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国内不動産投資市場の現状

2021年、アジア太平洋地区の主要不動産市場において唯一日本だけが対前年比で取引額がマイナスになった。これまで市場を牽引してきた外資系プレーヤーにとって売買活動がしにくい状況になったことが背景にある。一方、コロナ収束の機運が高まりつつある今後、日本市場復活は外資系の動向に左右されそうだ。

2021年 12月 09日

新型コロナウイルス感染拡大局面に入って1年半以上が経過しているが、この間、国内の不動産投資市場は諸外国に比べて比較的堅調に推移してきたといえる。一方で今年に入ってからは数字の上では停滞がみられるようになっており、アジア太平洋地区の主要マーケットと比べても伸びなやんでいる状況が見て取れる。この状況はどのようにとらえたらよいのか、また今後回復していくにあたってどのようなことが必要なのか、探っていきたい。

アジア太平洋地区の主要マーケットで日本のみ「マイナス成長」

現時点における2021年と、2020年の同じ期間の総取引高を比較してみると、アジア太平洋地域の主なマーケットではオーストラリアや香港などは1.4-1.6倍へと増加しており、その他の市場においても2-4割程度の増加がみられており、回復基調が鮮明である。一方で日本はアジア太平洋地区の主要マーケットで唯一マイナス成長となっており、若干厳しい結果となっている(表1)。

この理由についてまず昨年以降のコロナの状況を見てみると、たとえば大幅に伸びたオーストラリアなどは政府の方針において極めて強力なロックダウンが行われており経済活動がほぼ停滞していたが、今年に入り条件付きで緩和されるようになっており、これに伴い不動産の売買において物件を実際に視察する機会も増えてきたと考えられる。香港や中国本土、その他のマーケットにおいても新規陽性者数や死者数に歯止めがかからず、結果として経済活動をいったんストップさせる動きが昨年は多くみられたことは記憶に新しい。

一方で日本は緊急事態宣言が長期にわたって発出されてはいたものの、その間、罰則を伴うようなロックダウンなどは行われなかったことから、コロナの拡大があった中でもビジネスは止まらなかったことが、2020年の不動産投資取引高の堅調さにも表れているといえる。海外がロックダウンなどで身動きが取れなかった間でも日本は昨年来しっかり取引が行われていたが、今年はワクチンの普及など一定の条件下で経済活動が各国で再開していることもあり、世界でマーケットの正常化が一段と進んだ年となっており、それに伴って取引高も増加に転じていることが理由として挙げられる。つまりは日本以外の各国は「2020年の取引高があまりに低い」状況のなか、正常値に近い取引高を今年記録したことで昨年からの回復度合いがことさら強調されている状況にほかならないと考える。よって国内市場のファンダメンタルにおいてはそれほど大きな変化はなかったと考えて問題ないだろう。

売買戦線に異常あり?

とはいうものの昨年と比較して取引高が減少しているのは数字にも表れている。この減少の理由は売主と買主の属性を見ることで手掛かりをつかめよう。コロナ前の2019年と今年の第1-3四半期の取引高の合計を、属性別に売主と買主がどのような割合になっているかを見ると、傾向がはっきりとわかってくる。

2019年の売主の属性は国内外の不動産ファンドや上場、非上場の国内不動産会社やデベロッパー、一般事業会社などがほぼまんべんなく同程度のシェアを持って売却していた。これが2021年にどうなったかを見てみると、これまで売主属性でそれなりのシェアを誇っていた国内外の不動産ファンドが大きく後退している。特に外資系ファンドにいたっては全体のわずか5%にまで減少。売却金額の面でも2019年比で実に81%の減少となっている。そうしたなかシェアを伸ばしたのは一般事業会社であり、2019年の第3四半期までに実に1兆2,000億円を超える不動産を売却している。また今年の一般事業会社の売却は大型オフィスビルのリースバック案件が多いのも特徴で、電通やエイベックス、JTBなどが本社ビルなどの売却に踏み切ったのも記憶に新しい。

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では、なぜ一般事業会社の売却がこれだけあるなかで不動産取引高が伸び悩んだのか。それについてはやはり不動産ファンド、特に外資系のプレゼンスが大きく下がったことがあげられよう。外資系不動産ファンドは物件を取得して、ファンドの償還時期が近付くと売却してファンドをクローズさせるなど、いわば買っては売るというサイクルを繰り返していた。一方でこの新型コロナウイルス感染拡大局面にあって思うように物件の取得機会を得ることができず、とりわけ一般事業会社の売却においてはなかなか入札へと進む外資系ファンドも少数派であることから、現在のポートフォリオをリファイナンスの上そのまま保有していこうという作用が働いたためと考えられよう。

一般事業会社の売却物件を外資系ファンドが取得できていないという状況は、買主の属性を見ても明らかである。今年の第3四半期に一般事業会社が売却した物件の買主を属性別の割合で見てみると、70%が国内の上場不動産会社・デベロッパーで占められており、外資系ファンドは2位につけているもののわずか11%にとどまっている。一般事業会社の不動産売却はより高値での売却を実現させるため入札になるケースがほとんどで、外資系ファンドはいわゆる「高値掴み」を避ける意味でも、そうしたプロセスには参加しない場合が多いと考えられる。ファンド系の物件売却が進んでいないなか、いわゆる「相対」で取引できる物件が極めて少なくなったのも、外資系ファンドを中心とするファンド系プレーヤーの取得や売却に少なからず影響を与えていると考えられる。

外資の「復活」が国内市場活性化のカギに

国内不動産投資市場の「少しの停滞」はこれまでメインプレーヤーだった外資系ファンドの売買が著しく減少し、代わりに一般事業会社の売却や国内上場不動産会社・デベロッパーの台頭がもたらしているものと、データからは読み取れる。今後国内不動産投資市場がコロナ前の状況に戻っていくなかで、外資系ファンドの積極的な売買は欠かせないと考えられよう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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