直近のドライパウダーとファンドレイジング動向
堅調に積みあがってきたドライパウダーが2023年に入って減少に転じた。金利上昇により国債などへ転じる投資家が増え、ファンドレイジングが低調だったためだ。世界的に不動産市場が冷え込む中、低金利政策を継続する日本は国内外の投資家を惹きつけてやまない。しかし、投資機会のミスマッチという課題も浮上してきた。
不動産投資を待つ待機資金(ドライパウダー)は近年増加の一途をたどっている。これは不動産投資を希望するエクイティが引きも切らないという大きな理由があるが、一方で投資機会が限定されていることから、そうしたエクイティを使い切れていないということが一番の理由であろう。
一方で、昨今の金利上昇を受けて不動産投資に回るエクイティが減少しているのも事実である。直近の不動産投資におけるエクイティ状況について考察したい。
3,300億米ドルものドライパウダー、昨年比で15%減少
2023年10月24日現在、世界でおよそ3,300億米ドル(約49兆円)がいまだ不動産への投資を待つドライパウダーとして残っている。ある意味国家予算並みの数字ではあるが、実は昨年末と比較して15%程度減少している。
ストラテジー別にみるとコア系(コア、コアプラス)の減少幅がそれぞれ29%、14%となっているのに対し、バリューアッドは19%減少しているものの、オポチュニスティックは7%の減少にとどまっている(図1)。
順調にドライパウダーを消化しているコア系に対し、投資先が見つけにくいオポチュニスティック系のエクイティの滞留が目立つ構図はここ数年続いているトレンドである。この結果、リスクを取るバリューアッドとオポチュニスティック系のエクイティがドライパウダー全体に占める割合は実に82%に上っている。
図1:世界のドライパウダーの推移 出所:Preqin
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2023年に入ってドライパウダーが消化されるようになった理由
2023年にドライパウダーが消化されるようになった最も大きな理由は、不動産投資を希望するエクイティ…つまりファンドレイジングが低調であること
2023年にドライパウダーが消化されるようになった最も大きな理由は、不動産投資を希望するエクイティ…つまりファンドレイジングが低調であることであろう。2022年末と2023年10月24日時点の数字を比較すると、ファンドの本数ベースで54%、金額ベースで41%と大きく減少している(図2)。まだ残り2カ月あるとはいえ、昨年レベルのファンドレイジングには到底届かないと考えられる。
また、2023年にクローズしたファンドのうち、Blackstone Real Estate Partners X一本の割合は全ファンドの金額ベースで実に32%を占めている。かつて大型ファンドが多くみられた状況からは大きく様変わりしているといえよう。
図2:ファンドレイジングの推移 出所:Preqin
ファンドレイジングが低調な理由
ファンドレイジングが低調な理由は、金利の上昇により不動産投資をするより国債などへの投資のほうがより高い利回りを享受できるようになっているためだと考えられよう。特にコア系の投資家を中心に、これまで不動産に振り分けていたエクイティを不動産以外の投資先へとシフトさせていると考えられる。
一方で、高い利回りを求めるバリューアッドやオポチュニスティック系の投資家は引き続き不動産に一縷の望みを抱いており、その結果が現在のドライパウダーのストラテジー別の構成に大きな影響を与えているといえよう。
金利が上昇したことで不動産投資の妙味が薄れており、結果として世界の主要マーケットの投資額が相次いで前年から大きなマイナスを記録しているなど、不動産投資を取り巻く現状は極めて厳しいものとなっている。一方で投資を待つ資金はまだ大量に市場に滞留している。つまり不動産には投資したいのだが、そのドライパウダーが期待する利回りを提供できる投資機会が極めて限定的であるというミスマッチが多数発生している、という歯がゆい状況が長く続いていることが、いわゆる「消化不良」を起こしている要因といえよう。
投資機会
引き続き投資妙味がある日本だがミスマッチも
日銀は事実上の金利上昇を容認するも、投資先としての国内不動産には引き続き投資妙味がある
先般、日銀がYCCの枠組み内での事実上の金利上昇を容認する決定がなされたものの、金融緩和政策は堅持することも同時に明らかにしている。これにより現在の低金利環境はしばらく継続することになり、日本は引き続きレバレッジ効果が期待できるマーケットであり続けることとなった。加えて日本における不動産投資は国債より高い利回りが期待できることから、投資家からは引き続き注目を集めると考えられる。
一方で日本市場においても投資機会とエクイティのミスマッチが多発している状況である。日本の不動産は極めて安定的に稼働しているものが多く、いわばコア系向きの投資先である。しかし、ドライパウダーとして滞留しているのは主にオポチュニスティック系のエクイティであり、国内市場でこうしたリスクを取るエクイティの投資先を見つけることは若干難しい状況にある。
今後はこうしたオポチュニスティック系のエクイティをいかにして消化していくか、業界全体が知恵を出していくことが求められよう。
連絡先 内藤 康二
JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクターあなたの投資の目標は何ですか?
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