新型コロナウィルス感染拡大-ワークプレイスの混乱を管理するための5つのヒント
新型コロナウィルスの感染拡大が続く中、ワークプレイスでは雇用主に対して従業員にテレワークが可能な生産性向上ツールを提供することが求められている。
地域・業界問わず求められるワークプレイスの新態勢
あらゆる企業が直面するワークプレイスの混乱
新型コロナウィルスの世界的な感染拡大は、ワークプレイスのフレキシビリティ(柔軟性)をどこまで拡大できるのかという既成概念を一晩で覆したかのように見受けられる。電力会社や大学などのより保守的な風土を有する組織ですら、従業員の健康を最優先し、ウィルス感染拡大を抑制するためにテレワークに切り替えている。この危機発生以前から全社的に在宅勤務を推進していた組織も、予想していたよりも急速に、しかもおそらく長期的にテレワーク体制を継続しなければならなくなっている。
世界のあらゆる企業がワークプレイスの混乱に直面する可能性がある。この混乱に効果的な対応ができる企業は感染拡大期間を通じて事業活動を維持するだけではなく、将来的な危機にも上手に対応できる態勢を整えている。従業員がテレワークのためラップトップPCを自宅に持ち帰る中、ワークプレイスストラテジストや商業用不動産のリーダーは、どこで仕事をすることになっても高い生産性とエンゲージメントを維持できるワークプレイス文化と行動を形作る重要な役割を果たす。
以下に、従業員がテレワーク中も生産的、効果的かつコネクションを維持して勤務するために必要なツールとサポートを確保するためのヒントをまとめた。
1. 医療と福祉が最優先事項
新型コロナウィルス感染が世界中に広がる中、あらゆる組織の危機対策上の最優先事項は、その従業員、顧客、ベンダー、その他のステークホルダーの健康を守ることである。非常に多くの企業が、オフィス(あるいはその一部)を閉鎖したりテレワーク計画を実行したりすることで、ウィルス感染拡大の抑制に取り組んでいる。
従業員を在宅勤務させれば大部分の労働者の安全が確保されるが、テレワークができない従業員はどうすればよいか。一部の組織は、事業活動に必要不可欠な機能(部署)を隔離し、当該従業員が他部署と接触することなく業務を遂行できる物理的なワークスペースを確保している。電力会社の中には、発電所の当直者の外出を最低限に抑えるため発電所に寝泊まりする可能性を検討している企業すらある。
これは極端な措置であり、ソーシャルディスタンス戦略が不要になれば確実に解消されるだろう。しかし、新型コロナウィルスの世界的感染拡大は、換気、エアフィルター、清掃、施設管理態勢などの「ビルの健康」に配慮することがいかに重要であるかを明白にした。健康なビルで働く要望がすぐに消えてしまうことはない。
2. 仮想ワークプレイスに適応したインフラの構築
仮想ワークプレイスの中核には、コラボレーションやアイディア共有、そして業務遂行の場といった、物理的ワークプレイスと同じ要素が多く含まれる。しかし、仮想環境で効果的に勤務するために必要なラップトップ、VPN、ファイル共有システム、基本的ソフトウェアへのアクセス性、携帯電話と高速Wi‐Fi等の業務を円滑に遂行する上でのテクノロジーを、従業員自らが自宅に確保するのは大きな負担となる。
こうした基本的インフラに加えて、仮想環境で協働するためには、適切なコラボレーションやコミュニケーションのツールへもアクセスできなければならない。ワークプレイスの設計では、コラボレーションを要する人が至近の席に座ろうとすることが多い。今や、こうしたコンセプトをインターネット上で再現する方法をみつけなければならないのである。社内用のチャットやメッセンジャーアプリからビデオ会議ソリューションまで、従業員にコミュニケーションのツールを提供し、その利用方法についてトレーニングを実施することで、従業員同士のコネクションが維持された組織と縦割り組織との間に大きな差が生ずる。
テレワークを実施する際にデジタルワークプレイスを担当する責任者やチームを任命することが有効かもしれない。サポートチームには、自宅で人間工学に基づくワークステーションをセットアップするために必要なツールについて助言するワークプレイス設計者や、複雑な在宅システム設定について従業員をサポートするバーチャルヘルプデスクを含めることができるだろう。
3. バーチャル文化行事で生産性・エンゲージメントの低下を予防
