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企業はワークプレイスで心身の健康を育む

納期厳守など、難題に取り組むことはオフィス生活の一部だが、従業員が困難な仕事を行うスペースは業務遂行に大きな影響をもたらし得る。

2017年 07月 17日

オフィスに自然を取り込み、パソコンのスクリーンから離れて休憩できるスペースを設置することは、企業が従業員に心身の健康を意識させる施策の一例である。事実、多くの企業がそれぞれこうした対策に取り組んでいる。

ヘルスケア関連のソフトウェアメーカーであるエピックでは、ウィスコンシン州の本店従業員は、桜やアカマツの木に囲まれたツリーハウス会議室で会議を行う。スカイのロンドン新本店では、スタッフが長い時間を過ごして対話することを促すため、幅の広い階段が設計された。ロサンゼルスのバークレーからエジンバラに至る大学では、アイスクリームで知られるベン&ジェリーズや靴の通販小売業者のザッポスの例に従ってサイレント・ゾーンやスリープポッドが設置されている。

JLL ワークプレイス アソシエートディレクター アナ・スタノジェヴィッチは「組織は従業員の心身の健康をビジョンに組み込まれなければならず、企業はワークプレイスにポジティブなエクスペリエンスをもたらすため、不動産戦略の方向性を再考しなければならない」と語る。今日のワークプレイスは単なるスペースではなく、人と組織がアンビションを実現させる場所であるためだ。

ハブ、静粛スペースとヨガクラス

心身の健康重視は、特に二つの面でワークプレイスに取り入れられている。スタノジェヴィッチが説明する通り、心身の健康は創造性と生産性を支えるとみなされている。また、精神衛生の問題への対応も意味しており、先進性のある一部の雇用主がヘルスケアセクターの企業であることは偶然ではない。例えばスコットランドでは、健康な職業生活プロジェクトが英国国民保険サービス(NHS)やその他の雇用主に、ストレス、うつ病、不安神経症がスタッフの欠勤の最も一般的な理由とされることを認識するよう促している。

企業は行動を開始している。例えばNHSのグラスゴーとクライド支部では、希望者対象にヨガクラスやダイエットのセッションを提供している。オーストラリアでは、保険会社メディバンクのメルボルンの新本店が、屋内サイレント・スペースやコワーキング・ハブ、Wi-Fi受信可能なバルコニー、立って仕事するスペース等、26種類を超えるスペースの選択肢を提供している。スポーツコート、エディブルガーデン、2,300の屋内植物等の設置は生産性、エンゲージメント、コラボレーションの支援が目的である。

こうした取り組みは単に良いアイディアなのか、それとも効果があるのか

メディバンクによれば、結果は明白だ。同社が新本店に入居してから4カ月後に実施した従業員アンケートでは、70%が「より健康」、66%が「より生産的」と回答し、コールセンターでは欠勤が5%減少したのである。

より多くの雇用主がこれに続くと確信しているスタノジェヴィッチだが「問題は物理的なスペースをみつけることではなく、企業文化」とみなしている。例えば、東洋で広く認められている職場での仮眠を例にとってみよう。日本では企業が生産性向上につながると確信して従業員に仮眠を推奨している企業は少なくない。一方、西洋ではスリープポッドは人気が高まっているものの、依然として希少な存在だ。

信頼感がエンゲージメントを高める

スタノジェヴィッチは「ウェルネス施設の提供は、従業員のエンゲージメントを高める。信頼されると、従業員は業務における目的意識が生まれ、最善の方法で業務を行うエンパワメントを感じる」と指摘する。スタッフに時間を過ごす方法や場所についてより多くの選択肢を与え、異なる勤務条件で業務を行う自由を与えることでエンゲージメントと業績の両方が向上するという。

ラスベガスを拠点とするザッポスも17カ所のキッチン、ジムとマッサージチェアを含む本店の設計と特典は「従業員の士気、エンゲージメント、定着』向上の重要な要素であると強調している。

他にも、グーグル、HBO、ドイツ銀行等の大企業が、従業員に瞑想プログラムを提供している。これは、コスト効率の優れたストレス減少手段となり得る。スタノジェヴィッチは「現在、多くのスペースが瞑想に使用されており、深呼吸と内省を可能としている」と説明する。「マインドフルネスは認識能力や全般的なウェルネスを強化する方法として認められている。最近の仮眠や瞑想、ネーチャーウォークに関する調査からは、精神的な休憩が生産性を向上させ、注意力を回復させ、記憶を定着させ、創造性を促すことが明らかにされている。

デスク周辺の植物や共用エリアの屋内庭園は長らく人気が高く、数多くの研究でそれらがストレスや健康、生産性にプラスの影響を与えることが示されている。ペットも、グーグルだけではなく近代的なオフィスでより一般的な存在となっている。スタノジェヴィッチは「将来的には、より多くの犬が職場への持ち込みを認められるようになると予想している。自分の犬をオフィスに持ち込むことは、従業員をより社交的、活動的にする優れた方法であり、スタッフのストレスを低下させる」と付け加えた。

福祉が企業における優先順位を高め、社内スペースがよりフレキシブルに設計されるにつれて、用途の変更はさほど困難ではなくなっている。スタノジェヴィッチは「ワークプレイスがより多様な設定を有することが新たに重視されるようになるだろう」と推測する。物理的環境は、ますます人材の誘致と定着の両方についてのツールとみなされるようになっている。多くの組織が心身の健康を奨励するだけではなく、積極的にこれを促進するスペースに投資しているのだ。

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