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福岡の投資市場の現状と今後の見通し

2020年の福岡における不動産直接投資額は、コロナ禍であったにもかかわらず対前年比ほぼ横ばいの750億円であった。依然として投資家の福岡に対する投資意欲の高さが表れている。しかし、福岡の投資市場は投資家の買い意欲に対して、売り物件が圧倒的に少ない。需給ギャップが著しいマーケット環境が続いている。

2021年 03月 04日
投資家の買い意欲が旺盛な背景

投資家は買い意欲を高めているのは、福岡のファンダメンタルズの強さに支えられた賃貸市場の安定と成長期待が主因と考えられる。

  • オフィス:国内で最も需給が逼迫し賃料の上昇率も最高

  • 物流:大型施設の全てがほぼ満床

  • 住宅:人口増加率が首都圏を除く政令指定都市で最も高い

  • 店舗:ホテルも足もとでは新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けているものの、地理的にアジアに近接するアドバンテージによってインバウンド需要の戻り期待

  • その他:福岡県のみならず九州全体としての拠点性の高さ

このような投資家の見方は、コロナ禍にあっても大きく変化していない。コロナ禍にJLLで実施した投資家アンケートにおいて日本のどのエリアに投資をしたいかという問いに対して、国内・海外投資家のいずれも福岡を東京と遜色ない最上位の重点エリアと回答している。一方、投資家の買い意欲が旺盛であるにもかかわらず、売り物件が極端に少ないため、福岡の投資市場が盛り上がりを欠いている面は否めない。

伸びない福岡の不動産直接投資額

2020年の日本全体の不動産直接投資額に占める福岡の割合は1.8%、過去5年間の平均割合も2.5%である。福岡が国内では3大都市に次ぐ大都市であることを鑑みるとあまりにも低水準である。

2020年の取引を振り返ると、福岡の不動産直接取引の80%以上がクロスボーダーかREITによる取引であった。このように特定の投資主体に偏るのは他都市ではみられない現象である。売り物件が極端に少ない中、積極的な価格で投資できるプレーヤーのみが取引を成立させ、それ以外のプレーヤーの投資機会がほとんどないことを示唆している。

2020年の日本全体の不動産直接投資額に占める福岡の割合は1.8% 出所:JLL

また、セクター別の割合をみると、リテールが最も多く全体の47%を占め、次いで物流が24%と2つのセクターで全体の70%以上を占めている。そしてオフィスが10%の低水準となっている。こうした点も投資家にとって投資し難い環境が反映されている。その結果、福岡の不動産直接投資額が伸び悩んでいると考えられる。

福岡のセクター別の投資割合を見るとオフィスの割合が低く、リテールと物流の割合が高いことがわかる 出所:JLL

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オフィスセクターの活性化に期待

福岡が投資家にとって魅力的なエリアであり続けることは今後も続くだろう。こうした中で、投資市場が盛り上がるために必要なことはオフィスセクターの売買が活発に行われることにあろう。コロナ禍以前の2018年から、オフィスの取引割合は10%程度と低水準が続いている。2020年、全国的にみるとコロナ禍でオフィスの取引割合は減少したものの30%を上回っている。このギャップが解消されるだけでも福岡の投資市場は活性化されるはずである。

現在、福岡のオフィス賃貸市場は、新型コロナウイルス感染拡大の影響による需要の減退とこれまでの供給不足の解消に向けた新規供給が本格化している。その結果、空室率は上昇し、賃料も下落に転じている。さらに中長期的には天神ビッグバン・博多コネクティッドによる大型ビルの再開発も相次いで行われる予定であり、先行きへの警戒感が高まってきている。こうしたことを背景に、これまでオフィスビルを売る理由がなかった投資家の中には利益確定の売却や、事業会社による自社ビルの売却などで売り物件が増加してくる可能性がある。

投資家の中には空室率上昇、賃料下落を前にしてオフィス投資に慎重となることもあろう。しかし、短期的な調整は避けられないものの、福岡のオフィス市場のポテンシャルが低下したわけではなく、中長期的にみれば福岡が国内屈指の成長市場であり続けることに変わりない。

今後も投資家にとって妙味のある市場として、積極姿勢を継続して、オフィスセクターと向き合い、オフィス取引が活発に行われ、ひいては福岡全体の投資市場がさらに活性化することに期待したい。

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連絡先 山口 武

JLL日本 関西支社 リサーチディレクター

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