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オープンプラン型オフィスの騒音問題を「ポッド」で解消する欧米企業

働く場所を選択できるオープンプラン型のオフィスを多くの企業が採用しているが、そこかしこで繰り広げられる会話によって「集中力が削がれる」という本末転倒な課題が浮上している。そうした中、欧米企業はプライバシーを確保するため様々な「ワークプレイス・ポッド」を導入し、集中できる環境を整備している。

2020年 03月 30日

オフィス内に必要な集中できる場所

欧米企業で導入進む「ポッド」

欧米では多くの企業がオープンプラン型オフィスに「ワークプレイス・ポッド」を導入し始めているという。集中して資料を制作できる場所や繊細な内容の電話をするための静かな場所を確保するために悪戦苦闘する必要がなくなったそうだ。 

ワークプレイス・ポッドとはセミプライベートのブースや狭小個室を指す。従業員が少人数の打ち合わせやオフィスの喧騒を離れて作業をしたい時に利用されるもので、特に後者に対するニーズが高まっているようだ。 

昨今のオフィス環境はコミュニケーション活性化を促すオープンプラン型オフィス=コワーキング型オフィスが主流。集中力が阻害されるという欠点はJLL記事「コワーキング型オフィスではイノベーションは生まれない」でも指摘している通りだ。 

欧州中心にワークプレイス・コンサルティング事業を展開するTétris シニア・ピッチ・デザイナー レイモンド・チューは「ワークプレイス・ポッドは、主に音環境に対してプライバシーを提供してくれる。オープンプラン型オフィスはコミュニケーション、コラボレーションを促すが、同時に会話などの音量が増え、オフィス内で集中するのが難しくなることが多い」と解説する。 

こうした背景から、多くのオープンプラン型オフィスではワークプレイス・ポッドを複数設置する企業が増えているのが現状だ。しかも無味乾燥な狭小個室というわけではない。電話ボックス型、ケーブルカー型、ツリーハウス型、ハンモック型など、企業のブランドイメージやオフィス環境に合わせたデザインを施した「オシャレ」ポッドがオフィスに彩りを添えている。 

ワークプレイス・ポッドは設置が簡単 

ワークプレイス・ポッド導入のメリットは多岐にわたるが、最大の特長は簡便性だ。企業は家具や電源、照明付の「既製品」を注文するだけで、オフィス内の好きな場所にポッドを設置することができる。 

チューは「ワークプレイス・ポッドは容易かつ場所を選ばず設置できる利便性・柔軟性が決め手となって欧州ではオフィス家具の主流となりつつある。新しいオフィスの設計、工事、内装コストを軽減しながらプライベートな個室を確保できるため、企業にとってメリットは大きい」と説明する。 

また、より多くの企業が既存のオフィス内に様々な用途に対応するフレキシブルスペースを導入しようとする中、ポッドでスペースを区切ることも可能だ。例えば、複数のポッドを使って休憩ゾーンを作り、従業員の習慣や嗜好に合わせて執務用と休憩用に別々のスペースを提供し、生産性と仕事への満足度向上を実現している欧米企業は多数存在する。 

さらに、テナントが業務内容の変化に対応したり、優秀な人財を獲得することを目的にオフィスのレイアウトを変える場合、オフィス家具を充実させることが第一となるが、ポッドはこれらのオフィス家具と一緒にリニューアルに合わせて移動させることができる他、引越しの際に次のオフィスへと持ち込むことも可能だ。 

チューは「未来のオフィスでは、ワークスペースの各セクションをレゴのブロックのように移動させ、他のモジュールと組み合わせてレイアウトを変更したり、ニーズに合わせてオフィス空間の機能を変化させることが可能となるかもしれない」は展望する。 

そして、オフィスに付加価値をもたらせるのは屋内スペースだけではない。ワークプレイス・ポッドに吸音材を加えることでノイズを吸収し、オフィス全体の音量を低下させてオープン・ワークスペースの音響とプライバシーの問題に対処することもできるのだ。 

ポッドの固定席化を防ぐ 

オープンプラン型オフィスで自分用のスペースを確保するのは何かと難しいが、ポッドには大きな潜在的需要が見込める。従業員はワークプレイス・ポッドを「自分専用のオフィス」として利用したいと考えるかもしれないが、一人用ポッドの多くは1時間以内の継続利用に限定するべきだろう。ポッドには新鮮な空気を取り入れる換気設備がないためだ。ただし、空調を備えたポッドであれば2時間程度の利用が可能となる。 

チューは「ポッドのメーカーは従業員が一日中『閉じた空間』に籠らないようなデザインを心掛けている。必要な作業をできる限り効率的に行える快適さを提供しつつ、企業は従業員が長居し『固定席』化させないような仕組みを考慮する必要がある」とも注意を促している。 

長時間の利用を妨げる内装設備としては、座るのではなく寄りかかる形のパーチ(腰掛け)や、コンピュータ利用を伴う作業ではなくビデオ会議用にラップトップやタブレットを設置するための幅の狭い机などを採用するなど、その対策が進められている。

ガラス張りのワークプレイス・ポッドは開放感があり、利用者に心理的な安心感を与える

一人用ポッドは縦横1m、高さ2m程度と小さく、ガラス製の間仕切りが使用されることが多い。これは利用者が閉ざされた個室にいても安心感を得られるための配慮でもある。また、企業がポッドの利用方法や時間のモニタリングにセンサーを設置することも一般的になっている。

今日のオフィスではコミュニティーとプライバシーのバランスを取る上で、ポッドに対する需要はこれまで以上に高まっていきそうだ。

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