記事

大阪オフィス賃貸市場の現状と今後の見通し

コロナ禍によってオフィス市況は転換したが、大阪はスーパーシティ構想や万博、IR誘致など、不動産市場を再び活況に導く好材料が目白押しである。大阪のオフィスは投資市場において依然として魅力のあるセクターだ。

2021年 04月 01日
コロナ禍でオフィス需要が一変

2020年の大阪圏全体の不動産直接投資額は、対前年比13.3%減の7,718億円であった。一方、大阪圏全体のオフィス不動産投資額は、対前年比52.1%減の1,887億円で大幅に減少した。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、オフィス需要が減退し、空室率上昇・賃料下落局面となったことで、投資家の意識がディフェンシブセクターである物流や住宅センターに向かったことは自然な流れといえよう。本稿では、大阪オフィス市場の現状と今後の見通しについて考察したい。

大阪圏全体の不動産直接投資額推移 出所:JLL

大阪圏の不動産直接投資額 セクター別割合 出所:JLL

大阪オフィス賃貸市場の現状

Aグレードビルの空室率は2019年第4四半期をボトムに上昇、同賃料は2020年第2四半期をピークに下落に転じている。2020年以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、オフィス賃貸市場は変化した。需要(テナント)動向の変化は以下の通り。

 

テナント動向

コロナ感染以前

・需給逼迫が継続

・既存ビル:属性(立地・規模・設備・グレード)問わず需給逼迫

・新築ビル:テナントの引き合いが多数

コロナ感染拡大

(第一波)

・テナントの移転活動先送り、中止が相次ぐ

    →物理的に内覧ができない

    →先行きへの不透明感によりテナントのマインド低下による委縮

・既存ビル:解約、減床が発生し始める

    →影響の大きいサービス関連の業種・業態が中心

    →中小・零細企業が中心

    →低グレード以下が中心

    →解約・減床面積は20-30坪程度が中心

・新築ビル:移転計画の先送り、見直し、中止が増加

コロナ感染拡大

(第二波)

・第一波のトレンドが拡大する一方で、好機と捉えて拡張や積極的に移転を決めるテナントも現れる

・既存ビル:解約、減床が発生

    →業種・業態が拡大

    →中堅以上の企業に拡大

    →低グレード、賃料単価の高いビルが中心

    →解約・減床面積は50-100坪程度に拡大

・新築ビル:コスト意識>With/Afterコロナに向けた動きが鈍い

コロナ感染拡大(第三波)

・第三波のインパクトを鑑みるとテナントの解約・減床は限定的

・既存ビル:解約、減床が増加するもペースは緩やか

    →業種・業態、企業規模問わず拡大

    →ビルグレードは幅広い

    →200坪以上の解約・減床面積も見受けられる

・新築ビル:コスト意識>With/Afterコロナに向けた動きが鈍い

賃料については、2020年第2四半期のピークから同年第4四半期までに0.5%下落となった。現状、空室は上昇に転じたものの1%台にとどまっている。既存ビルで空室を抱えるビルは増加しているものの、稼働率が深刻に低下しているビルは稀であり、新規賃料や継続賃料を大幅に引き下げるようなケースは少ない。一方、新築ビルについては、リースアップに苦戦を強いられるケースが増えているため、事業者のマインドが低下し、賃料を引き下げる動きもみられている。

大阪Aグレードビルの賃料と空室率の推移 出所:JLL

大阪オフィス賃貸市場の今後の見通し

空室率は2020年末から2023年までに3.7ポイント上昇の5.4%、賃料は5.9%減の月額坪あたり22,750円になると予想する。新型コロナウイルス感染拡大の影響による需要の減退は、2021年以降も継続されるとみている。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の第三波が収束しつつあり、また、ワクチン接種も始まっていることから、需要面での空室率の上昇圧力は限定的とみられるが、大阪では徐々に新規供給が増加しており、供給量を踏まえた空室率の上昇は避けられないだろう。

賃料については、全体としては5.9%減にとどまるものの、下落圧力の強弱が鮮明になるとみている。立地に難のあるビルや築年の経過、スペックの低いビルはテナントが優先的に解約・減床してくる可能が高い。また、テナントのコスト意識が高まっていることから、高額賃料のビルや新築ビルは下落圧力が高くなるであろう。

大阪Aグレードビルの賃料と空室率の予測 出所:JLL

大阪のオフィス投資へのスタンス

大阪で新規供給が本格化する2024-2025年直前までの2023年に限定すれば、投資物件の選別は慎重に行うべきとの前提はあるものの、結論としてはポジティブと考える。

その理由は第一に大阪のアフターコロナの回復・成長期待が挙げられる。大阪には大阪固有の回復・成長の原動力がある。構想段階であるものの大阪スーパーシティ構想※1は回復への原動力として大きな期待が寄せられている。これ以外にも、開業時期や規模に不透明感が出てきているものの統合型リゾート(IR)実現の可能性や日本に世界の金融ハブをつくる国際金融都市構想の実現に向け、大阪府と大阪市、地元経済団体は「国際金融都市OSAKA推進委員会」の準備が進められるなど、将来に向けた取り組みに事欠かない。

第二に今般の新型コロナウイルス感染拡大の影響を強く受けている(受ける可能性の高い)のは、市場競争力の低いビルと高額賃料帯、新築ビルおよびその周辺ビルに限定される可能性が高いことが挙げられる。具体的には、景況感に対して感応しやすく、中小・零細企業の入居割合の高いBグレード以下の物件をはじめ、近年大阪の需給逼迫が著しかったために、十分に入居先の選定ができずにスペース確保を優先してテナントが入居する低グレードビルなどは影響が避けられないであろう。また、2022年までに新築ビルの竣工が見込まれる新大阪や本町エリアなどのビルは影響を受ける可能性が高い。

こうした市場の特性をしっかりと見極めれば、まだまだ大阪のオフィス投資には妙味があろう。街のポテンシャルに対して、売り物件が少なくオフィスビルの流動性も低い中で、優良な物件の投資機会が得られた場合に備え、大阪のオフィス賃貸市場動向を的確に見定めていくことが肝要だ。

日本の不動産投資市場の最新動向を見る

※1「大阪スーパーシティ構想」

  • 規制緩和等による最先端の取組と大阪全体で住民に利便性を実感する取り組みを両輪として、大阪モデルとしてのe-OSAKA(先端技術を活用することで住民が笑顔になる大阪)の実現を目指すもの。
  • 2021年4月、内閣府へ応募予定。2022年以降、規制緩和開始予定。
  • 特別区域の指定は、うめきた2期、万博、夢洲地区を対象地として予定。

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。