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在宅勤務で低下した生産性を取り戻す

コロナ禍で大きく変化した働き方。その代表例は「在宅勤務」の定着といえるだろう。通勤ラッシュを回避でき、ワークライフバランスに寄与する在宅勤務はメリットも多いが、生産性低下というデメリットも考えられる。本稿では在宅勤務のメリット・デメリットを振り返ると共に、生産性を向上させる施策を解説する。

2022年 09月 27日
意識調査で明らかになった在宅勤務での生産性の低下

新型コロナウイルス感染症の蔓延は、在宅勤務を普及させるきっかけとなった。一方、感染防止という危急的対策として急速に拡大したため、様々な問題も浮上してきた。そのなかの1つが「生産性の低下」といえるだろう。

レノボ・ジャパンが行った在宅勤務に関する意識調査において、日本は生産性が低下したことが明らかになった。

調査対象は10カ国(日本、米国、ブラジル、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、中国、インド)。「オフィスでの業務と比較して生産性が低い」との回答において日本は他国を圧倒。1位となった。

加えて、JLLによる調査レポートによると「在宅勤務のほうが生産性の高い働きができた」とする日本の回答者は21%に留まる半面、アジア太平洋地域全体の回答者は46%となるなど、在宅勤務の生産性低下は日本で顕著 な傾向を示している。

ではなぜ「生産性が低い」と感じたのだろうか。さまざまな調査データから、在宅勤務で生産性を向上させるために必要な取り組みについて深掘りしてみたい。

在宅勤務で生産性が低下してしまう理由

在宅勤務の生産性については、前述したレノボ・ジャパンの調査をはじめ、国や企業においてさまざまな調査が行われている。それら全体を見比べてみると「生産性が低下した」という回答は少なくない。生産性が低下した主な理由として以下が考えられる。

執務環境の整備に十分な投資を行っていない

自宅で働く上で必要な環境が整備されていないということが、生産性低下の原因の1つと考えられる。在宅勤務にはパソコンやインターネット環境をはじめ、オンライン会議などのソフトウェアを用意しなければ円滑に業務を進めることができない。

一方、コロナ禍への緊急措置として十分に環境整備できていないまま在宅勤務を余儀なくされた企業は少なくない。一部の日本企業は在宅勤務手当を支給するケースもあるが、レノボ・ジャパンの調査でも明らかになっているように、環境整備のために会社が全額負担したという回答は日本では31%で、調査10か国中で最下位 だった。

コミュニケーションの低下

在宅勤務においての社内コミュニケーション手段は主にオンライン会議システムやメッセージアプリを活用された。ただし、実際には、それらのツールを活用しても、対面に比べて相手の感情や表情が読み取れず、正確な意思疎通が図れないケースが増えた。オフィス勤務時には上司や同僚と容易に相談等ができていたが、オンラインでは相手の様子が分からず、コンタクトを取るタイミングがつかめないなど、一部従業員の間で負担になっていた。その結果、業務の停滞による生産性低下に繋がった。

情報漏洩の懸念

在宅勤務では情報漏洩を懸念する声も多く上がった。そのため、会社から貸与されたパソコンやデータを自宅に持ち帰って業務を進めることができず、在宅勤務を始めてはみたものの限定的な業務しかできないというケースも見られた。

家庭生活との線引き・長時間勤務

在宅勤務を経験した従業員の悩みとして「プライベートとの線引きが難しく、業務に集中できない/長時間勤務になってしまう」ことが挙げられた。狭小な住宅事情の日本において、在宅勤務といえども専用の執務室を用意することは難しく、リビングなどで業務を行うケースは少なくない。まして乳児・幼児がいる家庭では仕事に集中することは難しい。
 

調査データで分かった在宅勤務で生産性が向上した理由

在宅勤務では通勤時のストレスを回避でき、フレッシュな状態から業務が開始できる他、業務の進め方など、裁量が増し、自分に合った働き方が可能になる

一方、在宅勤務によって生産性が向上したという意見もある。

リラックスして仕事に集中できる

生産性の低下の理由として「コミュニケーションが取りづらい」を挙げたが、その半面、オフィスなどで同僚から気軽に声掛けされることで集中して業務に向かえることができないケースもありえる。オフィス勤務時には電話や来客対応、上司や同僚への報告・相談・打ち合わせ、対面型の会議などに忙殺されることもある。しかし、在宅勤務では、これらの対応も必要最小限になるため、むしろ集中して業務に取り組むことができ、生産性の向上を実感する従業員も少なくない。

