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共用オフィスが意外な場所に増殖中

長時間の満員電車に耐えながら都心にある本社オフィスへ通勤するのではなく、住まいの近くで働くことができるサテライトオフィスやコワーキングスペース等の外部貸し共用オフィスの需要が拡大している。柔軟な働き方を実践できるこれらの共用オフィス、JLLでは「フレキシブルスペース」と定義。空前の空室枯渇時代を背景に、駅構内や温浴施設内など、意外な場所も「働く場」に変貌を遂げている。

2019年 12月 16日

意外な場所に「フレキシブルスペース」続々誕生

東京で「フレキシブルスペース」が急増中だ。「働き方改革」への対応と東京オフィス市場に到来した「空室不足」が背景にある。JLL日本 リサーチ事業部の調査によると2019年9月末時点の東京Aグレードオフィスの空室率は0.6%。Bグレードオフィスに至っては0.3%と、もはやオフィスを拡張したくても容易でない状況だ。

そうした中、オフィス以外で働くことができる「フレキシブルスペース」の需要は急拡大しており、意外な場所に執務空間を開設する動きが顕在化している。

駅構内の個室型シェアオフィス

駅構内に続々と開設される外部貸しの個室型シェアオフィスがその代表例だ。例えば、JR東日本は2019年8月から駅ナカシェアオフィス「STATION WORK」を展開している。クイック利用に最適な個室型ブースとしてこれまで東京駅・新宿駅・池袋駅・立川駅に計20台設置。

2019年11月には、落ち着いてソロワークできる「STATION DESK」1号店が東京駅構内で開業した。ワークスタイルに合わせて6タイプのプライバシーに配慮したシートが用意している。

移動時間ロスが少ない駅ナカにおいて、安心で快適なシェアオフィスを提供し、働き方改革・生産性向上をサポートすることを目指している。そのほか、東京地下鉄も駅内個室型オフィスの実証実験を開始した他、京王電鉄も駅直結のホテル内にシェアオフィスを開設している。

大浴場がコワーキングスペースに

駅構内よりも意外性のある場所にフレキシブルスペースを開設したのが、温浴施設「両国湯屋 江戸遊」だ。2019年6月、リニューアルオープンに伴い、席総数75席都内最大級の温浴施設併設型ワーキングスペース「湯work」を開設した。

江戸遊を運営する株式会社東新アクア 企画広報室長 山本 祥貴氏は「大人の方がくつろげるというオープン当初のコンセプトを残したまま、より多様なニーズに応えたいと考えた時に、施設利用者の働き方、過ごし方、遊び方が変わってきていることに着目した。特に、働き方については、リモートワークや在宅ワークなど、単純にオフィスで働くことにこだわらない働き方が注目され、くつろぎながら仕事ができるスペースとして湯workを開設した」と説明する。旧お風呂場がワーキングスペースに変貌した。

「両国湯屋 江戸遊」の浴室ワーキングスペース「湯work」

湯船の形をそのままにテーブル席を作り、壁一面のタイル画を残し、大浴場の風情を残している。パソコンに向かいながらも、どこかリラックスできるスペースとして利用してもらうことが狙いである

サウナの中身をガラッとかえて、明るい会議室に改装。 壁いっぱいのホワイトボードや、防音性の高い会議室を用意

JLL日本 マーケッツ事業部 シニアマネージャー 柴田 才は「サウナブームが起こっている今、共通の趣味を持った人が集まり、新たなコミュニティ作りにつながる機会もあるだろう」と推測する。

実際に、両国は地域的にスタートアップ企業の方が多く、横のつながりが強いため、オープンしてから1-2カ月でSNS経由などの口コミで急速に広がったそうだ。山本氏は「サウナ愛好家のオフィスワーカーが当施設に集まり、交流が深める等、執務空間とは異なる展開もみられる」と説明する。今後、湯workではワーキングスペースと温浴とのコラボイベントなど色々なイベントが企画されているようだ。

働く場所を選ばない時代

大手デベロッパーや外資系オペレーターが運営するカフェスタイルのお洒落コワーキングのみならず、本質的に「働く場所を選ばない」時代が到来したことを予感させる。

多様化する働き方に適した「フレキシブルスペース」は時代のニーズに先駆けてさらなる広がりを見せており、今後の「働き方」として欠かせない選択肢となるだろう。

執筆:JLL日本 マーケティング&コミュニケーション事業部 佐藤 麻緒

 

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