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リスク嗜好似通う中、次の一手は?

低金利を背景に他国に類を見ない良好な融資環境が続く日本だが、投資家のリスク嗜好が収斂し、マーケット参加者の多くが買い側に回っており、過去のマーケットサイクルに比べ売り物件が不足していると感じられる、かつて経験したことのないような状況に陥っている。このような「投資家泣かせ」の状況ではあるが、視点を変えれば魅力的な投資先はまだまだ発掘できるようだ。

2月 18, 2019

マーケットサイクルを感じられない日本

東京Aグレードオフィスの空室率が1%台に達し、賃料も上昇傾向にある。キャップレートがタイトになってくると従前は利益確定の売却や目標IRRを達成するための早期売却が増加するが、今回の景気サイクルでは売却件数がなかなか伸びてこない。その結果、投資家の肌感覚では「資金調達が容易だが、魅力的な投資対象が非常に少ない」といった状態が続いているのではないだろうか。

この肌感覚はデータにも表れている。JLLでは実際の取引価格を基に東京Aグレードオフィス・Bグレードオフィスの最もキャップレートがタイトな取引を調査した。その結果、Aグレードオフィスは2014年にキャップレートが2.6%へ低下して以来、現在までフラットに推移している。一方、Bグレードオフィスは2014年以降も低下を続け、2018年は3.2%となり、A・Bのキャップレート差がなくなってきていることが判明した。不動産市況は「サイクル」と表現されるようにマーケットの動きは曲線を描くが、これだけ長期間フラットになるということは、同じ目線で投資戦略がなされているとのサインでもある。低金利が継続し、今後の売買市場も好調を維持するとの見方が大勢を占める中、売り急ぐ投資家は少ない。そして機関投資家やJ-REITといったコア系資金が収益物件を長期間保有することで、マーケットに売り圧力が生じず、これが市場参加者の多くが買い手に回っていることの要因の一つではないだろうか。

独自の切り口で新たな投資先を発掘

投資家のリスク嗜好が似通う現在のマーケットにおいて、投資適格物件を発掘するのは容易ではない。しかし、競合相手とは異なる切り口・発想を変えることで魅力的なリターンを得ることは十分に可能だ。例えば、住宅地近くのBグレードオフィスに対して積極的に投資しているアセットマネジメント会社が存在する。郊外型オフィスのリーシング戦略は一般的にサテライト需要が見込める都心の企業を誘致対象とするが、同社は商業施設のリーシングで培ったマーケティング手法をオフィスリーシングに生かしている。その結果、周辺住民に対してサービス・製品の販売を目的とする企業に着目している。具体的な業態はドラッグストアやクリニック、学習塾等が挙げられる。こうしたテナントは当該ビル近辺の商圏や人口構成を重視して入居を決めるため、一般オフィステナントを誘致しづらいオフィス立地物件であってもさほど気にしない。結果として投資家が最も期待する中長期的に安定したキャッシュフローが見込めるアセットに仕立てることができるのだ。

一方、クラウドファンディングを活用して個人投資家に向けて商業用不動産の小口投資商品を提供する不動産会社も存在感を高めている。10億円にも満たない都心の小型オフィスや好立地のマンションの投資額を、金融機関からの借り入れに頼らず全額クラウドファンディングで調達することで、J-REITやファンド等との競合を避け、素早い決済プロセスで競争力を上げ、取得物件の発掘に成功しているそうだ。加えて、クラウドファンディングには不動産会社への貸付型があり、多様なルートで物件情報が集まるようになったこともソーシングの追い風になっている。

オルタナティブへ着目

上記2つの事例は伝統的なアセットであるオフィスビルの中でも、Bグレードオフィスや小型オフィス等に投資を進めているが、新たな投資対象としてオルタナティブアセットに先駆的に投資するケースも少なくない。オルタナティブアセットにはセルフストレージ(トランクルーム)やデータセンター、学生寮等が該当するが、これらはこれから成熟してくるマーケットだ。一方で既に取引数が多く、多数の事業者が参入しているのが太陽光発電施設である。

しかし、太陽光発電(再生可能エネルギー)の普及を後押する固定価格買取制度(FIT)は2012年7月に開始(事業用。住宅用は2009年11月から開始)して以来、買取単価が見直され継続的に低下し続けているため、新規参入者が減り、撤退する事業者も出る等の厳しい現実もある。そうした中、インフラ投資法人のスポンサーになる等、出口戦略から逆算して太陽光発電施設の自社開発を行うことで、収益が見込める案件の独自組成を可能にしている不動産投資会社が存在する。

このように「投資家泣かせ」マーケット環境にあるが、競合他社とは異なる切り口で投資妙味のあるアセットを見出す投資戦略を打ち出すケースは存在する。有望な投資先を見出す目利き力に加え、柔軟な投資戦略を実行可能にする組織づくりこそ、投資戦略の差別化に繋がるのではないだろうか。