「ブロックチェーン革命」で不動産取引が加速?
誰もが安心して迅速に投資ができるマーケット環境をいかに整備するか。解決に導くのはテクノロジーの活用、中でもブロックチェーンは不動産投資マーケットの「透明度」を改善し、ひいては不動産取引の「Liquidity(流動性)」を飛躍的に向上させる可能性が高い新技術だ。
テクノロジーが不動産の透明性と流動性を高める
新しいテクノロジー、とりわけブロックチェーン(分散型台帳技術)は不動産の価値を劇的に高めてくれるのではないだろうか。ポイントとなるのは「Transparency(透明性)」と「Liquidity(流動性)」だ。株式や為替取引に用いられる言葉で「市場参加者が多数存在し、即時取引が可能な状態」を意味する。ブロックチェーンを活用すれば、長期間を要する不動産取引の過程を大幅に短縮する可能性がある。
不動産に関わるあらゆる情報……土地・建物の登記、取引価格、工事・修繕履歴、ファイナンス情報など、投資判断の基準ともなるこれらの情報を事実上改ざん不可能なブロックチェーン上に時系列で記録することで、精度の高い情報を一般に広く公開しながらきわめてセキュリティが厳格な共通のデータベースを構築できる。紙ベースの膨大な契約書類はデジタル化され、取引スピードはこれまで以上に加速するだろう。取引に要する時間が短縮されれば海外投資につきものの為替リスクも軽微になる。
バイヤー(買主)は投資の選択肢が広がり、デューデリジェンスや融資審査に要する時間も大幅に短縮できる。一方、魅力的な不動産であることを裏付ける信用情報としてセラー(売主)は自信をもって販売活動に邁進できる。つまりバイヤー、セラー双方が安心して不動産取引ができる環境を整えることがブロックチェーンの活用によって可能になる。情報の非対称性が1つの課題となっていた日本の不動産市場が、より健全かつ公平なマーケットに進化を遂げるのならば、これまで以上に投資マネーを吸引し、グローバルマーケットとして世界的な評価を高められる。ひいては経済発展にも寄与していくのではないだろうか。
ブロックチェーン実証実験が海外で本格化- ブロックチェーンが不動産市場を変革
不動産取引には買主と売主以外にも多くの関係者が介在する。ステークホルダーが多数存在することで、その過程はより複雑になり、取引成立に至るまでの道のりは長くなる。一方、取引プロセスを自動化する「スマートコントラクト」の中核技術はブロックチェーンであり、これにより決済期間の短縮や改ざん等の不正防止も可能だ。
米国をはじめ、いくつかの国がブロックチェーンの有用性に気づき、不動産情報の管理に利用する実証実験が始まっており、一部では実用に至っている。例えば米国バージニア州サウスバーリントン市では、市の不動産取引記録システムをブロックチェーンに置き換えるという実証実験を行っている。また、スウェーデンでは2016年から土地登記をブロックチェーン技術で管理する実証実験を行っていたが、2018年3月に正式採用すると発表した。公文書という「紙ベース」の情報を閲覧するためには、保管場所の問題や郵送の手間があり、ブロックチェーンによって大幅なコスト削減も可能だ。
不動産テックで投資環境の透明度が向上- ブロックチェーンが不動産市場を変革
JLLでは1999年から2年毎に世界の不動産市場の「透明度」をランキングする「グローバル不動産透明度インデックス」を発表している。海外投資家の直接投資の多寡と密接に関係する同調査は、言い換えれば「不動産市場に対する投資のしやすさ」を測る指標でもある。7月25日に発表した最新の2018年度版では調査対象を世界100カ国158都市に拡大した。日本は総合ランキング2014年度26位、2016年度19位、2018年度版では14位へと躍進。最上位グループである「透明度高グループ」入りを目前としている。今回から新しく調査項目に加わった「サステナビリティ」が全体3位となり、総合順位の底上げに貢献した結果だが、従来の調査項目のみ当てはめると実質21位と順位を落としている。日本の透明度は依然として改善しているものの、他国の透明度改善のスピードが日本を上回っているためだ。今回の透明度調査では調査対象国100カ国のうち85%で透明度が向上したが、最も大きく改善した項目は「市場ファンダメンタルズ」だ。多くの国で入手可能なデータ量や質の改善が進んでおり、不動産テックを積極的に活用しているオランダが6位へ躍進した他、国家戦略としてオープンデータ政策を進めるUAE・ドバイ等の躍進も目立つ結果となった。無論、透明度上位市場の多くで不動産登記における取引価格の開示を義務付けるなど、情報開示を徹底している。世界の投資総額75%が透明度上位の市場に集中していることからも明らかだが、不動産投資マーケットの魅力は「透明度」と密接に関係していることが窺える。
日本の投資市場を変える- ブロックチェーンが不動産市場を変革
今回の透明度調査ではテクノロジーを活用して不動産透明度の向上を実現する多くの国が現れた。データへのアクセスを飛躍的に向上させるオープンデータ化は透明度上位市場を独占する英語圏のみならず、新興市場においても実践され、透明度の変革を促している。一方、日本は情報開示が十分とはいえず、共益費といった不透明な商習慣も根強く残っている。透明度を高める世界の不動産市場に日本はいかに追いつき、追い越していくのか。ブロックチェーンこそ、その可能性を開く鍵になるはずだ。