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日本観光マーケットの現状と今後の展望

新型コロナの度重なる感染拡大や緊急事態宣言の発出等により、GoToトラベルキャンペーンは短期間のうちに停止、東京オリンピック・パラリンピックは無観客開催となるなど、引き続きホテル業界は不透明な状況が続いている。日本観光マーケットの観点からホテルマーケットの現状と今後の展望について迫る。

2021年 10月 27日
コロナ禍の日本観光マーケット

新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年3月から宿泊需要が大幅に減少し、同時期にインバウンドもほぼ消滅するなど、日本の観光マーケットは大きな打撃を被った。GoToトラベルキャンペーンが開始された2020年10月前後は宿泊需要が前年対比で50%程度まで回復したものの、その後感染再拡大等によりGoToトラベルキャンペーンが停止。宿泊需要の回復に水を差される形となった。

2020-2021年の札幌市における対2019年比の延べ宿泊者数 出所:観光庁、JLL

2020-2021年の東京都における対2019年比の延べ宿泊者数 出所:観光庁、JLL

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2020-2021年の大阪市における対2019年比の延べ宿泊者数 出所:観光庁、JLL

2020-2021年の京都市における対2019年比の延べ宿泊者数 出所:観光庁、JLL

2020-2021年の福岡市における対2019年比の延べ宿泊者数 出所:観光庁、JLL

2020-2021年の那覇市における対2019年比の延べ宿泊者数 出所:観光庁、JLL

各都市における観光マーケットの特徴

一方、日本の観光マーケットを都市別(東京、札幌、大阪、京都、福岡、那覇)の宿泊需要の観点から見てみると、各マーケットによって宿泊需要の回復度合いに濃淡が出てきた。

札幌・東京

札幌の直近データである2021年4-6月の3ヵ月間とコロナ前の2019年同時期(4-6月)を比較すると宿泊需要は約29%にとどまっている。一方、東京は札幌と比べると回復基調にある。東京五輪の宿泊特需のみならず、コンサートやスポーツイベントの開催規制が緩和されてきており、東京は他都市と比較すると都市型レジャー需要が多く、また、ビジネス需要も他の都市と比べて相対的に多いことが大きな要因になっている。2回目・3回目の緊急事態宣言下において宿泊需要の大幅な減少は見られなかったため、宿泊需要の減少はボトムアウトしたと考えられる。

大阪・京都

大阪と京都の宿泊需要は、どちらもGoToトラベルキャンペーンの開催時期は回復傾向が見られるが、それ以降は本格的な回復はみられていない。大阪・京都とともに2021年4-6月の宿泊需要は、2019年同時期比で3割に満たない水準にとどまっている。また、大阪・京都はコロナ以前のインバウンド比率が4割近くあったため、インバウンドの需要が見込みづらい現状では宿泊需要の回復に時間がかかることが予想される。

福岡・那覇

福岡・那覇においては、全体的なトレンドは他の都市と同じであるが、福岡の宿泊需要は他の都市より回復度合いは大きく、2021年4-6月は2019年同時期比で35%程度まで戻ってきている福岡においてはインバウンドのうち主要な割合を占めていた韓国人が2019年に政治的問題から減少したこともあるが、他の主要都市と比べてインバウンド率が高くなく、また福岡の底堅いビジネス需要も存在する。那覇については沖縄県内のその他のリゾートエリアへの経由地としての利用も多く含まれるが、沖縄は国内を代表するリゾートであり、海外旅行の代替地として選ばれているという側面もある。那覇の2021年4-6月の宿泊需要は、2019年比同月比で3割程度となっている。

インバウンドの回復と成長

このように、国内の宿泊需要はゆるやかに戻ってきているものの、インバウンドの割合が高かったマーケットについては国内需要の回復だけでは価格競争が避けられないことが考えられる。また、新型コロナの影響が出る前に計画されたホテルの新規供給も控えていることも考慮すると、ホテルマーケットの本格的な回復にはインバウンドの回復・成長が待たれる。ただ、インバウンドの割合が高いマーケットは、言い換えれば今後のインバウンドの更なる拡大が期待できるケースも想定され、長期的な視野で見るとコロナ禍後の成長性が高いとも言える。

「旅行」での体験というのは、ウェブやバーチャル・リアリティで完全に代替できるものではないため、コロナ禍が収束すればレジャー需要は2019年水準に回復し、成長することが期待できる。その半面、ビジネス需要に関しては、一部ウェブ会議等で出張を伴わず対応できてしまうこともあるが、交渉事や商談等はウェブでは相手の温度感や反応がわからないこともある。対面の必要性やメリットが再認識されればビジネス需要も一定数戻ってくることが期待できる。

足元の感染状況はいまだに予断を許さない状況ではあるが、ホテルマーケットが回復傾向にあるアメリカや中国では「リベンジ旅行」といった言葉が聞かれるようになり、本格的なホテルの回復が目に見えて動き出している地域もある。近い将来、そのような動きが来ることを日本においても期待が高まっている。

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連絡先 中村 健太郎

JLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部 シニア ヴァイスプレジデント

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