グリーンファイナンスへの対応を進める不動産業界
環境配慮に寄与する投資活動に対して資金提供を行う「グリーンファイナンス」。不動産市場において欧米をはじめ世界的にその存在感が高まっている。その中心的な役割を担うのが環境認証を取得したグリーンビルだ。
不動産レンダー各社は、サスティナビリティ・リンク・ローンの需要増など、サステナビリティパフォーマンスに応じた融資を拡充している。
英国のアビバ・インベスターズは環境不動産向けに今後4年間で10億ポンド(14億米ドル)の融資を計画している。オランダの銀行であるINGは、省エネ化を目的とした改修に資金提供する新たなグリーンビルディング向けインセンティブローンを提供している。また、シンガポールでは、グリーン複合用途開発に複数の銀行が共同で約6億3,500万米ドルを融資。さらにアリアンツ・リアル・エステートは、ロンドンのカナリーワーフグループに1億4,000万ポンドのグリーンローンを実施している。
こうした金融業界での取り組みの広がりを受け、不動産業界も対応を進めている。ブルームバーグによれば、サステナブルやグリーンを冠した負債性金融商品は、2018年に全世界で2億5,000万ドルが発行されたが、昨年は7,000億ドルを超えるまでに成長しており、ESG(環境・社会・ガバナンス)要因に応じて調整した投資商品が2025年までに53兆ドル超(資産残高)に拡大する見込みだと報じている。
JLL米国 キャピタルマーケット エージェンシー レンディング マネージングディレクター カレン・シアは「基礎となる不動産のグリーン認証を重視するローン組成に勢いがあり、借り手と貸し手の双方で機運が高まっている」と指摘する。
認定基準採用の動き
一方、デベロッパーにとってグリーンボンド(サステナブルプロジェクトの資本調達のための債券)は、決して目新しいものとはいえない。世界初のグリーンボンドは2008年後半にすでに登場している。とはいえ、不動産分野で市場が拡大している背景には、標準的な認定基準を採用する動きがあるためだ。
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例えば、アリアンツの融資は、英ローンマーケットアソシエーション(LMA)のグリーンローン原則やBREEAM認証制度の「エクセレント」レベルが主要条件で、太陽エネルギー特性も考慮されている。
欧州では、INGが2021年、ハインズに初のグリーンローンを実施している。この融資は、独フランクフルトにあるプライムオフィスビル向け設備の4,000万ユーロ(4,700万米ドル)に加え、ロンドンのヒースロー空港近くの都市型物流施設開発の資金も賄う。両資産ともグリーン認証取得済みで、エネルギー性能も平均以上と認定されている。
米国では「ファニー・メイ」の通称で知られる連邦住宅抵当公庫が2020年に130億米ドルのグリーンローンを実施しているが、同公庫の集合住宅グリーンイニシアチブのローン審査の基準としてBREEA認証制度の「Residential Plus」が先ごろ採用されている。
こうしたタイプのグリーン認証と価格設定の連動は今後の方向性を示している。ナショナルオーストラリア銀行によれば、既存・新築ビルともにサステナビリティを重視している借り手は、長期的に低リスクで、有利な価格条件が得られる可能性が高いという。
長期的には、サステナビリティレベル低下のリスクを抱える建物ほど影響が大きくなる。2021年、フランスの不動産投資信託のジェシナは、債務残高すべてについて、グリーンボンドへの転換を完了した。同社の副最高経営責任者によれば、サステナビリティに対するテナントの意識の高まりが重要な要因だったという。
シアは「サステナビリティの面で劣化が進む建物は、貸し手と借り手の双方にとってリスク」と指摘する。貸し手と借り手の双方が正しい行いを望んでおり、借り手が判断する際、今後ますます建物のグリーン認証の比重が大きくなることが予測される。