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東京オフィス市場の「五輪ロス」は杞憂に終わる

2018年から3年連続でAグレードオフィスの新規大量供給がなされた東京オフィス市場において、2020年に調整局面に転じると予想される。2020年に開催される東京五輪に向けて東京オフィスマーケットは需給ともに順調に拡大してきたが、五輪閉幕後に「祭りの後」を危惧する声が聞こえ始めてきた。しかし、2020年には調整時期に入るものの、あくまで短期間で終わりそうだ。

2019年 11月 18日

中長期では賃料上昇局面は継続

東京オフィス市場はピーク過ぎ目前

米中貿易摩擦、BREXIT等が世界経済に冷や水を浴びせている。こうした中、9月の日銀短観で3四半期期連続の景況感が悪化する等、好調を維持してきた日本経済にも停滞感が漂い始めた。その影響だろうか、2019年第3四半期末時点の東京Aグレードオフィス市場は空室率0.6%と「空室枯渇」状態にも関わらず、賃料上昇ペースが減速。2018年-2020年の3年に及ぶ新規大量供給の影響がじわりと現れ始めたようだ。

JLL日本 リサーチ事業部では、世界の主要なAグレードオフィス市場の現在地を時計に見立て視覚化した「プロパティクロック」を発表しているが、東京は2019年第3四半期末時点で、賃料上昇の減速期にあたる「11時」に位置する。「12時」以降は賃料下落の加速期に入ることから、東京Aグレードオフィス市場は限りなくピークに近く、今後は賃料調整局面に突入することが予想される。

3年連続で新規大量供給がなされ、世界経済を取り巻く環境も決して楽観視できない。これまで活況を維持してきた東京Aグレードオフィス市場が、その反動から一気に下り坂になる……このようにマーケットの行方を危惧する声が聞こえ始めている。

前回のサイクルでは約40%も賃料が下落

不動産市況は好調・不調の波を繰り返すことから「マーケットサイクル」等と呼ばれており、現在は好況から不況へ転じる過渡期といっていい。前回のマーケットサイクルを振り返ってみると、ボトムとなったのは大量供給がなされた2003年に坪当たり月額平均賃料が2万8,915円、ピークを迎えたのはリーマンショック前の2007年に坪当たり月額平均賃料5万1,995円だった。実に賃料水準の上昇率は約80%。年間平均で20%超の上昇を記録したことになる。一方、リーマンショックを経て賃料相場が下落局面へ転じ、東日本大震災発生後の2012年、原発リスクもあって坪当たり月額平均賃料が3万646円まで低下した。ピーク(月額平均賃料5万8,915円)から約40%下落した。

現在のマーケットサイクルは2012年末に成立した安倍政権が打ち出した一連の経済政策に支えられ、実に7年近くの長期にわたって活況を呈してきた。そのため、前回サイクルを例になぞると、いったん下落に転じれば、その反動から下落幅も非常に大きくなりそうだ。

調整局面は一時的なもの

東京Aグレードオフィス市場は長期的な低迷期に突入してしまうのか。これに対してJLL日本 リサーチ事業部 大東 雄人は「2020年に賃料の調整局面を迎えるが、あくまで微減・短期にとどまる」との見解を示している。

「2012年の坪当たり月額平均賃料3万646円をボトムとして、2019年第3四半期末時点で月額平均賃料3万9,536円となり、8年かけてようやく20%ほど回復してきたのが現在のマーケットとなる。前回のマーケットサイクルでは最終的に約80%賃料水準が上昇したのに比べると、一時的に調整局面を迎えるにしても中長期で見ると賃料の上昇局面は継続するのではないか」(大東)

月額平均賃料をドル建てにし、他の主要マーケットと比較しても上昇余地が残っていることがわかる。大規模デモで揺れる香港のAグレードオフィスマーケットは東京と比較すると倍近くの賃料水準となっている。またロンドンはBREXITの影響でグローバル企業の移転が見られたが、東京よりも賃料水準は高い状況が続いている。東京を含めて世界の主要オフィスマーケットは総じてリーマンショック時に大幅に賃料水準が下落したものの、10年が経過した2019年第3四半期末時点で、グローバル平均で33%賃料水準が回復した。東京の賃料トレンドも同様の動きだが、前述した通り、回復率は約20%に留まり、グローバル平均を下回っている。まだまだ東京には伸び代が大きいことを示唆している。

コワーキングがマーケットを下支え

2020年に調整局面に入る理由としては、2019年以降、新規床が純増するためだ。2018年の新規大量供給は丸の内エリアに集中しており、既存ビルの建替えが中心となる。既存テナントの移転を伴う再開発が集中していたため、2018年の新規Aグレードオフィスはほぼ満床となった。しかし、2020年の新規供給については、他用途からのオフィス開発や、郊外の湾岸エリアで開発が集中しており、2018年の状況とは大きく異なる。大東は「労働市場がひっ迫し、企業は雇用を確保するためにオフィス環境の魅力向上に努めるという現在のトレンドは今後もしばらく継続する」と予想しており、好立地・高スペックが魅力のAグレードオフィスは新規供給こそ積み上がっているものの、テナントからの引き合いは変わらず堅調に推移しそうだ。一方、新規Aグレードオフィスの主な需要は本社機能の統合集約となり、賃借床は総じて大型化する。半面、移転元の既存オフィスでは大規模な空室が発生。いわゆる二次空室によって空室率は上昇に転じることから、大東は「賃料水準は若干下落する」と予想している。

ただし、労働市場のひっ迫によって企業側が雇用を進めるためにオフィス移転には前向きだ。また2021年、2022年の新規供給量はいずれも20万㎡未満となり、2006年-2015年までの10年間の年間平均供給量29万㎡と比べても少ない。そして昨今東京中心部ではフレキシブルスペース(コワーキングスペース、サービスオフィス等)が急拡大しており、外資系オペレーターの他、Aグレードオフィスを保有する大手デベロッパー・不動産会社がコワーキングスペースを自社展開する動きが目立つようになり、Aグレードオフィスの空室率低下に寄与している。これら複数の好材料が集まることから、東京オフィス市場が大崩れする可能性は低そうだ。

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