記事

不動産の価値に影響を与える新しい3つの要因

不動産に対して健康で持続可能な空間を提供するべく、より多くの責任を求めたことで、企業と投資家の姿勢は大きく変化した。 レジリエンス、サステナビリティ、ウェルビーイングが不動産の将来の価値を左右することになるだろう。

2022年 04月 14日
不動産のサステナビリティに対する圧力が強まっている

「持続可能な未来を創造する上で、二酸化炭素排出量の多い不動産に対して、規制当局をはじめ、オーナー、テナント、投資家などのステークホルダーからサステナビリティに関する圧力が強まっている」。こう指摘するのは、JLL ESGリサーチディレクター ロリ・マバルディだ。

オフィスやホテル、商業施設など、事業用不動産の省エネ性能は年を追うごとに強化されている。このことは企業や従業員からの要望のみならず、社会的責任に応えてサステナビリティが重視されている証といえるだろう。投資家はポートフォリオの将来性を担う不動産を探求しており、不動産の社会的影響を多角的に分析しながら、気候変動に関する新しいリスク要因に注意を払っている。

3つの要因「レジリエンス、炭素排出量削減、ウェルビーイング」

こうした中、欧米を中心に不動産の価値に影響を与える新しい3つの要因が浮上してきた。3つの要因とは「レジリエンスの向上」、「二酸化炭素排出量の削減」、「従業員のウェルビーイングの促進」が挙げられ、建物の経済的価値と収益性を決定する上でより大きな役割を果たしていることを意味している。事実、RICS(英国王立勅令調査官協会)は不動産の評価ガイダンスを更新し、サステナビリティをより重視する方針を打ち出している。

では、これらの3つの要因は今後の不動産市場にどのような影響を及ぼすのだろうか。

1. 気候リスクとレジリエンスへの取り組み

洪水や熱波など、甚大な影響を及ぼす気候変動に対して投資家は不動産ポートフォリオへの直接的な影響を重大な課題として認識するようになった。より多くの投資家がポートフォリオの評価を改め、想定される将来のリスク要因を精査している。

「米国だけでも過去40年間で異常気象が4倍に増加している。不動産投資家、オーナーおよびテナントは、それぞれの事業戦略における方程式にレジリエンスを含める必要があることを理解している」(マバルディ)

そうした中、政府や都市は行動を起こし始めている。例えば、米国のフロリダ州マイアミでは2021年5月、世界初の「CHO(最高熱波責任者)」が任命された他、カナダでは炭素換算量1トンあたり40カナダドルの炭素税など、新しい気候対策を多数発表した。こうした政府や都市における規制がレジリエンスへの取り組みを後押ししている。

2. 二酸化炭素排出量の削減

規制強化に対応するべく企業がネットゼロ計画を発表し、二酸化炭素排出量の削減を優先事項とするようになった。中でも国際イニシアティブ「RE100」の参画企業は再生可能エネルギーへの切り替えを急いでいる。JLL ESGリスク・評価ディレクター エミリー・チャドウィックは「二酸化炭素排出量を削減できない不動産は間もなく市場から取り残される」とし「不動産の脱炭素化には計画立案、多額の投資、そして目標達成まで時間がかかる。行動を躊躇することは座礁資産化のリスクとなり、ブラウンディスカウントが現実のものとなるだろう」との見解を示す。

JLLが発表したサステナビリティレポートで引用したDalton氏、Fuerst氏の調査によると、グリーンビル認証を取得した商業用・居住用不動産の平均で6%の賃料プレミアム、7.6%の価格プレミアムをもたらすと結論づけている。また、JLLが2020年にロンドン中心部を対象にした調査では、英国のグリーンビル認証のBREEAMの最上位認証ビルが4-11%の家賃プレミアムを記録し、標準的な物件の竣工前予約契約が50%だったのに対して、最上位認証ビルは100%の竣工前予約契約を達成したことが判明した。

不動産投資市場の最新動向はこちら

3. ウェルビーイングの促進

これからの不動産は、建物を使用する人々のウェルビーイング、パフォーマンスをサポートするだけでなく、最適化する能力についても評価されることになりそうだ。マバルディは「ウェルビーイングに寄与する不動産は収益性も期待できる。例えば、室内空気の質を改善することで、従業員の健康とエンゲージメントのレベルを高め、結果として生産性向上に寄与する」と指摘する。

米国のある調査によると、米国内だけでも、改善された屋内空気環境によるコスト削減と生産性の向上は年間250-1,500億米ドルと推定されている。

コロナ禍が不動産に対して健康で持続可能な空間を提供するべく、より多くの責任を求めたことで、企業と投資家の姿勢は大きく変化した。 レジリエンス、二酸化炭素削減、ウェルビーイングのいずれもが不動産の将来の価値を左右することになるだろう。

オフィス戦略・ワークプレイス改革の最新動向はこちら

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。