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IFRS16号の適用が不動産ガバナンスを強化する千載一遇の機会に

2019年1月1日以降に始まる会計年度からIFRS(国際会計基準)採用企業に適用される第16号。新しいリース基準を定め、すべての不動産賃貸借契約の精査する必要がある。

2018年 04月 19日

賃貸借契約の会計処理に影響

IFRS第16号では「原則すべてのリース取引を貸借対照表上で資産・負債計上する」ことが求められ、不動産への影響が最も大きいといわれている。IFRSを採用する一部の日本企業(約170社)はIFRS第16号への対応に迫られている。

大きな変更点は不動産賃貸借契約における会計処理だ。これまでオフィスや工場等を賃借すると当該年度分の賃料を費用計上していたが、IFRS第16号では見込まれる支払い賃料の総額ならびに使用権を簿価計上しなくてはならない。ここで賃貸借契約の詳細を把握できていないと後々面倒なことになる。日本法人が海外に進出する際、現地法人を設立することが多く、不動産賃貸借契約は現地法人の管轄としている場合が多い。仮に年間賃料を現地からの報告で把握することができたとしても、賃借料と共益費の内訳、リース期間の見積もり、将来賃料に関する特約事項といった契約内容の詳細を知るのは難しく、国内外すべての不動産賃貸借契約を精査しなくてはならない。JLL日本 コーポレート営業本部 榊敏正は「国内不動産の場合、一般的な普通賃貸借契約は『2年間の更新』が主流で、契約書からリース期間を見積もることが実務上できなくなる」と指摘。また、資産除去債務を計上した際、一定の期間を設定しているが、これと今回リース資産計上のために設定する賃貸借契約期間が異なるケースが想定される。その場合、資産除去債務の計算のやり直しが必要となる。加えて、IFRS第16号が適用されると「セール・アンド・リースバック(S&LB)」のメリットである不動産売却利益の一時計上ができなくなる点も注意したい。売却益はリースバック期間に応じ償却することとなる。

不動産のガバナンスを確立する機会

このように、国内外に多数存在する支店・営業所・現地法人など、すべての賃借状況を把握しなければIFRS第16号への的確な対応はスムーズに進まない。しかし、裏を返せば、IFRS第16号の「強制力」を理由とすることで、これまで手が回らなかった不動産に関するガバナンスを確立する絶好の機会ともなりえる。JLL日本 インテグレ―ティッドポートフォリオサービス事業部 事業部長 高橋貴裕は「不動産を管理しきれていないことに問題意識を持つ日本企業は少なくないが、本社ないし担当部門に権限がなく、歯がゆい想いをしていたのではないか。本社で海外拠点等を一元管理することで国内外グループ全体での不動産戦略を見直すことができる」とし、ひいてはオフィス面積や支払い賃料を適正化することで大幅なコスト削減も可能となるという。

ただし、IFRS第16号への対応によって不動産賃貸コストの見直しを図るならば、今年度中に実施するべきだ。榊は「現地法人から報告された金額を使って、2019年度に計上し、翌年以降にJLLのコンサルティングサービスを採用した場合、簿価計上する金額が変わる可能性があり、過年度修正が必要になるため」と注意を促している。

日本の会計基準にも影響?

IFRS第16号への対応として、国際会計事務所や大手コンサルティング会社等と顧問契約を結ぶ日本企業も存在する。IFRS第16号に対する会計上のアドバイスについては期待できるが、現地不動産に関する知見や海外ネットワークは期待できず、具体的な不動産ソリューションを提供してくれるわけではない。グローバル規模で各国の不動産事情に精通した「プロ」との連携なくして、この問題に対応するのは難しいのではないだろうか。高橋は「世界の不動産マーケットに関する調査実績が豊富なJLLのもとには、IFRS第16号に対する日本企業からの相談は日増しに増えている」と述べている。

今回IFRS第16号が適用される日本企業はわずか170社程度だが、榊は「対岸の火事ではない」と警鐘を鳴らす。日本の会計基準もIFRS第16号で示された新リース基準について検討するとの方向性が示されているためだ。将来的に日本の上場企業すべてが新リース基準への対応に迫られる可能性がある。榊は「IFRS第16号で不動産に対するガバナンスの重要性に気づかれる企業も多いのでは」と推測する。不動産はコスト削減の可能性が高く、ひいては収益の改善に直結する「重要なインフラ」と考え、今一度管理体制の見直しを図るべきだろう。

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