記事

建築分野にデジタル化の波が押し寄せている

テクノロジーによってイノベーションを創発し、労働生産性を高める動きが拡大している。金融業界におけるフィンテックを筆頭に、不動産業界の不動産テック、農業のアグリテックや教育分野のエドテック等が知られるところだ。そうした中、建築分野でもテクノロジーを活用する動きが本格化している。

2019年 02月 19日

人手不足を背景に建設業界でデジタル化進む

56兆円(2017年度)もの巨大市場を誇る建設業界にデジタル化の波が到来している。「建設テック(ConTech)」と呼ばれるこの動き。背景にあるのは「人手不足」だ。総務省の「労働力調査」によると、建設業就業者数はピーク時の685万人(1997年)から見ると、2017年は72.7%の498万人。2010年以降、建設投資額は上昇を続けているものの、就業者数は横ばいで推移している。また、建設業就業者数における55歳以上の割合は34.1%(全産業の平均は29.7%)、29歳以下は11.0%(全産業の平均は16.1%)となり、高齢化も深刻だ。

この問題を重く見た国土交通省はITテクノロジーを活用して労働生産性の向上を図る取り組みを進めている。2016年度より土木・建設業を対象に、ICT等を積極的に採用し、建設生産システム全体の生産性向上を目指す「i-Construction」の導入を推進。この結果、スーパーゼネコンを中心に先進的なテクノロジーの導入実績が目に見えて増えてきている。例えば、清水建設はロボットと人が協働する次世代型生産システム「Shimz Smart Site」の開発に着手し、新大阪で現在建設中の高層ホテルに一部ロボット施工を導入する。また、大成建設は2017年度よりICTの活用を軸とした生産性向上と技術革新へ取り組む「TAISEI i-Innovation」の全社展開を開始した。そして2018年6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」においてi-Constructionを建築分野にも拡大させる方針を打ち出し、スタートアップが提供する建築関連のテックサービスも拡大中だ。

IT投資の増加率は建築・土木がトップ

建築関連のデジタル化の動きは足元の数字にも表れている。一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会が2018年4月に発表した「第24回企業IT動向調査2018(17年度調査)」(以下、同調査)によると2017年度計画におけるIT投資のDI値(予算増-減)が最も高い分野が「建築・土木」だった。18年度予測でも引き続き高グループに入るという。ちなみに17年度計画ではIT予算を10%以上増加させると回答したのは43.6%、10%未満増加が18.2%。実に60%超が予算増加を計画しており、デジタル化が急速に進んでいる業界であることが窺い知れる。建築物の開発やオフィス内装工事等のプロジェクトマネジメント(PM)を手掛けるJLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部 光元孝行は「人手不足が喫緊の課題となっている建築業界ではデジタル化による生産性向上を図る動きがこれまで以上に顕著になる」と予測している。

企業が重視するテクノロジー1位はAI

また、同調査では「企業が最も重視するテクノロジー」について質問しており、1位はAI、2位IoT、3位各種クラウド、4位ビッグデータ、5位RPAとなった。いずれも「生産性の向上」や「新規ビジネスの創出」、「営業力の強化」の実現を目的とした回答だという。この中で、重要なのは4位ビッグデータといえそうだ。AIを駆使したスーパーゼネコンのロボット施工などは、まさに技術の結晶といえるが、AIが得意とするディープラーニングの精度を左右するのはデータ量に他ならない。光元は「豊富な建築データを保有していながらも紙ベース、個人ベースで管理していたため、せっかく蓄積してきたデータが死んでいた。今後は業務のシステム化によってデータ管理の精度が高まり、ビッグデータとして有効活用されるだろう」と予想している。「企業が最も重視するテクノロジー」の1位-5位には入らなかったものの、分散したデータを一括統合し、利用可能なデータに再構築する技術「マスターデータ管理」が16年度調査比で最も伸び率が高かったという結果はデータの重要性を示唆している。

データベースの整備が基本

JLLではプロジェクトマネジメントの一連の業務過程において、ほぼすべてデジタル化を完了している。PMの業務フローは①プロジェクトの立ち上げ、②計画、③デザイン、④工事、⑤クロージング(引き渡し)となり、業務単位ごとのシステムをつなぎ合わせて統合管理することが可能だ。①では取引管理やリスク分析、ガバナンス、請求書管理、売上管理などがデジタル化できる。②ではリソース管理と資本計画をプラットフォームに統合し、書類や財務管理、スケジューリング等をデジタル化する。③は調達プロセスのデジタル化、④はVRやARを駆使したプラットフォームの運用が該当する。人の手で対応するのは⑤のクライアント満足度調査を残す程度だ。各業務をシステム化することで、業務プロセスごとにデータ収集が可能になる。例えば、内装工事においてグレード・仕様・規模に応じて工事見積もりをデータベース化すれば、最終的に平均的な施工コストを割り出すことが可能になる。コスト以外のビッグデータ化も可能だ。

これまで紙ベースで管理され、有効活用がなされてこなかった各種データが「生き返らせる」ことができるのだ。光元は「個別業務の効率化を進めつつ、各システムから収集したデータを一元管理し、サービス向上などに繋げていくことが重要」との認識を示す。例えば、特定工事の平均コスト・工期を瞬時に導き出すことができれば、クライアントの意思決定の後押しにもなる。新たなソリューションを開発・提供することができる。

デジタル化の波に乗り遅れれば淘汰される可能性は決して低くはない。