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スタートアップ企業好みのワークスタイルに大企業も恩恵を得る

大企業が競争力を維持するため通常スタートアップ企業を連想させる組織構造を検討中だ。 多くの有名企業が欧州全土で独自のアクセラレーター・プログラムを導入しているのである。

2017年 05月 02日

スタートアップ企業のアクセラレーターは、複数の設立間もない零細企業で構成され、典型的には共用のオフィススペースで資金と指導を受ける。スタートアップ企業にとってアクセラレーター・プログラムへの参加は資金源を増加させるだけではなく、潜在的な投資家、買い手、パートナーとの価値あるネットワークを提供する。より成長の早い企業にはアクセラレーターの設立や資金供与によって業務にダイナミックな層を加えることができる。

JLL コーポレート・リサーチ EMEAヘッド トム・キャロルは「基本的に、これはより分散化された事業構造である。デジタル化時代は新たに労働力に加わる世代にモビリティの増加やフリーランス文化の高揚、起業家精神をもたらした。こうした力の組み合わせが、アイディアの分散化に貢献している」との見解を示す。大企業は、内からのイノベーションについて必ずしも最善の位置付けにない。そこで多くの業界を破壊しているテクノロジー主導のスタートアップ企業を受け入れる必要性を認識しているのだ。

未来へ向けて加速

旅行から金融、不動産まで、多くの業界で老舗企業がアクセラレーター・プログラムを受け入れている。

バークレイズは2015年にニューヨークでライズを設立。「フィンテック・イノベーションの物理的・仮想的グローバル・コミュニティ」と銘打った同プログラムは、その後、ロンドン、マンチェスター、ヴィリニュスの欧州3都市を含む7都市に展開された。ライズには、フィンテックの最も優れたイノベーションを前進させることを目的とした13週間の競争プログラムであるバークレイズ・アクセラレーターも入居している。

このコラボレーションは、バークレイズに特定のテクノロジーや成功するアイディアを活用する能力を提供する。

IBMのアクセラレーターであるアルファ・ゾーンは、イスラエルを拠点として、旅行からメディア、電話会社に至る業界を対象としたビッグデータ分析、クラウド、モバイル、セキュリティ、IoT(モノのインターネット)、機械学習やAIの専門知識を有するスタートアップ企業に注目している。

ルフトハンザは旅行業界を率先し、2014年に「社内スタートアップ」とみなされるイノベーション・ハブを設立した。分散化されたイノベーションをコア事業内に移すことを目的とした同プログラムは、顧客のエクスペリエンスと航空技術に注目しており、航空会社のスタッフと選ばれたスタートアップ企業が組み合わさっている。

2020年までに5億ユーロの投資が計画されるイノベーション・ハブは、既に旅行コンシェルジュ・サービスであるミッション・コントロールや、航空会社横断的なオンライン・チェックイン・プラットフォームであるエアライン・チェックインズを生んでいる。

同様に、南フランスを拠点とするエアバスも、2015年にエアバス・ビズラボを設立して航空業界に関する5カ月のプログラムを提供し続けている。スタートアップ企業はエアバスの「社内起業家」の専門知識から利益を、小規模企業は大きなグループで働く経験を得る。

新しいビジネスクラブ

多くのアクセラレーター・プログラムは社内に設置されているが、専用施設が開発されたケースもある。カナリーウォーフのレベル39は欧州最大のアクセラレーターであり、アクセンチュア、UBS、インテル、ダッソー・システムズ等が運営するプログラムのスペースが、主に金融、小売、サイバーセキュリティ・セクターの個別スタートアップ企業と混在している。

信用情報が不十分、または長期のリースを避けたい多くの新興企業はスペース確保に苦労するため、大企業が支援するアクセラレーターは実行可能な解決策を提供する。キャロルは「より確立された経験豊富な事業の関与によって、はるかにリスクの少ない環境でこの様式に適応する機会がもたらされる」と語る。

アクセラレーターやその業務方法は、より広範なビジネス界にオフィススペースの管理方法も含めて大きな影響を与えている。

キャロルは「アクセラレーターの活用により、企業は様々な方法でイノベーションを率先している」と考える。アクセラレーターが生む斬新なアイディアだけではなく、新たなイノベーションの開発者に適切な環境を提供する協働的ワークスペースの創造もこれに含まれる。そして、協働的ワークスペースの長所が明らかになるにつれて、オーナーや投資家にオフィスの物理的スペースに対する考え方を改める圧力が生じている。

JLLの「Workplace, Reworked」レポートによれば、ワークスペースがイノベーションを育むためには、専用の業務エリアやホットデスクと共に、コミュニティや社交用のスペースが提供されなければならない。キャロルによると「後者はオープンで協働的な場所であり、アイディアの交換を促進し、異なる組織が協力することを可能にする」という。

実際に近代的ワークスペースではイノベーションとコラボレーションがより密接に関連するようになっているのである。

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