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大阪を席巻する外資マネー、リテールからオフィスへ

大阪の不動産投資市場を牽引する海外投資家の動きに大きな変化が見られる。これまでリテールセクターへの投資が目立っていたが、ここにきてAグレードオフィスへ目を向け始めたのだ。床不足を背景に「長期的に賃料のアップサイドが見込める優良投資先」。このように考える海外投資家などによって、2010年の竣工以来、未稼働状態だったビルまでもが動き出している。

2019年 10月 15日

2017年までリテールへ投資が集中

大阪の不動産投資マーケットにおいて2017年までの主役は明らかにリテールセクターだった。JLL日本 関西支社の調査結果では、大阪市内を対象にした2017年上半期の商業用不動産投資額割合はリテール集積地であるミナミに64%が集中。同年下半期でも35%を占めた。

海外投資家による主な取得事例は「中座くいだおれビル」をはじめ、「プライムスクエア心斎橋」、「EDGE心斎橋・クリスタグランドビル」、「Gビル御堂筋02」等が挙げられる。国内資本による大型取引では「心斎橋プラザビル」が目を引いた。海外投資家がミナミのリテール投資に注力したのは2014年以降。訪日外国人観光客の増加による売上増が期待できるリテールに着目したためだ。2017年の来阪外客数は1111万人、2013年の263万人から大幅に増加している。ミナミの心斎橋筋商店街や戎橋周辺は訪日客が殺到し、1階路面店の賃料水準も跳ね上がったのは記憶に新しい。2018年1月の地価公示においてリテール主体のミナミが、オフィス主体のキタを逆転したことがリテールセクターの隆盛を物語っている。

2018年以降、オフィス投資が活況呈す

コンスタントに続いていた海外投資家によるリテール投資だが、2018年になると状況は一変、大型の取得事例は見受けられなくなった。反対に2017年から2018年にかけて利益確定とみられる売却に転じ、国内資本がその出口となった。2019年4月にミナミの「顔」ともいえる商業施設「クリサス心斎橋」が国内資本に売却されたことで海外投資家のリテール投資が一区切りついた形だ。一方、リテールに代わって台頭してきたのが、需給がひっ迫し賃料の大幅なアップサイドが将来的に見込めるAグレードオフィスである。海外投資家による直近のオフィス投資事例は次の通りだ。2018年には「江戸堀センタービル」、「松下IMPビル」、「北浜NEXUビル」、2019年には「武田御堂筋ビル」が取引された。国内資本を含めると「りそな船場ビル」や「ザイマックス梅田新道ビル」などが2018年に取引されている。

「グランフロント大阪」が竣工した2013年以降、オフィスの新規供給が抑制された上に、既存オフィスの多くがより高い収益が見込めるレジやホテルに建て替えられ、賃貸床が減少した。一方、大阪圏の経済状況の改善に伴うオフィス需要が拡大したことでオフィス投資が脚光を浴びる。慢性的なオフィス不足となり、空室率は劇的に回復。年間の賃料上昇率も2ケタを記録している。JLL日本 リサーチ事業部の調査によると2019年第2四半期の大阪Aグレードオフィスの空室率は0.3%とひっ迫。賃料水準は月額坪当たり21,887円となり、前年比10.1%増だ。

「御堂筋フロントティア」再生

こうしたオフィス回帰が進む中、2010年に竣工して以来未稼働状態が続いていた「御堂筋フロントタワー」をラサール不動産投資顧問が取得し、「御堂筋フロンティア」に名称を一新。米国発のコワーキングスペース「WeWork」の一棟貸しを発表したのである。

WeWorkの大阪1号店は「なんばスカイオ」で、本件は2拠点目となる。延床面積は約18,000㎡、20フロアを借り上げる。WeWorkの進出によって「オフィス不足」に悩まされ続けた大阪オフィス賃貸市場は歓迎ムードだ。停滞していた企業の移転ニーズを喚起する起爆剤として仲介会社をはじめとする市場関係者は大いに期待している。またテナント側にとってもWeWorkのような高品質なサービス、ファシリティを提供するコワーキングスペースを利用するのはメリットが大きい。一般的な賃貸借契約では内装造作費や保証金、原状回復費等の費用負担が大きいが、コワーキングではこれらの費用がかからない。施設利用料は坪単価比で相場よりも高いとされるが、これらの費用を丸ごと軽減できるとなれば長期的に見てもテナント側のメリットは大きい。契約形態によっては本社として登記することも可能だ。

コワーキング事業者に一棟貸しすることによる退去リスクを敬遠するビルオーナーは少なくない。また施設利用者が参画するコミュニティの存在が魅力となるWeWorkのビジネスモデルが日本の文化にそぐわないとの意見もあるが、利用者は個人起業家から大手企業のサテライトオフィスまで幅広く、需要の底堅さがうかがえる。

WeWorkが絡む不動産投資については2018年12月にはWeWorkが一棟借りした「WeWork乃木坂」(東京・港区)をジャパン・プライベート・リート投資法人が取得した事例や、同じくWeWork一棟借りの「The Iceberg」(東京・渋谷区)を外資コアマネーが取得した事例が挙げられる。今後の成長が期待できるコワーキングは多様な投資機会を提供することになり、大阪不動産マーケットのさらなる活性化に寄与するはずだ。

今後の展望

2025年の開催が決定した大阪万博、IRの誘致に注力するベイエリアを中心に不動産投資マーケットのさらなる活況が予想される大阪。鉄道を主体とする都市インフラの整備計画も目白押しとなり、中心市街地から離れたオフィスにも投資家が目を向ける等、投資マーケットは面的な広がりを見せている。これまで以上に魅力的な投資機会を発掘できそうだ。
(JLL日本 関西支社 キャピタルマーケット事業部 ディレクター 秋山 祐子)

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