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確認申請を行っていない不動産を取得してしまったら . . . 

企業買収を行う際に、買収先の保有資産の中にこうした違法物件が紛れ込んでいることがある。気づいた時にはもはや手遅れ。「ババを引いた」このケース、どうする?

2018年 05月 10日

M&Aで違法物件を手に入れる羽目に

2014年に国交省が策定した「検査済証がない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」を受けて、完了検査済証が未交付の建築物の「合法化」を進める動きが加速している。民間指定検査機関の適合判定調査を受け、問題点を是正し「適法」のお墨付きを得ることで、用途変更や増築を実施することができる。既存ストックの有効活用を促す画期的な取り組みであり、売買マーケットに投資適格物件を供給する狙いも見え隠れする。

完了検査済証の未交付問題については一定の「救済措置」がなされたが、意図的に建築確認申請を行っていない建築物になると目も当てられない。そもそも担当行政の許可を得ず勝手に建設工事を進めているのだから「違法」であることは間違いないのだが、企図せず確認済証がない不動産を所有することになり、後々になって初めて瑕疵があることに気づくケースがある。

JLL日本キャピタルマーケット事業部の池上風美は電話越しで捲し立てるクライアントの一報を受けて困惑していた。付き合いの長いクライアントからの突然の相談―。内容はこうだ。

「ある企業買収を実施したが、買収先の企業が保有していた不動産の一部で確認済証が存在しなかった。どうすればいい」

高いレベルでコンプライアンスを遵守するJLLのもとには日々クライアントから様々な依頼が寄せられるが、今回は池上が知る限り「キャピタルマーケット事業部で扱った経験がない」案件だった。池上は「ディールに関わる際、遵法性について確認を怠ることはありえない。確認済証の有無を見落とすなど論外」と憤る。ただ、不動産のデューデリジェンス(遵法性調査)は専門性が高いため、今回のような純粋な不動産取引ではない取引や、不動産のプロを介さない取引の場合、調査が不十分なままで契約してしまうケースがあるようだ。クライアントはある企業を買収し、保有資産の中には地方都市にある倉庫が存在していた。買収後しばらくはそのまま使用し続け、その後増築しようと監督官庁に問い合わせたところ、確認済証がないことに初めて気づいたそうだ。

「検査なし」なら対策はあるが…

意図的に建築確認を取得していない建物の場合、そもそも建築確認が下りない建物、つまり違反建築物であるがために必要な手続きを経ていない可能性があり、違反の内容が重大であれば、増築も用途変更もできず、建替える他、選択肢がない。買主は損害賠償請求を検討するなど、抜き差しならない状況に陥っているという。想定される損害は建物の解体費用、新築費用、当該建物の使用者の移転費用などが考えられ、不動産価値以上の損失をこうむるのは免れられないようだ。ただし、前述の国交省のガイドラインに基づく調査等を活用することにより、「取り壊し」という最悪のシナリオを回避できる可能性もある。池上は「今回のような問題を抱えた不動産は全国に数えきれないほど存在し、国交省のガイドラインは、このような問題を抱えた既存ストックについても有効活用ができるように作られた仕組みである。建物が所在する自治体にとっても、安全性・遵法性が確保された建物が活用されることで、固定資産税・法人税等の税収確保と、地域の雇用維持にもつながる利点がある」と望みを捨てていないが、藁にも縋る想いとはまさにこのこと。心中は穏やかではないだろう。

確認済証がないと価値激減

「違法」物件を保有してしまった場合、その不動産価値は大きく棄損していることは重々に理解すべきだろう。JLL日本 戦略コンサルティング/バリュエーションチームの神山繁一は「不動産の証券化が進み、収益不動産で確認済証がないケースは珍しいが、企業が保有する不動産では稀に確認済証がないことがありえる。ただし、建物全体ではなく増築部分や小さな物置や倉庫であることにより、不動産全体の価値に対する影響は限定的であることが多い。遵法性の程度が高く是正が困難な場合は建替え前提で評価することになるが、地価が安いエリアでは取壊費用を考慮すると不動産価値がなくなってしまう物件がある一方で、収益性・市場性が高い代替用途の建物への建替えを想定することにより、価値が高まることもありえる」と説明する。ただし、違法物件であるため、J-REITはもちろん、ファンド・投資家の大半はコンプライアンス重視のため、確認済証がない物件を取得することは皆無。出口戦略に苦労しそうだ。

冒頭に言及した事例はあくまでレアケースで片付けられそうだが、池上は「保有不動産を本業の収益拡大に活用するCRE戦略の重要性が広く認知される中、不動産事業に従事していない事業会社が保有不動産を売却するケースも増えると思われる。その中には確認済証や検査済証がないといった遵法性に問題のある不動産が紛れ込んでいる可能性はこれまで以上に増えるのではないか」と警鐘を鳴らす。神山も同様の見解を示しており、解決策は「取得する前にしっかり評価する他ない」としている。不動産の譲渡が発生する場合はM&Aの場面であっても「不動産のプロ」に事前調査を依頼することが何よりのリスク対策になるのではないだろうか。

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