるだろう。

そして一部の建物の階段の通行パターンすらも議論されており、手指消毒ステーションや消毒ワイプディスペンサー装置の設置も検討中だ。

目標は、教育上のニーズも満たす環境でありながら、ソーシャルディスタンスを両立させることだ。

住宅問題が深刻化

一方、キャンパスの低密度化は住宅面で更に深刻な課題となっている。

オレゴン州立大学は、今春帰国できず他に行き場のない留学生に学生寮の個室を提供した。

米国を拠点とするJLL パブリック・インスティチューションズ マネージング・ディレクター ボブ・ハントによれば、多くの大学が今秋にこのアプローチを採用する計画だという。ただし、世界各地の大学の学生寮は相部屋を前提としているため、収容人数の問題は無視できない。稼働率低下による収入減は、大学の財務に大きなマイナスとなる。

そのためクレアモント・マッケナ・カレッジは、学生を十分に隔離するため、感染者をオフキャンパスの借り上げマンションの別のフロアに滞在させることも検討している。

各大学で様々な計画がみられる中、一部の大学はホテルやオフキャンパスのマンションで学生寮を補充する可能性を模索している。「入学者が大幅に減少すれば収容人数の問題は生じない」と考える大学も存在するようだ。

学食のあり方

カフェテリアの再稼働も大学が注意を払うべき問題だ。

上海理工大学では、学生は食堂に入る前に行列して赤外線温度計で体温検査を受けなければならない。食事は全てパックされ、学生は食事を寮の自室に持ち帰ることを推奨されている。食堂で食事する場合は、所定の距離を置いた座席につかなければならない。

テネシー州のヴァンダービルト大学は、今春、必要なスタッフとキャンパスに残る少数の学生が食事できるよう、業務を再編成して注文販売を試行した。SMSベースのオンライン注文プラットフォームを使って、同校の食堂サービスは一日当たり700食超を提供している。

ハントは「大規模なカフェテリアのソーシャルディスタンスや衛生上の問題を回避するため、一部の大学はテイクアウト限定のモデルを選択する可能性がある」と指摘する。

コロナ禍が大学に長期的変化を促す

全米各地の大学が、広範な検査の実施と接触者追跡調査でコミュニティの健康監視を成功させられると期待している。

ワシントン大学シアトル校は、パンデミック追跡調査の有力な予想モデルの1つを構築した世界的研究所である保健指標評価研究所(Institute for Health Metrics and Evaluation)を擁する。

「当学は、再開の意思決定で同研究所の専門家の助言を重視している」と、同校の資産管理及び大学設計担当アソシエート・ヴァイス・プレジデント マイク・マコーミックは説明した。

以前から抱えていた財政上の課題がコロナ禍で増幅されているため、多くの大学はこの機を捉えて大学と学生の両方のコスト節減のための改革を行っている。

マコーミックは「現在のパンデミックは、大学の未来を長期間に渡り、あるいは恒久的に変化させると考えている。その鍵となるのは、コストを劇的に削減しつつ学生の体験をできる限り保全することだ」と述べている。

※本記事は2020年5月21日にJLL英国のウェブサイトに掲載された記事を抄訳したものです。

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