記事

日本の不動産はもう“売り”? まだまだ“買い”?

JLL日本が2018年10月22日に開催した「不動産&ホテル投資フォーラム」の来場者に「日本の不動産市場は売りか、買いか?」を質問したところ、「買い」が58%となった。昨年のフォーラムでは「売り」が56%と優勢だったが、1年が経過した現在、日本市場の魅力が再確認された形だ。投資家心理が「日本は買い」に振れた理由とは…。

2019年 02月 15日

アジア太平洋地域は健全な成長見込む

JLLの調査ではアジア太平洋地域における2018年の不動産取引額は2017年並みに推移し、今後も健全な成長を見込んでいる。最も巨額の取引がなされたのは香港だ。地上73階建てのオフィスビル「The Center」が約51億米ドルで取引されたことが背景にある。次いでオーストラリア、日本、中国となり、日本市場は依然として存在感を発揮している。

アジア太平洋地域における日本市場の魅力は何か。地政学リスクの少なさ、日本人投資家と平等な税制など、その理由は多岐にわたるが、海外投資家に最も評価されているのが「借入コストの低さ」に他ならない。長期金利と不動産利回りの差を示す「イールドスプレッド」は投資家が重視する指標だが、低金利が続く日本は他国を圧倒する。FRBの金融政策によって米国は利上げへ舵を切るなど、金利の変動性が高まると海外投資家はヘッジコストを含めて投資戦略を再考する。ヘッジコストは買主・売主2国間の金利格差で決定される。韓国投資家が2018年、米国ではなく、英国(ロンドン)のポンド安を背景に欧州に対外投資を集中させたように、投資先が通貨安、もしくは自国が通貨高になるタイミングで投資したほうがより高いリターンが得られる。こう考えると低金利・円安の日本市場に対して海外の投資マネーは引き続き増えていくと期待できる。

日本へ投資する海外投資家の属性

日本へ目を向ける海外投資家の属性はすそ野が広く、プライベート・エクイティが中心だ。今後はヘッジコストの優位性を求めて欧州の投資家が日本への投資を増やしていくと予想される。2017年12月にノルウェー政府年金基金系のNorges Bank Real Estate Management(NBREM)が1,325億円で表参道周辺の商業施設5棟を取得したのも、その一端といえるだろう。

一方、2017年にはグローバルの不動産を「爆買い」していた中国人投資家の勢いは2018年に入って鳴りを潜めた。「持続可能な成長(ニューノーマル)」の実現を目指す中国政府が資本投資リスクと債務増加の抑制に乗り出し、マネーサプライを縮小して新規貸付のコントロールを開始したためだ。現在の主な投資家は個人富裕層が中心であり、新たな投資先として「一帯一路」関連国にフォーカスしている。この状況は2019年以降も続いていきそうだ。

日本のホテルを有望視

世界屈指の巨大なマーケットを有する日本において、海外投資家が高く評価するアセットタイプの一つはホテルだ。堅実な国内旅行需要に加え、訪日外国人観光客の増加により、日本のホテルはここ数年記録的なパフォーマンスを達成した。2019年にはラグビーW杯、2020年には東京五輪が開催され、IRへの期待や2025年の大阪万博の招致が決定する等、観光業に追い風が吹いている。

アジア都市別のホテル投資初年度の利回り差を比較すると、東京は4.5%で最も低い。しかし、資金調達コストを前提に考えるとイールドスプレッドは東京・大阪では250-300bpsに対して、シンガポールは100-150bps、香港は更にタイトになり50-100bpsとなり、やはり日本市場に優位性がある。唯一の弱点は投資適格物件が市場に出てこない「モノ不足」だけだ。

堅調な市場ファンダメンタルズ、他国よりも流動性が高く、オーナーシップ(完全所有権)が確立されている日本の不動産は自信を持って「買い」の状況だ。将来的にキャップレートは更に圧縮することが予想されるが、オーナーにとっては資産を入れ替えるチャンスでもある。