執務時間を有効活用

在宅勤務の最大のメリットは通勤時の無駄がなくなり、その分を執務時間に充てられることだろう。郊外から都心への長時間の通勤ラッシュは心身ともに疲弊するが、在宅勤務では通勤時のストレスを回避でき、フレッシュな状態から業務が開始できる。また、在宅勤務であれば業務の進め方など、裁量が増し、自分に合った働き方が可能 になる。例えば「業務の合間に仮眠し、より効率的に業務に取り組めるようになった」、「休憩時間に家事を行うことで生活と仕事のリズムが取りやすくなった」といった前向きな意見もある。
 

在宅勤務で生産性を向上させる取り組み

コミュニケーションを醸成する場としてオフィスと在宅勤務を組み合わせたハイブリッドワーク制度を導入する企業が増えている

在宅勤務で生産性の向上に取り組むことは、企業の利益向上に繋がるだけではなく、柔軟な働き方を実践している企業として人材採用面にも寄与する。生産性が低下した理由から、今後どのように対策すべきかを紐解いてみたい。

コミュニケーションの機会を確保

ビジネスチャットやオンライン会議システムなどをうまく活用し、スムーズにコミュニケーションが取れるようにしておくことが前提となるが、各従業員が遠隔で働く在宅勤務だけでは意思疎通に限界がある。そのため、コミュニケーションを醸成する場としてオフィスと在宅勤務を組み合わせたハイブリッドワーク制度を導入する企業が増えている。業務内容や気分によって働く場所を自由に選択できることで、コミュニケーション活性化を企図している。

環境整備への投資

在宅勤務で生産性が下がってしまった原因のひとつに環境整備があるため、円滑に業務を進めるためには十分な投資が必要になる。自宅で集中した業務を行うためには、IT機器や業務に必要なソフトウェア、クラウドシステム、長時間の業務でも疲れにくいデスクなどの導入は一考に値する。また、VPNなどセキュリティを高める通信手段を導入することによって情報漏洩のリスクが下がる。

労務管理・評価制度

労務管理システムを導入することで、在宅勤務でも正確な労務管理ができるようになる。あわせて上司は部下の業務時間を把握でき、長時間勤務が常態化している部下をきめ細かくフォローすることも可能だ。また、在宅勤務では業務のプロセスが把握できないため、従前に人事評価では対応できないとの声も聞こえてくる。そのため、新たな評価制度を採用することも重要だろう。例えば、定性的な目標については上司とのコミュニケーションを通じて定めるようにし、定量的な評価基準も採用すべきだろう。

在宅勤務とオフィスを組み合わせたハイブリッドワーク

在宅勤務で生産性が低下したという意見がある一方、生産性が向上したとの意見も聞こえてくる。運用面を工夫することで在宅勤務の課題や欠点を解消することはある程度は可能であり、デジタルツールの進化によって在宅勤務だけでも業務を進めることはできる。オフィスの賃料負担を軽減するため、コロナ直後にオフィスを閉鎖し、フルリモートワークへ移行した企業も散見される。

一方、コロナ発生から2年以上が経過し、在宅勤務の実体験を積み重ねる中で、多くの企業は在宅勤務の有用性を実感しつつも、そのデメリットを問題視するようになっている。コミュニケーション低下による従業員の孤独感・心的負担の増加、企業への帰属意識の低下による早期退職など、いずれもクリティカルな問題となっている。

コロナ禍を受けて在宅勤務を主体とした働き方へ切り替えながらもオフィスを重視する企業が存在するように、在宅勤務制度を活用した生産性の最大化を実現する有効な施策として、オフィスと在宅勤務それぞれの課題を補完するハイブリッドワークはこれまで以上に定着していきそうだ。

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