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大手不動産会社に再考を促すフレキシブルスペース

今日の企業はより機敏性を追求し、職場はますますモバイル化し、結果として企業のスペースに求める要件はめまぐるしく変わっている。

2019年 11月 12日

魅力的なワークプレイス戦略が若者世代を惹きつける

依然として企業の不動産ポートフォリオの大部分を占めるのは長期的に運用される定期賃貸借資産であるが、めまぐるしく変化する事業環境に対応しなければならない実業界では、社員を最大限に活用し、競合他社より有利な立場を確立するため、ますます多くの企業がフレキシブルスペースを試験的に採用するようになっている。

JLL EMEA コーポレートリサーチ部長 トム・キャロルは「デジタル・イノベーションあるいはプロダクトイノベーションなど特定のチームの要件を満たしながら、従来のオフィス像とは異なるワークプレイスを好む傾向にある特定の人材、とりわけ若い世代を惹き付ける上で、フレキシブルスペースは役立つ。企業によっては、一時的な仮スペースや新規市場への参入が必要な場合、フレキシブルスペースがあれば迅速な事業展開が可能になる。また、特定の業界の最新動向に触れる機会をより多く持ったり、企業文化の変革を促進する機会を提供する」と語る。

JLLは2015年に発表したレポート「Flexible Space: Transforming real estate」において、2030年までに企業のポートフォリオの3割は共有ワークスペースまたはフレキシブルスペースになると予測した。

過去3年で年率35%も成長し、加えてさらに将来の成長が見込まれるなど、欧州のフレキシブルスペース市場は急成長を継続している。各企業に特有なニーズを満たす追加のスペースを探す際、企業にはいまだかつてないほど多くの選択肢がもたらされた。

21世紀のワークライフバランスの要件に対応

新世代のフレキシブルスペースは企業の姿勢を変革しつつある。共同ワークスペースを供給するオペレーターと不動産オーナーが構築したプラットホームが「お代わり自由」のコーヒーマシンと一台の作業机を単にあてがうより数倍も質が良く、かつ備品の充実した職場環境を提供している。それよりも、ネットワーキングイベント、コミュニケーションや食事のためのスペース、そして、創造的なデザインの執務空間の方が共同体意識の促進や協働の奨励には役立つ。

さらに、ヨーロッパおよびその他の地域で新しい形態が誕生しているものの、企業の誘致にはまだできることがたくさんある。キャロルは「統合技術、職場データ分析そしてスペース活用の改善も大いに需要を牽引するだろう。企業は賃借中のオフィススペースをさらに有効活用するためには何が必要かという課題に対して、フレキシブルスペースまたは共有ワークスペースの供給者が持続的な改善の証拠を示し、さらに数字で表現することができれば、企業の採用は増加するはずだ」と推測する。

一方、これらの新しいモデルでは、これまでの数年間多くの企業がフレキシブルスペースの採用に消極的だった理由ともいえる「費用」に関する懸念に対して、ある程度対処することができる。

キャロルは「新世代のフレキシブルスペースの出現によって、場合によっては営業費や資本経費に加えて従来のリース契約を締結するより、フレキシブルスペースを進んで受け入れるほうが費用を安く抑えられると利用者は主張する。中には需要の急増を期待して、斬新な料金体系や取引形態を提示する運営業者もいるが、長期的な実行可能性については、まだ実証されていない」と指摘する。ただし、多くの企業は様々なチームの取りまとめに重点を置くものの、費用が最重要事項ではないことだけは強調しておきたい。

また、開放的な環境下のセキュリティ、機密性およびプライバシー、ブランド価値の低下、あるいは設備の質の問題など、フレキシブルスペースを使用する際には様々な懸念が考えられる。しかしその一方で、フレキシブルスペースがより主流になるにつれ、その流れに取り残されるという危険性もありえる。キャロルは「モバイル化の推進、優れた接続性、最先端技術を用いた装備、さらに多岐にわたる娯楽やホスピタリティサービスが標準になれば『時代遅れ』だと思われたい企業は存在しないだろう」と述べている。

適切なバランスをとるには

フレキシブルスペースを検討したり、試験的に利用する企業は増えているが、決して万能のソリューションではなく、すべての企業にメリットをもたらす選択肢とはいえない。不動産の運用と展望に関して非常に保守的な企業の場合は特に注意が必要だ。

実際、試験的な導入を受け入れる企業でさえ、フレキシブルスペースの利用方法は著しく異なる。キャロルは「個人の事業、時にはチームの事業の需要に応じた、幅広い戦略が誕生している。試行錯誤が続けられ、あらゆる形態の試験的なフレキシブルスペースが開発・提供されており、中小企業から多国籍企業までフレキシブルスペースを求める声はますます高まっている」と締めくくる

大規模で、より「伝統的」な企業がフレキシブルスペースという発想を大規模に展開しているのを目の当たりにすると、今後、より保守的な企業もフレキシブルスペースの採用を進めていくのではないだろうか。

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