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「静かな退職」対策として有効なヒト中心のオフィス戦略

コロナ禍で普及拡大したリモートワークの功罪なのか、仕事に対して情熱を失った「静かな退職者」が問題視されている。企業と従業員のエンゲージメントを再び強固にするためには何が必要なのか。ヒトを中心に考え抜いたオフィス戦略が1つの答えになりそうだ。

2022年 11月 25日

ニューノーマルのとば口に立つ現在、オンラインによってどこでも仕事ができる環境が整いつつある。通勤ラッシュ時のストレスからの逃避、起床してから数分後でも会議に参加できる利便性…しかし、こうした便利な状況には少なくない代償が伴うことになる。

リモートワークはオフィス勤務に比べて相対的に業務管理が難しくなり、仕事とプライベートの境界が曖昧になる可能性が高い。従業員は以前よりも業務量が増え、気軽に招待されるオンライン会議への対応に忙殺される。そして、家で1人黙々と仕事をこなす日々。上司や同僚へ気軽に相談することができず、心理的負担が増加。一部の従業員は仕事への意欲を失い、会社に幻滅する。その結果、求められている最小限の業務だけ行うようになるのだろう。

こうした現象は「静かな退職」と呼ばれ、いまや広く認知されるようになってきた。ハイブリッドな働き方がもはや例外ではなくなったアフターコロナ時代における「ニューノーマル」の負の側面を象徴しているかのようだ。

「静かな退職」とは?

企業は「静かな退職」を無視することはできない。特に、コスト削減を目的にオフィス戦略を見直す場合、「静かな退職」問題をさらにこじらせる可能性がある。景気の悪化が迫りくる中、その傾向はなおさら顕著になりそうだ。

とはいえ、「静かな退職者」が本当に企業を見限ったならリアルな退職を選択するのではないだろうか。この現象はコロナ禍という未曽有の状況に追い込まれた従業員が一時的に仕事へのモチベーションを低下させているとみるべきだろう。

企業は従業員とのエンゲージメントを取り戻すべく、リモートワークでは得られないエクスペリエンス(優良な体験)を提供するための方法を見つけなくてはならない。そのためには、ヒトを第一に考えたアプローチでオフィスや働き方を再考する必要がある。従業員が職場やオフィスに何を求めているかを学び、時間をかけて理解することが不可欠だ。
 

理想的なオフィス・働き方とは?

企業は業務内容や働き方に合わせて、従業員のニーズをくみ取った適切なバランスと柔軟性を持つワークプレイス戦略を導き出す必要がある

JLLが日本を含めたグローバルで実施したオフィスワーカーへのアンケート調査では、回答者の55%がハイブリッドワークを実践している。このことからハイブリッドワークは広く普及していることがわかるが、すべての企業が在宅勤務とオフィス勤務を適切な割合で行っているわけではない。

オフィスワーカーへのアンケート調査レポート

同調査によると、アジア太平洋地域のオフィスワーカーが理想とする働き方は週5日勤務の半分以上 (2.7 日) をオフィス勤務としている。しかし、この平均値は多種多様な業務におけるすべてのニーズを適切に反映しているわけではない。

例えば、クリエイティブな業務等は「対面式」のオフィス環境でより多くのコラボレーションを行うことでメリットが得られ、半面レポート作成等はより集中できる静かな環境が求められる。オフィス勤務と在宅勤務で行うべき業務内容を明確化し、その業務内容に最適な執務環境を構築する必要がある。したがって、企業は業務内容や働き方に合わせて、従業員のニーズをくみ取った適切なバランスと柔軟性を持つワークプレイス戦略を導き出す必要がある

従業員がオフィスで働く際、現在のオフィス環境は業務遂行をサポートするために十分な設備が整っているだろうか。同調査では従業員がオフィスに求めるニーズと、企業が用意した執務環境との間には少なくないギャップがあることが示されている。

また、JLLのグローバルレポート「How can offices find new relevance in today’s hybrid world of work?(英語版)」によると、大半のオフィスワーカーが自宅で集中して仕事をすることを望んでいるものの、彼らは勤務時間の半分以上をオフィス勤務に費やしていることが判明した。そして、多種多様な業務に適した執務環境を選択できないことが、業務上の成果を出しにくい要因の1つに挙げている。

適切な指標

ヒト中心のオフィスが「静かな退職」を防ぐ(画像はイメージ)

アフターコロナに向けてオフィスや働き方を再考する際、従業員のニーズを認識することが重要であるが、潜在的なニーズをいかに汲み取るかが大きな課題となる。適切な指標を見出し、本当に重要な施策を打ち出すのは容易ではない。

企業が従業員のニーズを正しく理解していないことは多々ある。その理由の1つとして、ワークプレイス・エクスペリエンス(オフィスでの優良な体験)を測定するために、コストや 1 人あたりの面積といった従来の指標に依存しているためだ。これらの指標は現在進化している。

JLLのグローバルレポート「Metrics that Matter(英語版)」は、オフィスにおける従業員の感覚とパフォーマンスを測定することの重要性に言及している。従業員の関与、屋内環境の質、ワークスペースの選択肢等の指標に関するデータを収集し、それに関連するアクションプランを実装し、定期的にオフィスに求められる目的を確認する必要がある。例えば騒音レベル等の室内環境のデータを収集することで、オフィス環境が従業員の快適な職場に対する好みをどの程度満たしているかを把握できる。

人材獲得競争が激化する中、優秀な人材を惹きつけて長期雇用を維持したい企業にとっては、従業員のニーズをより深く把握するためにこれらの指標を測定することも一考に値するだろう。

ヒト中心のオフィス戦略

最終的には企業は多かれ少なかれ従業員がオフィスへ回帰することを推奨するだろう。そうした際、従業員がオフィス回帰に納得するような適切な執務環境を提供することが求められる。例えば、スイスの金融会社であるクレディ・スイスなどの一部の企業では全社的なハイブリッドワークを義務化するのではなく、従業員に選択肢を与えている。

さらに一歩進んだオフィス回帰策として、従業員をオフィスに戻すのではなく、オフィスを従業員に提供するという逆転の発想も見られた。たとえば、インドでは、大手コンサルティング会社が従業員の働く場について柔軟性を高めるため、第2級都市に従業員向けの新しいオフィスを設置した他、日本のIT企業は「会社が働く場を決めるのではなく、従業員に選択肢を委ね、オフィスは『働く場』の1つの選択肢に位置付けた事例もある。

すべての意思決定の中心にヒトを据え、彼らのニーズを詳細に深掘りすることで「静かな退職」を克服していくことができるのではないだろうか。

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