多くの都市でカフェやバーすら開いていないという新たな現実環境では、人と直接的に接することのない自宅勤務をわずか数日程度行うだけでも孤立を感じる人もおり、生産性とエンゲージメントが低下する可能性がある。
組織はこうした影響に積極的な対策を講じ、従業員が同一空間にいなくても十分にコネクションが維持されていると感じられる態勢を整えなければならない。バーチャル休憩時間、勤務時間後のサービスタイム、読書クラブ、ゲーミングやアバターを使った交流で、このような目標達成に大きく近づくことができる。これらはオフィス内に用意されたラウンジやカフェを活用したコミュニティーイベントが提供する「体験」に完全に置き換わるものではないが、通常の生活に戻るまでコミュニティー感覚を維持することに役立つ。
組織風土の補強方法を考えるに当たっては、従業員が新型コロナウィルスのソーシャルディスタンス戦略実行中に直面する様々な課題を認識することが重要となる。独身の外向的な従業員は小さなアパートで一人きりで仕事をしていれば深い孤独を感じるかもしれず、小さな子供のいる従業員は勤務中に子供の面倒を見たり、自宅学習を監督する大きなプレッシャーを感じていたりするかもしれない。このため、バーチャルイベント参加の意欲や可能性は人によって温度差があるだろう。しかし、自分のチームとの電話やビデオを使った定期的な業務関連事項についての会議実施や、協働を容易にするデジタルコラボレーションのツールは全従業員にメリットをもたらすはずだ。
4.自宅とオフィス以外の代替的な職場を探す
場合によっては、通常通りオフィスには入れなくても自宅勤務が唯一の選択肢とならないこともあるだろう。例えば、取り扱う業務の機密性が高くセキュリティが確保できない場所では実施できない、リモートアクセス不能な機材やプログラムが必要、または自宅環境が仕事に不適切な場合等が挙げられる。
このため、一部の組織はウィルス対策がなされたコワーキングスペース等の代替的なサテライトオフィスの可能性を検証している。そのような選択肢を検討する場合、衛生プロセスとスケジュール、施設へのアクセス権について深く理解することが重要となる。長期的には、緊急事態下で従業員の生産性を維持する「代替的な職場」に価値を認める企業が増えるかもしれない。
5.双方向のコミュニケーション
急速に変化する時代に透明性を確保するには、明確なコミュニケーションが重要となる。従業員や取引相手に対し、伝染病の感染対策についての情報を伝える規定やガイドラインを設定する必要がある。イントラネットは従業員が新型コロナウィルスに関するワークプレイスの運営方針や更新情報にアクセスする手段となり得る。
また、適切な情報を配信し「フェイクニュース」や「インフォデミック(情報の氾濫により信頼できる情報源や必要なガイダンスがみつけにくくなること)」を防止することで誤解を回避する。
従業員は当日の勤務だけではなく、経済や雇用への長期的な影響を色々と心配していることを理解する。コロナウィルスの世界的流行が貴社の事業に与える影響や、この期間中に従業員に期待されることを早めにかつ頻繁に伝え、懸念事項や質問のある従業員のためのフィードバックチャネルを設定する。
新型コロナウィルスは「未来の働き方」をどのように変化させるのか
現在生じているテレワークへの突然のシフトチェンジ。この長期的な影響を予想することは不可能だが、いくつかの可能性が考えられる。一つは、従業員とビジネスリーダーのいずれもが、各個人が最も適切な場所と時間で働く(少なくとも一部は在宅勤務する)自由を得た場合に解放される価値に目を開かされたことだ。あるいは、直接的なコミュニケーションが切実に求められることによって、物理的スペースが毎日どのように必要とされているのか、どのように働き方に影響を与えているのかがよりよく理解されるようになる可能性もある。ワークプレイスのストラテジストや設計者は、従業員が集い、結びつき、高い生産性をもって働き、ひらめきを得るワークプレイスの未来を形作る上でますます重要な役割を果たすことになるだろう。
注:JLLおよび弊社スタッフは、貴社の事業継続計画策定もしくは対策計画策定につき、医療および公衆衛生の視点から指導し、または影響を与える権限もしくは資格を有せず、弊社は何らの責任を負うものではありません。第三者より公開された最新の資料等を提供するよう努めますが、新型コロナウィルスに関する一切の情報、医療・公衆衛生上の影響については、独立した専門家の助言に基づく対応をお願いいたします。